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『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』『石子と羽男』『未成年裁判』身近な問題から生きづらい世の中を問う法廷ドラマ3選

 法廷ドラマは、時代をうつす鏡。最近、身近な事件を扱って、依頼人や弁護士、周囲の人々の生きづらさにフォーカスするドラマが増えてきました。大人気韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』『未成年裁判』(Netflix)と、2022年7月期の話題をさらった『石子と羽男─そんなコトで訴えます?─』(TBS系/Paravi配信中)の試みを、韓国留学を経験したライター・むらたえりかさんが考察します。

法律が身近な3作品

 人の「生きづらさ」に焦点を当てた法廷ドラマがヒットしている。訴訟大国と呼ばれるアメリカと違い、日本では弁護士や法律に頼ることを避けたいと思う人が多い。「そんなにおおごとにしたくない」「他人に迷惑をかけたくない」という気持ちが強いのだろうか。

 確かに、裁判を起こすとか、弁護士をつけるなどと考えると尻込みしてしまう。例えば離婚するときや相続の問題なども、間に弁護士や家庭裁判所を入れれば、互いにしこりを残さずに解決できるはずだ。それでもやっぱり、法律はなんだか他人ごとのように遠く感じてしまう。

 今回紹介する3つのドラマは、法律を個人の暮らしや「生きづらさ」に引き寄せて、身近でとても大切なものだと伝えている。

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』:自閉スペクトラム症弁護士の奮闘

 弁護士は、依頼者である被告人の利益になるように動く。基本的には、無罪や減刑を勝ち取るため働くものだ。ドラマでも、例えば証拠が集まらず無罪を主張するのが難しいところからの逆転劇に、見ていて気持ち良くなることもある。しかし、Netflixにて配信中の『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(全16話)は、勝って終わることだけが被告人の利益ではないと示す。

 主人公の新人弁護士ウ・ヨンウ(パク・ウンビン)は、自閉スペクトラム症を持っている。天才的な記憶力を持ち、ソウル大学とロースクールを首席で卒業したものの、障害のためかなかなか就職先が決まらなかった。それでも、ある理由から大手法律事務所のハンバダに入ることができ、弁護士として歩みはじめる。

 第9話「笛吹き男」に登場した「子供解放軍の総司令官」を名乗るパン・グポン(ク・ギョファン)は、塾のバスに乗っていた12人の子どもたちを遊びに連れ出し、未成年の略取誘拐の容疑で訴えられる。ヨンウたちはグポンの刑を軽くしようするが、グポンは罪をすべて認めると言い出す。

 このドラマの韓国版タイトルを直訳すると『奇妙な弁護士ウ・ヨンウ』だ。ヨンウは周囲から「変わってる」「おかしい」と言われてきたし、弁護士になってからもそれは続いている。でも、グポンと話したヨンウは「自分より変な人」に出会えて楽しいという。

「パン(グポン)さんを理解できないのは大人だけです」

 大人たちから見たら誘拐でも、グポンと子どもたちからすればその体験は「遊び」であり、つらい勉強や厳しい管理生活からの「解放」だった。グポンのしたことは、法律では誘拐にあたる。でも、本当に子どもを苦しめているものは彼ではない。その本質的な問題を伝えながらも、誘拐そのものは法律でしっかりと裁く。

 罪を真正面から認めるグポンの潔さとともに、法律の裁きと人の心の繋がりを両立させるドラマの構成に、胸を掴まれる。

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』
出演:パク・ウンビン、カン・テオ、カン・ギヨン 他、演出:ユ・インシク、脚本:ムン・ジウォン

『石子と羽男─そんなコトで訴えます?─』:人を頼るのは甘えではなく成長

 有村架純と中村倫也がW主演を務めた2022年7月期の金曜ドラマ『石子と羽男─そんなコトで訴えます?─』(TBS系/全10話)。『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』と同様に、主人公たち自身も「生きづらさ」を抱えている物語だ。

 東京大学法学部を出ていながら、弁護士ではなくパラリーガルとして働く石子こと石田硝子。高い記憶力を持ちながら、人の気持ちがわからず、能力を使いこなせないでいる羽男こと羽根岡佳男。このふたりが、町の小さな法律事務所に寄せられる人々の悩みを解決していく。

 パワハラや、未成年によるゲームへの高額課金、ファスト映画、電動キックボードでの事故など、扱われる事件はどれも最近よく聞く身近な問題だ。どれも「自分だったらどうするか」を考えずにはいられない。隣人トラブルの回では、高齢者になったときに周囲とどうコミュニケーションを取っていけばいいのかと、見た後に考え込んでしまった。

