介護施設、職種間でヒエラルキーは実在するのか?現役介護職員が明かす実態
介護施設には介護職や看護職などさまざまな職種の人たちが働いているが、それぞれどんな役割をしているのだろうか?立場や資格によって人間関係はどのようになっているのか――。介護現場で働く介護ブロガー・たんたんさんこと深井竜次さんが、職種間の格差や職場内のヒエラルキーについて考察。介護の仕事をする人だけでなく、介護施設を利用する家族にとっても施設の職員を知るヒントが満載!
介護施設で働く人たちの人間関係を考察
介護士ブロガーのたんたんと申します。7年間介護現場で働いてきて得た経験や知見をもとに、「多くの介護士さんが幸せな働き方を実現できるように」という思いでサイト運営をしています。
介護ポストセブンでもこれまで僕が介護現場で経験した出来事や学びを、「介護士さんをはじめ介護にかかわる方の参考になれば…」と思って記事を書いています。
今回は「介護施設で働くさまざまな職種の働き方や関係性について」について考えてみたいと思います。
ある知人から「介護士と看護師など職種の違いや資格の有無によって、格差やヒエラルキーはあるのか?」と聞かれたことがあります。たしかに、立場が異なる職種の人たちがどのような関係で、どんな風に利用者とかかわっているのか、気になる方も多いと思います。
そこで今回は、実際に介護職として働いている筆者が「実際のところどうなの?」ということを掘り下げて読者の皆様に共有したいと思います。
1.介護施設で職種によるヒエラルキーは存在する?
介護施設ではさまざまな職種の人が働いています。
介護士、看護師、ケアマネジャー(介護支援専門員。以下、ケアマネ)、相談員、作業療法士など、仕事をするうえでそれぞれの職種の人たちが連携して介護サービスを提供しています。れぞれ仕事の内容も保有する資格も違います。また、介護士の中にも、資格を持つ人と持たない人、正社員、パートで働く人、僕のように夜勤専従で働く人などさまざまな勤務形態があります。
まず、介護施設で働く職種の仕事内容を簡単に解説します。
介護職のスタッフは、利用者の介助全般を担当します。医療的ケアはできないため、看護職の方にお願います。一般的に介護職は1人が複数の利用者を担当し、介助にあたることが多いです。
看護職は、利用者の体調が優れない場合の医療的な処置のほか、食事介助や身体介助など、介護士と同じ仕事をすることもあります。
ケアマネは、利用者のケアプランの作成や担当者会への参加や家庭への訪問をして調査をすることもあります。相談員は、利用者や家族と直接コミュニケーションを取り介護の状況を把握し、介護事業者と行政をつなぐ役割もあります。
また、作業療法士や理学療法士は、利用者のリハビリなどを担当します。このように、それぞれ専門とする仕事をこなし、連携して利用者さまのケアをしています。
介護現場では、他職種の人たちが連携して1つの目標の達成を目指すことが多いです。ケアマネが立てたプランを目標として、利用者さまのケアをしていく中で、職種間でヒエラルキーを感じていては、目的達成をするのに大きな障害になります。
僕がこれまで特別養護老人ホームや介護老人保健施設(老健)などいくつかの施設で働いてきましたが、職種間でヒエラルキーを感じたこともありませんし、特定の職種がほかの職種を見下しているといったこともありませんでした。しかし、これはあくまで僕が働いてきた環境が人に恵まれていたからかもしれません…。
2.介護施設で看護職は介護職よい偉いのか?
介護士は基本的に複数の利用者を担当制でケアしていることが多いのですが、稀に介護スタッフの人手が足りないときや、状況などによっては、看護職の方が利用者の介助をすることもあると思います。
施設によって事情はさまざまですが、看護師さんから身体介助を受けたことがあるという利用者さんもいると思います。僕が働いている施設では、看護師が介護士のように利用者さまの担当を受け持つことはないのですが、医療行為をしたときに合わせて排泄ケアなどの身体介助をすることはあるかもしれません。
なお、看護職は介護職よりも給与水準は高い傾向にあります。しかし、ここ数年で介護職の処遇改善が進められ、介護士の給与は上がってきています。厚生労働省の調査結果※1によると、介護施設で働く介護食員の月給は、1年前の給与と比べると7380円アップしていて、差額に関して言えば看護職員を上回っています。とはいえ、ほかの職種に比べて介護職の給与水準が低いのが現実です。
※厚生労働省「令和3年度介護従事者処遇状況等調査」介護職員の平均給与額の状況(月給・常勤の者、保有資格別)(統計表第98表)より。
医療ドラマなどでは、病院内のヒエラルキーや格差が描かれていることもあります。僕自身は感じたことはないのですが、かつて介護業界でも「看護師は介護士よりも偉い」という風潮はあったと聞いたことはあります。知人が働いていた介護施設では、看護師が日常的に介護士を見下したような言動をしているということがあったとのこと。
その職場では、どの職種でも給与水準が低く、看護師と介護士の給料がほとんど変わらなかったそうでそうです。
これはなにも看護師と介護士の問題だけでないと思いますが、劣悪な労働環境や待遇面に不満を持つ職員が多いと、溜まったフラストレーションを「相手を見下す」といった態度で発散するという人が出てくるのかもしれません。
3.資格による格差はあるのか?
役職や資格に固執している人は稀にいるように感じます。しかし、それはあくまで職場における役割分担であり、どちらが偉いということもないと思います。
ただし、資格の有無によって待遇面の格差はあるかもしれません。
介護職の人には、「資格をもっていない人」「初任者研修(旧ヘルパー2級)を持っている人」、「実務者研修(旧ヘルパー1級)を持っている人」、「介護福祉士(国家資格)を持っている人」などがいますが、資格を持っているほうが給与は高くなります。
実際、厚生労働省の調査※によると、有資格者ほど勤続年数が長くなり、給料が高いことがわかります。資格なしの人と資格ありの人では、約4万円の差が出ます。
※厚生労働省「令和3年度介護従事者処遇状況等調査」介護職員の平均給与額の状況(月給・常勤の者、保有資格別)全事業所(統計表参考第23表)より。
【まとめ】ヒエラルキーや格差が存在する職場に未来はない
介護の仕事をするうえで、職場の人間関係を良好に保つことは絶対に必要なことだと僕は考えています。人を見下したりして人間関係が壊れてしまうと、結果的にサービスを受ける利用者に不利益が生じてしまう可能性もあります。
職種によって担当する仕事はまったく違いますし、それぞれ専門的な仕事をしているので「「どちらの職種が価値のある仕事をしているのか?」という優劣はないはずです。
また、利用者にとって職員との相性の良し悪しはあるかもしれませんが、「あの介護士は資格がないから嫌だ」というケースも聞いたことがありません。
介護施設が長期的に安定した経営を行うには、新たな人材が入ってきたときに職場に定着してもらう必要があるため、その動きを阻害する要因となるものは排除する必要があります。
介護施設だけでなく、ほかの業種でも同じだと思いますが、人を見下すような発言をする職員を指導、処分することなく「人手不足だから」という理由で放置しているような職場なら、転職を考えたほうがいいかもしれません。職種間の人間関係がよくない介護施設は、利用者さんにとっても居心地が悪いのではないか。介護業界だけでなく、どんな立場の人でも働きやすい職場が生き残っていくと僕は考えています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
文/たんたん(深井竜次)さん
島根県在住。保育士から介護士へ転職し、介護士として勤務。主に夜勤を中心に介護施設で働きながら介護士の働き方について綴ったブログ『介護士働き方コム』を運営。著書『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)が話題に。