猫が母になつきません 第335話「かからない」
「青くて革でできててペタンコのカバンよ!」「毎日使ってたでしょ!」。いえ、使ってません。毎日使っていたのはこれでしょ、と母のカバンを見せても、もうひとつ青いのもあったと言い張ります。「中に大事なものが全部入ってたのに!警察にとどけなきゃ!」。認知症によくある「せん妄」といわれる興奮状態(※)で、家中の引き出しやタンスをぐちゃぐちゃにしていく母。「じゃあ、中に入っていた大事なものって何?」と聞くと「財布と…手帳…鍵と…」。「ほらここに全部あるじゃない」と見せて確認すると少し落ち着いたものの、やっぱり青いカバンを探そうとする。こんな時、強く言うとストレスになって認知症が一気に進むらしいので、ゆっくり催眠術をかけるように言ってみる。「そのぉー、青いカバンはぁー、存在ぃー、しなーい」「どういうこと?」「あなたのぉー、頭のぉー、中にしかー、ないからー」。母の脳みそにじんわり浸透するように言ってみましたが効果なし。結局母が電池切れするのを待つしかありませんでした。ストレスの原因を母自身が次から次に生み出し、それがまた認知症を進行させる負のループ。ネットで「催眠術 マスター」を半分本気でぐぐってみたりする。
※せん妄は、軽度の意識障害で、認知症だけではなくさまざまな原因によって発症します。
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作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。