口内細菌「フソバクテリウム」が大腸がんの発症や増大に関与か
次世代シークエンサー(遺伝子の塩基配列を高速で読み出す装置)の登場で、菌の解析が容易になった。その結果、腸内細菌や口内細菌と、がんや動脈硬化などの病気との関係が明らかになりつつある。このほど大腸がんの増悪に対し、口内細菌フソバクテリウムの関与を指摘する研究が発表された。大腸がんの新規診断マーカー開発などに繋がると期待されている。
口腔内細菌が全身に及ぼす影響に新たな知見
かつて細菌やウイルスと病気の研究は培養により、菌を増やして実施されていたが、嫌気性菌などは空気中では培養できなかった。ところが、2000年代半ばに次世代シークエンサーが開発され、比較的安価に普及したことで、一気に菌の解析が可能になっている。
その結果、腸内細菌や口腔内細菌が全身に及ぼす影響に関して新たな知見が発見されている。腸内細菌は動脈硬化や認知症など命に係わる病気との関与が指摘され、口内細菌、特に歯周病菌は糖尿病やNASH(非アルコール性脂肪肝炎)との関係が指摘されている。
横浜市立大学附属病院消化器内科・内視鏡センターの日暮琢磨診療講師に話を聞いた。
「私は以前から、歯周病菌とNASHの関連を研究していました。大腸がんと口内細菌フソバクテリウムの関与が報告されていたので、大腸がんと、そうでない人を比べたら、大腸がん患者にフソバクテリウムが多いことがわかりました。さらに大腸がんの組織を採取すると、がんの表面にフソバクテリウムが付着しており、そこで口腔内のフソバクテリウムが腸内に移行、大腸がんに関与しているのでは、という仮説を立て研究を始めました」
フソバクテリウムは常在細菌で、歯周病の原因菌のひとつとされ、主に人の口の中で生息している。研究では大腸がん患者を対象に、内視鏡で採取した大腸がん組織と唾液検体を調査。培養するには生きている菌でなければならないため、採取してすぐに選択培地(特定の菌が増えやすい培地)に塗って培養を開始。これを何度か繰り返し、合計1351コロニーを分離、PCR法(DNAを増幅する手法)で、フソバクテリウムの検出に成功した。
口腔内の清掃が大腸がん予防の道につながる可能性
大腸がん患者14例のうち、フソバクテリウムを持っていたのが8例だった。そのうち大腸がんの表面から採取したフソバクテリウムの株と唾液から採取した株が完全に一致した症例が6例あった。
「フソバクテリウムが大腸がん発生に関与しているかどうかは、今後検証していく必要があります。調査の結果から、口腔から大腸に移行し、増大や転移に関与していると思われます」(日暮診療講師)
大腸への伝播ルートに関しては食道と胃を通る経口ルートと血液からのルートが考えられている。現在、大腸がんを発症させたマウスを使った実験が進んでいるが、まだ結論は出ていない。
これらの研究により、大腸がんの診断マーカー開発に繋がる可能性がある。すでに便潜血検査とフソバクテリウム検査を組み合わせることで、診察率向上が見込めるといった報告もある。その上、予防に対する臨床研究も始まっている。将来的には口腔内の清掃と除菌で、大腸がん予防への道が開けるかもしれない。
取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2018年9月21・28日号