長生きするには「口腔内ケア」を!怖い病気を招く歯周病のこと
年齢を重ねるほどに気になってくる口の中のあれこれ。最近では、口の中の健康が、全身の健康を維持するために重要なことがわかってきた。いつまでも元気で長生きするためには、正しい食生活や運動も大切だが、真っ先に取り組むべきは“歯のケア”だった。
他の臓器と同様に、口の中も加齢により変化する。だからこそ、年齢に合ったケアが必要と話すのは、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野教授の水口俊介さんだ。
「一般的に中高年になると唾液の分泌量が減少します。唾液には口の中の食べかすなどを洗い流す自浄作用や、細菌の繁殖を抑える抗菌作用、飲食で酸性に傾いた口腔内を中和させて虫歯を防ぐ作用などがあります。唾液の分泌量が減ると虫歯になりやすく、歯周病の悪化にもつながります」(水口さん・以下同)
閉経を迎える50~60代は、若い頃に比べて免疫力も下がり、虫歯になりやすいという。特に、注意したいのが歯根の周辺だ。
「歯周病の人だけでなく、健康な人でも歯茎は年齢とともに下がります。歯が口の中に露出している歯冠部分は酸に強いエナメル質ですが、歯茎が下がって露出した象牙質の歯根がむき出しになってしまうため、虫歯ができやすいのです」
さらに近年は、口腔内の機能低下が体のあらゆる部分に先がけて起こることがわかってきた。人間の老化は足腰ではなく口の中から始まるというのだ。なぜ口腔内状態が全身に影響を与えるのか見ていこう。
あなたのお口の健康をチェック!
□歯間に食べ物がつまりやすい
□歯茎から出血することがある
□歯科で定期的にクリーニングを受けていない
□寝る前に歯磨きをしない
□喫煙している
※チェックした数が多いほど、口の中の健康に問題がある。1つでも当てはまったら歯科を受診して歯のケアを始めて。
女性は12年以上も介護が必要に!
介護を受けたり、寝たきりにならずに日常生活を送れる期間を示す「健康寿命」。厚生労働省によると、16年の健康寿命は男性が72.14才、女性が74.79才。平均寿命との差は男性8.84年、女性12.35年もあり、その差が要介護期に当たるため、女性の場合は12年以上も何らかの介護が必要になる計算だ。
衰えは口の中から全身へ広がっていく!!
【第1段階】社会性/心のフレイル期
●口の健康への意識が低下する
口の中や健康への関心が低下し、健康に関する情報等を得ようとする気持ちがなくなり、口内環境が悪化。歯周病などにより歯を失う。社会へ参加する気持ちも薄れ、うつ傾向が見られることも。
虚弱度:健康
【第2段階】栄養面のフレイル期
●口の中のささいなトラブルが多発
歯を失うことにより、滑舌の低下や食べこぼし、わずかなむせや、噛めない食品が増加し、食欲が低下。食べられる食品が限られてくることもある。
虚弱度:前虚弱(プレ・フレイル)
【第3段階】身体面のフレイル期
●口の機能が衰え生活機能も低下
咬合力(噛む際の力)や舌の運動力の低下、食べる量の低下によって、低栄養や代謝量の低下を招く。ロコモティブシンドローム(運動器症候群)やサルコペニア(加齢や疾患で筋肉量が減少)に。
虚弱度:虚弱(フレイル)
【第4段階】重度フレイル期
●食べる機能の障害が起き介護が必要な状態に
摂食嚥下障害や咀嚼機能不全になり、フレイルや要介護に。
虚弱度:身体機能障害(要介護)
人間の老化は口の中から始まる
2014年に国立長寿医療研究センターが発表した口腔機能の低下を示す“オーラルフレイル”という考え方をご存じだろうか。
“フレイル”とは、高齢者の身体機能や認知機能が低下して虚弱になった状態で、要介護の予備軍とされる。そうした身体的な機能低下の中で口腔内のそれを“オーラルフレイル”といい、全身の機能低下の中でも早い段階で起こることがわかっている。そして、これを予防することこそ、健康寿命を延ばすことにつながると、前出の水口さんは言う。
