認知症を遠ざける食生活【地中海式食事法+牛乳】のレシピ
30年ほど前、日本を含めた先進国の平均寿命が80歳に近づきつつあるとき、アメリカ人の平均寿命は72〜73歳で、他国に比べて6年ほど短かった。短命であれば脳に老廃物がたまる前に寿命を迎えるため、認知症にかかりにくいはず。しかし当時のアメリカ人のアルツハイマー型認知症の有病率は高く、患者数も多かった。
その一因が食生活にあるのではと考えた米国コロンビア大学は、ニューヨーク在住の2000人以上を対象に、長期にわたる大規模な追跡調査を行なった。研究では、肉と甘い清涼飲料の摂取量が多い当時のアメリカ式の食生活を『地中海式食事法』に切り替えてもらい、それを続けられたら研究協力金を支払うというもの。
このとき推奨した「地中海式食事法」のポイントは次の通り。
●肉を食べる回数は月1〜2回(不飽和脂肪酸の摂取量を減らす)。
●甘いデザートは週1〜2回(エネルギー摂取量を減らす)。
●主食のパンや米、パスタなどは毎日摂る。
●魚や野菜を多く摂る。
●油はオリーブオイルに切り替える。
●牛乳や乳製品を毎日摂る。
この研究を紹介してくれたのは、これまで脳神経外科医として3万人以上の認知症患者の診療にあたってきた奥村歩先生(おくむらmemoryクリニック院長)。
「研究の結果、地中海式食事法を続けた人では認知症になりにくいことがデータにはっきりと表れました。地中海式食事法の内容を見てみると、伝統的な和食とよく似ています。ただ、和食は塩分が多いこと、カルシウムの摂取量が少ないのが弱点です。味付けを工夫して減塩するとともに、毎日の食事にコップ1杯の牛乳を加えてカルシウムを補給するとよいでしょう」(奥村先生)
日本で行われている「久山町研究」でも1988年からの17年間の生活、60歳以上の高齢者の生活を分析したところ、牛乳や乳製品の摂取量が多い人ほどアルツハイマー型認知症を含めた認知症の発症率が低かったという結果が報告されている。
牛乳を飲むベストタイミングは「夜寝る前」
奥村先生は、カルシウムは2つの意味で認知症予防が期待できると言う。
「脳は夜、寝ている間に休息するとともに、メンテナンスされます。それがうまくできないと認知症になりやすいのです。このメンテナンス作業をサポートするのがカルシウムの役割。ですから認知症予防のためには、夕方から夜寝る前までにコップ1杯の牛乳を飲むのがよいと考えられます」
寝る前に牛乳を飲むことは、骨粗しょう症の予防にもなる。就寝中は骨からカルシウムが溶け出しやすい時間帯。その前に体内のカルシウム濃度を高めておくことで、骨が弱くなるのを防げるからだ。
「骨粗しょう症になると体を動かしにくくなったり、骨折のリスクが高まったりして認知症のリスクは格段に高くなります。そうならないために、カルシウムをしっかり摂って骨粗鬆症を予防することが大切です」
牛乳のうまみとコクで減塩をサポート
そこで、牛乳にオリーブオイルや魚、野菜などを組み合わせて、簡単でおいしく「地中海式食事法」を実践できるレシピを管理栄養士・料理家の中津川かおりさんに教えてもらった。
「牛乳は100gあたりのカルシウム含有量が110mgと豊富ですし、筋肉や全身の細胞をつくるのに欠かせない良質なたんぱく質も含まれているので、高齢者だけでなく、子供や中高年の方にも積極的に摂ってほしい食材です。
また、牛乳にはうまみやコクがあるため、スープや煮込み料理の出汁がわりに使うと、減塩しても、もの足りなさを感じにくいんですよ」(中津川さん)
チキンとトマトのミルクリゾット
【材料/2人分】
牛乳…150ml
にんにく…1/2片
玉ねぎ…1/4個
鶏もも肉(皮なし)…1/2枚
トマト缶(角切り)…100g
ごはん…軽めに茶碗2杯
オリーブオイル…大さじ1
固形コンソメ…1個
水…150ml
塩・こしょう、パセリのみじん切り…適量
【作り方】
【1】 にんにく、玉ねぎはみじん切りにする。
【2】 鶏もも肉は一口大に切り、塩・こしょうで下味をつける。鍋にオリーブオイルを熱し、鶏肉を炒める。鶏の脂が出てきたら(1)を加えて炒め、透き通ってきたらトマト缶を加えて炒める。
