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暮らし

突然始まる介護で慌てないための「介護のロードマップ」4つのステップを解説

「介護は、ある日突然やってきます」と語るのは、家族介護者のサポート活動を続けるNPO法人UPTREE代表の阿久津美栄子さん。介護が気になる人、介護中の人に向けて、知っておくべきことを教えてもらった。来たるべき介護に備えるために大切な「介護のロードマップ」を紹介する。

介護に関する知識と情報を知っておく

 私自身、介護のことを他人事のようにとらえていました。でも、介護はある日、突然やってきます。私の場合は38才という比較的若い年代の時に、両親の遠距離介護という現実に直面しました。しかも、当時の私は子育て中でもありました。

 何の知識も経験もないまま突然、両親の介護が始まった上、その先に待ち受けているのは死という現実です。また、介護がいつ終わるのかもわかりません。 両親の介護をしていた時の私は、ストレスと疲労によって、味覚障害が起きていました。こうした自分自身の経験を通して痛感したのは、事前に介護に関する知識と情報を持っていることの大切さです。

 たとえば、介護保険の仕組みや病気に関する理解、困った行動への対処法、介護にかかる費用など、前もって知識と情報を仕入れておけば、ある程度の余裕を持って介護に向き合うことができます。その余裕は残された親子の時間を有意義なものへと変えてくれるはずです。

■介護が始まったきっかけ

介護をひとりで抱えこまない

 介護が始まると、特に主たる介護者になった人は介護のことで頭がいっぱいになり、社会から孤立してしまうといわれています。実際、私は介護の愚痴を友人や夫にこぼしても理解してもらえず、孤独感を感じていました。この孤独感を解消するためには、“自分の居場所”をつくることが必要です。

 ひとりで抱え込まずに、介護という同じ時間を共有できる人や悩みを吐き出せる場所を持つことが大切なんです。

介護される側にも自衛の意識が必要

 2025年の日本では、あと37万人の介護職員が必要になるといわれています。つまり、2025年以降は現在と同じレベルの介護サービスを受けられなくなるということ。

「介護保険制度を使ってヘルパーさんをお願いしよう」と思っても、頼めるヘルパーさんがいない、という事態が生じることも十分に考えられます。

 教育制度や労働支援制度など社会にはいろいろな制度がありますが、そもそも制度には自ら動いて活用するという側面があります。

 しかし、不思議なことに介護保険制度に関しては、要介護者は「やってもらって当然」という姿勢になりがちです。まず、この意識を変えなければなりません。

 自分が要介護者となった場合、自宅での介護を希望するのか、施設に入所するのか、看取りの時期はどこでどのように過ごすのか、延命措置はするのか、しないのか――。

 65才以上の人は、自分の介護について自ら学び、備え、家族に伝え、さらに全員で同じ情報を共有しておくこと。そうしなければ、介護によって家族が崩壊してしまう可能性すらある時代がすぐそこまでやって来ています。

介護のロードマップで流れを把握する

 来るべき介護に備えるためのひとつの方法として、私が2013年に立ち上げた介護者をサポートするNPO法人UPTREEでは、介護の初期から看取り期にいたるまでの「介護のロードマップ」を作成しています。

「介護のロードマップ」は、混乱期、負担期、安定期、看取り期と4つのステップに分かれています。

 いつ、どのような状況になるか、「介護の始まりから介護の終わりまで」、時間の流れを知っておくことが大切なのです。

■介護のロードマップ

介護の段階|ステップ1「混乱期」→ステップ2「負担期」→ステップ3「安定期」→ステップ4「看取り期」

要介護者の状態|ステップ1「急性期・異変の発覚」→ステップ2「介護初期・残存能力大」→ステップ3「症状進行期・残存能力小」→ステップ4「終末期・別れの時」

介護者の気持ち|ステップ1「混乱・否定」→ステップ2「疲労・絶望」→ステップ3「割り切り・受容」→ステップ4「絶望・否定」

必要な準備|ステップ1「介護申請、主介護者決定」→ステップ2「進行の抑制、住環境整備」→ステップ3「施設探し・入居」→ステップ4「延命治療、遺産相続」

介護の場所|ステップ1「在宅、病院」→ステップ2「在宅、介護施設」→ステップ3「在宅、介護施設」→ステップ4「介護施設、病院、在宅」

ステップ1:混乱期「家族の日常が突然変化する」

 健康であることが当たり前だった家族の日常は、介護によって突然、変化します。家族は、「どうして歩けなくなったの?」、「なぜ、話せなくなったの?」と、要介護者の様子が変わっていることに戸惑うばかりで、なかなか現実を受け入れることができません。変化を受容するには、それなりの時間が必要です。