「高齢になると、生活の広がりや活動力が低下するだけでなく、口の健康への関心度も低下します。そのまま放置しておくと、虫歯や歯周病になり、歯周病が進行すると歯が抜けてしまいます」(水口さん・以下同)
上の図は口腔機能と身体機能の衰えの過程を示したものだが、口の中の健康への意識の低下が全身の機能低下につながることがわかる。
虫歯や歯周病になると、野菜や果物、肉や豆類などの硬いものが食べられなくなり、体内の栄養素も不足。最終的には摂食嚥下(えんげ)障害や咀嚼(そしゃく)機能不全が起こり、体の筋肉量も低下するため、次第に介護が必要な体になっていく。
さらに恐ろしいのは、歯周病を放っておくと全身疾患につながることだ。厚生労働省によると、2014年の歯肉炎及び歯周疾患の総患者数は331万5000人で、歯周病の有病率は30~50代で約8割、60代では約9割にもなり、もはや国民病といっても過言ではない。
そして口の中の歯周病菌は、血液にのって全身へと巡り、糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞、誤嚥性肺炎、がんなど全身疾患の原因になるといわれ、特に歯周病の人は糖尿病を悪化させやすいこともわかっている。
「糖尿病のガイドラインで、“かかりつけの歯科医を持って歯周病の治療をするように”と書いてあるほどです」
歯周病の原因
白くネバネバしたプラークは歯周病菌などの細菌のかたまりだが、やわらかいので歯磨きで取り除ける。プラークを磨き残しで取り除けずに放置すると、やがて硬い歯石に。歯石になると歯磨きだけでは除去できない。
歯周病になると歯が抜け落ちる!
歯周ポケットにプラークや歯石がたまり、菌が繁殖して炎症を起こす。歯肉の腫れや出血を起こすが、大した自覚症状のないまま進行し、やがて歯槽骨が溶けて歯が抜ける。
こんなに怖い!歯周病は全身の病気に影響
●脳梗塞
●認知症
歯を欠損し、脳に噛む刺激がいかなくなると、認知症を引き起こす一因に。歯周病の人は脳梗塞に2.8倍なりやすいともいわれる。
●誤嚥性肺炎
のみ込む力が低下し、食道へ入るべき食べ物などが誤って器官や肺に入ってしまうことで発症する肺炎。その原因となる最近の多くは、歯周病菌であるといわれる。
●心筋梗塞
●狭心症
歯周病菌が全身へ運ばれ、動脈で炎症を起こすと動脈硬化の原因に。それが進行すると狭心症や心筋梗塞を引き起こすリスクを高める。
●早産
妊婦の場合、歯周病が早産や低体重児出産などの引き金にもなる。
●関節リウマチ
関節リウマチがあると歯周病が進行。その逆もあり、関節リウマチと歯周病には、相互関係があることがわかっている。
●全身疾患
・糖尿病・動脈硬化・メタボリックシンドローム・骨粗しょう症・がん
骨粗しょう症の人は歯周病のリスクが高く、重度の歯周病はがんのリスクを高める。
※歯周病と全身の病気については、富沢歯科医院・富沢直基氏監修
自分の歯に合った磨き方を習慣に
では、健康寿命を延ばすには、どうしたらよいのか。
「まずは、正しい歯磨き習慣をつけること。単純に朝昼晩の3度磨いているからよいというわけではありません。確実に汚れを落とす歯磨きは、とても難しいもの。ほとんどの人が正しく磨けていないのが実情です」
歯並びや歯肉の状態は人それぞれ。特に中高年になると歯茎が下がり、細菌のかたまりであるプラークがたまりやすくなる。
「自分の口腔内の状態に合った歯ブラシや歯間ブラシのサイズ、歯ブラシの当て方、動かし方などを、信頼できるクリニックで正確かつ確実に教わる必要があります。鏡を見せてもらいながら磨き残しやすい部分を教わったり、プラークがたまりやすい場所を繰り返し指摘されることで、徐々に自分の口の中をイメージしながら磨けるようになります」
あなたの口に合った歯磨きをするのは実はとても難しいこと。だからこそ、歯科医院で教わり、日々の習慣にすることが重要なのだ。
イラスト/斉藤ヨーコ
※女性セブン2018年11月15日号