【3】 トマト缶の水分が減ってきたら水と固形コンソメを加えて3〜4分煮る。
【4】 鶏肉に火が通ったら水洗いしたごはんと牛乳を加えて好みの固さまで煮て、塩・こしょうで味をととのえ、パセリを散らす。
「牛乳のうまみとコクを活かして、塩分を控えめにしました。鶏肉を炒めてから煮ることでうまみがさらにアップ。トマト缶は水気がなくなるまで炒めることで酸味が減り、甘みが増しておいしくなります」(中津川さん)
サーモンときのこのクリーム煮
【材料/2人分】
牛乳…200ml
玉ねぎ…1/4個
しめじ…1/2袋
ブロッコリー(ゆでる)…4房
サーモン…2切
オリーブオイル…小さじ2〜大さじ1
白みそ…小さじ1
小麦粉…大さじ1
塩・こしょう…適量
【作り方】
【1】玉ねぎは薄切りにし、しめじは石づきをとって小房に分ける。
【2】 サーモンに塩・こしょうで下味をつけ、小麦粉を薄くつける。フライパンにオリーブオイルを熱してサーモンを焼く。
【3】フライパンの空いているところに(1)を入れ、小麦粉が残っていたらふりかけて炒める。
【4】 野菜がしんなりしたら牛乳を加え、ときどき混ぜながら煮る。みそを溶き入れ、とろみがついたら器に盛り、ブロッコリーを添える。
「みそは牛乳と相性のよい調味料。サーモンの煮込みにはバターを使うことが多いですが、みそを使えばバターなしでも味に奥行きが出ます」(中津川さん)
カレーミルクチャウダー
【材料/2人分】
牛乳…200ml
キャベツ、玉ねぎ、にんじん…各50g
じゃがいも(小)…1個
ショルダーベーコン…1枚
オリーブオイル…大さじ1
カレー粉…小さじ1
小麦粉…小さじ2
水…200ml
固形コンソメ…1個
塩・こしょう…適量
【作り方】
【1】 キャベツ、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、ベーコンを1cm角に切る。
【2】 鍋にオリーブオイルを入れて温め、(1)を炒める。全体に油がなじんだらカレー粉と小麦粉を加えて炒め、水と固形コンソメを加えて野菜が柔らかくなるまで煮る。
【3】牛乳を加えて、塩・こしょうで味を調える。
「野菜がたくさん摂れるお手軽なスープ。牛乳とカレーの風味がしっかり効いているため、塩分控えめでも物足りなく感じません」(中津川さん)
ミルク餅
【材料/4人分】
牛乳…250ml
砂糖…大さじ3
片栗粉…大さじ3
きなこ、黒蜜…適量
【作り方】
【1】 小鍋に牛乳、砂糖、片栗粉を入れてよく混ぜ、中火にかけて木べらでしっかり混ぜながら加熱する。
【2】 粘りが出てきたらかき混ぜるスピードを速め、全体がなめらかになってから1分間そのまま混ぜる。
【3】 火からおろし、水で濡らしたバットに(2)を流して常温で冷ます。冷めたら包丁で食べやすい大きさに切り、きなこと黒蜜をかけていただく。
「子供やお年寄りでも食べやすいように柔らかく、口に入れてすぐにとろけるような食感に仕上げました。油脂やクリームを使わないヘルシーなスイーツ。牛乳のカルシウムやたんぱく質に加えて、きなこの植物性たんぱく質、黒蜜のミネラルも摂れます」(中津川さん)
レシピを教えてくれた人
中津川かおり/管理栄養士、SAKURA DELI オーナー。福島県出身。東京家政大学大学院にて食物栄養学専攻修了。レシピ・商品開発、メディア出演や著書・出版も多数手がける。管理栄養士・料理家・母親として「家族の健康は家庭の食卓から」をモットーに、身近な食材で作りやすいレシピ提案を心がけている。現在は、目黒駅前に野菜を食べるにこだわった弁当・惣菜店SAKURA DELIをオープン。野菜はすべて生野菜から手切りで仕込み、無添加の安全・安心な商品で人々の健康を食で支援している。著書に「太らない!ただいまご飯(宝島社)」、「サラダ定食(中日映画社)」他多数。http://sakuradeli.com/
構成・文/市原淳子
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