 自分だったらどうするかを考えると、問題の最初の段階ですぐに「弁護士に相談しよう」とは考えつかないと思う。できれば自分でこっそりと、周りに知られないように解決したい。パワハラ問題を解決しようとしていた大庭蒼生(赤楚衛二)や、ゲーム課金を親に隠していた相田孝多(小林優仁)も、問題が大きくなるまではそう思っていたようだ。

「ただ、声をあげていただかなければ、お手伝いできません」

 石子は、このドラマの中で繰り返しそう伝えていた。誰かを助けたいと思っている人は、自分が思うよりもずっとたくさんこの世の中にいる。でも、助けてほしいと言わなければ、困っている誰かに気づくことができない。

 依頼人だけでなく、石子と羽男も最後には自分の困りごとを話せるようになっていく。誰かを頼ることは、甘えではなく成長なのだと思えるドラマだ。

『石子と羽男─そんなコトで訴えます?─』
出演:有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、さだまさし 他、脚本:西田征史、演出:塚原あゆ子、山本剛義、プロデュース:新井順子(Paravi配信中)

『未成年裁判』:子どもたちの犯罪は大人の姿を写す鏡

 裁判に関わるのは、弁護士やパラリーガルだけではない。Netflix『未成年裁判』(全10話)の主人公は、判事のシム・ウンソク(キム・ヘス)だ。彼女は、「私は非行少年を憎んでいる」と言う。

 たとえ殺人を犯しても、韓国の少年法では2年間で少年院を出ることになる。家族を亡くした遺族にとっては「たった2年」と感じる絶望的な期間だ。実際、韓国では少年法廃止を求める声や、厳罰化を求める人も多いのだという。

『未成年裁判』に登場する事件は、どれも実際の少年犯罪をもとにしている。窃盗や飲酒喫煙、さらには売春あっ旋や性暴力、殺人と、罪の重さはさまざまだ。保護者たちは、少しでも自分の子の罪が軽くなるよう訴えるばかり。自分を省みる大人は少ない。

「親に恵まれてたらここにはいない。みんな、俺たちばかり責めるけどさ、正直、俺たちは悪くないよ」

 未成年への飲酒の強要や強姦の罪に問われた少年、ソ・ドンギュン、オ・ギョンスはそう言う。少年犯罪を犯す未成年の多くは、実際に家庭環境が良くない者が多い。

「事実、家庭や環境は子どもに影響を与えます。しかし、犯罪の道を選んだのは子ども自身です。同じ境遇でも、罪を犯さない者もいる」

 あくまでも大人たちの過ちであると前置きしながらも、ウンソクは子どもたちにも真面目に生きることを教えようとする。加害者であれ被害者であれ、犯罪に関わった子どもたちを偏見の目で見る大人たちを、ウンシクは等しく「加害者」だと言う。

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』での、障害を持つヨンウの生きづらさ。『石子と羽男』での、困っていることを人に言えない人々や、能力があってもそれを活かせない主人公たちの生きづらさ。『未成年裁判』は、その責任を、そんな人々が生きづらさを感じる世の中をつくっている大人たちに問う。

『未成年裁判』の韓国版タイトルを直訳すると『少年審判』だ。「少年を審判する」とも読めるが、「(大人たちが)少年に審判される」という意味にもとれる。子どもたちは社会の鏡だ。

 韓国では、今年10月26日に「少年犯罪総合対策」を発表。満14歳以上としていた刑事処分の対象年齢を、満13歳以上に引き下げた。また、犯罪予防と更生のためのプログラムも強化し、保護観察を手厚くして、これまで以上に再犯防止に努める予定だという。

 2011年に映画『トガニ 幼き瞳の告発』の影響で世論が動き、13歳未満の子どもや障害者への性暴力が厳罰化された韓国。この少年犯罪総合対策にも、少なからず『未成年裁判』による影響があるのかもしれない。

 フィクション作品から自分たちが生きる社会の問題点を客観的に見つめ直すことができる韓国の姿勢には、見習うべきところがある。

『未成年裁判』
出演:キム・ヘス、キム・ムヨル、イ・ソンミン、イ・ジョンウン 他、演出:ホン・ジョンチャン、脚本:キム・ミンスク

文/むらたえりか

むらたえりか

ライター・編集者。ドラマ・映画レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。宮城県出身、1年間の韓国在住経験あり。

 

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