86才の現役医師・帯津良一さん「下半身の鍛錬と太極拳、食養生で75才の壁を越えた」
健康寿命の分かれ目といわれる75才。最近は「75才の壁」という言葉も注目され、75才は体の機能が落ちる大きな分かれ目の年ともいわれる。そこで、75才の壁を越え、現役で活躍する医師の帯津良一さん(86)に健康の秘訣を聞いた。
帯津良一さん(86才)が感じた「75才の壁」
儒学者の貝原益軒に佐藤一斎、禅僧の白隠禅師。帯津三敬病院名誉院長の帯津良一さんの「師匠」はみな、「75才の壁」を越えて長生きした。
「江戸時代に活躍した彼らは、40代が平均寿命の短命の時代にいずれも80代まで生き抜きました。日本最古の“健康本”ともいわれている『養生訓』の著者としても有名な貝原さんは『人生の幸せは後半にあり』という考えの持ち主でしたが、私もいましみじみ、この言葉を実感しています」(帯津さん・以下同)
帯津さんは86才の現役医師としてクリニックのある東京・池袋のホテルメトロポリタンの中を連日忙しく駆け回り、患者やスタッフを驚かせるほどの健康体だ。それでも「75才の壁」は身をもって感じたという。
「実際、診療していても75才を境に免疫力や自然治癒力が落ち、下半身が衰えて老け込む患者は多い。私自身、60代までは気力体力ともに充分でしたが、70代に入ると体が重くなり、疲れやすくなりました」
下半身の鍛錬と太極拳を実践
しかしそれは一時的なもので75才を越えると回復した。帯津さんを救ったのは「鍛錬」と「食養生」だった。
「年齢を重ねるほど、日常生活の中で免疫や自然治癒力を高めることが重要になります。75才の壁を越えるためには特に、下半身の鍛錬が欠かせません。
私はもともと人前で話すことが大好きで、2時間立ちっぱなしで講演することもありますが、足腰が弱れば立ち行かなくなります。だから、すき間時間で早歩きや小走りをして下半身を鍛えるように意識した。また、生命を躍動させて免疫力を上げるために太極拳も取り入れました」
食養生「昆布のだし汁を飲む」
食養生の基本は好きなものを食べること。
「いわゆる“健康食”とされている玄米菜食に興味はありませんが、骨を強化するためにカルシウムを多く含む昆布のだし汁を飲むことは欠かしません。また、どんなにおいしいものでも“食べすぎ”には注意しています。70才を越えたら、食べきれない分は思い切って残す勇気も必要です」
今日が最後の一日だと思って生きる
診療を終えた後はビールとウイスキーの晩酌で一日を締めくくる。グラスを傾けながら心に刻むのは「今日が自分にとって最後の一日だと思って生きる」という言葉だ。
「日課になったのは、ちょうど75才のとき。『納棺夫日記』の著者である青木新門さんの『死に直面して不安におののく末期患者の不安を取り除けるのは、その患者より死に近い人』という言葉を読んで、『患者に寄り添うためには、自分自身も毎日を最後だと思いながら生きるべきなのではないか』と思うようになったんです。
すると、自然に背筋が伸びて『今日が最後だから、残りの時間をしっかり生き切ろう』との気持ちが湧き上がってきた。生きる喜びが腹の底から湧いてくるようになりました」
死に近づくことで、生きる喜びが浮かび上がる。ならば“壁”はそう悪いものではないかもしれない。
プロフィール
医師・帯津良一さん(86)/埼玉県生まれ。東京大学医学部卒業後、都立駒込病院外科医長などを経て1982年に帯津三敬病院を設立。健康を心身両方の視点から総合的に考える「ホリスティック医療」を実践。2004年には東京・池袋に帯津三敬塾クリニックも開設し、現在に至る。診療の傍ら執筆や講演活動も精力的に行っている。
文/池田道大 撮影/浅野剛
※女性セブン2022年11月10・17日号
https://josei7.com/
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