死後の世界から「生きる目的」を考える映画等3選 脳を天国に『アップロード』!
エリザベス女王、安倍元首相の葬いが大きく話題になり、社会的、政治的などの立場はそれぞれではあっても、多くのひとが「死」を考える機会となりました。「生きる目的は何か?」とは大きすぎる命題ですが、映画やドラマなら真正面からそれを描くことができます。今回は「死後の世界」を描くことで生きる目的を考えさせられる3作品をゲーム作家でライターの米光一成さんが選びました。
『僕のワンダフル・ライフ』:犬の魅力が炸裂
「生きる意味とは? 僕らはなぜ生まれる? 理由があるのか?」
直球の問いかけから始まる映画。しかも語り手は、生まれてきたばかりの犬だ。
原題は「A Dog’s Purpose(犬の目的)」。『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』『HACHI 約束の犬』『ギルバート・グレイプ』『サイダーハウス・ルール』のラッセ・ハルストレム監督作品。
少年イーサンのそばにずっといると決めた犬のベイリーは離れ離れになって衰弱して亡くなる。何度も生まれ変わり、レトリバー、警察犬、コーギー、セントバーナードと、さまざまな犬として生きる姿が描かれる。その犬と寄り添う人間の生き様も描かれるヒューマンドラマなのだ。
中盤47分目ぐらいの犬が疾走する場面、警察犬として活躍する姿、くるくる回る犬の愛嬌ある動き、とにかく犬の演技が凄い。
人間と犬の生きる姿をまっすぐに描いていた作品なのだ。犬の魅力が炸裂する映画なので、犬好きの人はぜひ!
『アップロード』:仮想世界で生まれ変わる
サブタイトルは「デジタルなあの世へようこそ」。近未来社会や死後のデジタル世界を描いた小ネタが満載のブラック・コメディSFだ。
冒頭で主人公は死ぬ。自動運転の自動車が言うことを聞かずトラックに追突する。救急搬送されたネイサンは、「アップロード」の「同意を押して」と言われる。「読んでもないのにできない」と答えるが、恋人は「サインしてお願い」「もう時間がない」と迫る。アップロードするのか、手術室に運ばれるか。
めんどうになったネイサンは長々とした契約書を読まぬまま「同意」を押してアップロード室に運ばれる。ネイサンは、脳をスキャンし、頭を木端微塵に砕かれ、現実世界では死んでしまうのだ。
レイクビューというデジタルな仮想世界(メタバース!)で、生まれ変わる。そして、ネイサンはなぜ死んでしまったのか(ただの自動車事故ではない!)を探る展開になっていく。
ショーランナーは、大人気コメディドラマ『The Office』のグレッグ・ダニエルズ。シーズン1の近未来描写がめちゃくちゃ面白いのでオススメだ(指をL字にするとそこがスクリーンになるスマートフォン、ほしい!)。
『ミッドナイト・ゴスペル』:観る瞑想としてオススメ
最後に紹介するのはアニメーションの問題作。監督は『アドベンチャー・タイム』のペンデルトン・ウォード。
主人公のクランシーは、多次元宇宙に配信するラジオのキャスター。アバターを使って死にかけている仮想世界にダイブする。この世界が、めちゃくちゃで、大阪万博の公式キャラ「ミャクミャク」みたいなシュールなキャラクターがうごめいている。
クランシーは、めちゃくちゃ世界でインタビューをして、それを宇宙配信するのだ。このインタビュー相手が、架空のキャラクターではなく実在の人物。インタビューは実際に行われたもので、それがサイケデリックなアニメーションにズレながら重なり合う。
エピソード1は、ゾンビがうごめく世界。ホワイトハウスに押し寄せるゾンビを銃撃している大統領(実際は薬物依存症の専門家)は、大麻合法化について語り始める。「問題なのは人間と薬との関係性だよ」と答え、巨大化したゾンビから逃げ、ショッピングモールで大暴れし、瞑想の話になり、水中出産を手伝い、インド仏教の話題に転がり、「宇宙がイルカだとすると僕らの体は漁の網さ。自身に包まれている」と語り、ミュージカルになり、歌い踊る。
何を言ってるのか分からないだろうが、観ても分からない。分かる分からないという次元を超えている。死んでいく世界でいかに生きるか。観る瞑想としてオススメだ。
インタビュー相手は、薬物依存の専門家、冤罪で死刑判決を受けた男、オカルティスト、チベット仏教の教師のミュージシャン、母親。実在の人物のディープなインタビューの連続だ。
生きる目的なんて、分かる分からないを超えて、そこにあるのだと実感させられるドラッギーなアニメーションだ。
出演:ダンカン・トラッセル、フィル・ヘンドリー、ドリュー・ピンスキー
原作・制作:ペンデルトン・ウォード、ダンカン・トラッセル
文/米光一成(よねみつ・かずなり)
ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。