 特に、認知症の要介護1~2では、介護者側が混乱し、精神的に大変な負担がかかるといわれています。介護が始まると日々、刻々と変化する状況に対応することで精一杯になって自分の状況を客観的に把握することも難しくなり、一層の混乱に陥ってしまいます。

ステップ2:負担期「疲労と絶望がつのっていく」

 要介護者、介護者ともに疲労感が出てくる、一番きつい時期です。

 要介護者の身体的能力が低下しているため介護に割く時間が多くなり、介護者の負担感は増します。その結果、心身ともに疲弊して絶望的な気持ちにとらわれてしまうのです。

 また、要介護者である親は、生まれて初めて未来がない状況や死の恐怖に直面しています。しかし、それを介護者である子どもに伝えることはできません。

 介護者である子どもが大きな負担を抱えながら過ごす毎日は、怒りや苦しみといった感情との戦いの日々でもあります。

こうした限界ギリギリの精神状態の中では、兄弟姉妹間のトラブルが起きやすくなる傾向があります。

ステップ3:安定期「割り切りと受さ容がもたらされる」

 介護を始めたばかりのかたの中には、「本当に安定期が来るのでしょうか?」と疑問に思われるかたも少なくありません。しかし、安定期は必ずあります。

 というのも、要介護の区分が3~5になると、要介護者は自力でできることが少なくなり、ひとりで過ごすことが難しくなるからです。

 そのため、施設や病院へ移るという選択が生じます。この頃になると介護者には割り切りの気持ちが生まれ、要介護者の状態を受容できるようになります。

 施設や病院に入ることで要介護者と介護者の間に物理的な距離が生まれると、心身ともに余裕ができて安定します。実際、「要介護者の親と離れたことで安心感をもつことができた」とおっしゃるかたはたくさんいらっしゃいます。

 この時期は、要介護者と意思疎通ができる最後の機会だととらえ、家族で最後の日々をどう過ごすかを話すことをおすすめします。

ステップ4:看取り期「別れの期間が訪れる」

 介護の始まりと同様に、介護の終末期もある日、突然やってきます。

 介護者は看取りの時間に再度、「否定」と「絶望」を味わうことになります。大切な家族との別れはつらく悲しいもので、「否定」したくなるのも当然のことです。

 介護のゴールは、親とのつらい別れの日でもあります。この避けられない事実を受け入れ、要介護者も介護者も、家族全員が充実した日々を過ごせるようにすること。これが「介護のロードマップ」の大きな目的です。

介護の罪悪感を少しでも軽減するために

 なぜ、「介護のロードマップ」を作成したのかというと、私自身、看取り期を意識していなかったがゆえに、両親の介護に対して罪悪感が残っているからです。

 介護が終わった後、介護者は必ず罪悪感を覚えるものです。ただし、「介護のロードマップ」を知った上で介護に臨んだUPTREEのスタッフの大半は、自分の行った介護にある程度、納得をしているため、罪悪感は比較的、軽く済んでいるようです。

 介護のゴールは看取りであり死別である。そう認識すると、時間が無限ではないことがわかり、限られた時間を大切にしようという気持ちが芽生えてくるのです。

教えてくれた人

阿久津美栄子さん

NPO法人UPTREE代表。1967年長野県生まれ。自身の介護の経験から、2013年、介護者をサポートするNPO法人UPTREEを立ち上げる。企業研修など行うほか、介護の記録をサポートする「認知症の家族のための介護者手帳」も発行。著書に『ある日、突然始まる 後悔しないための介護ハンドブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)https://uptreex2.com/

初出:女性セブンムック 介護読本Part2 ~人生100年時代 親・家族・自分のことをみんなで考える~ 

取材・文/熊谷あづさ 「介護のロードマップ」監修/NPO法人UPTREE

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