高木ブーインタビュー「志村が入って唯一無二の“ドリフターズの笑い”が完成した」|連載 第80回
「志村はドリフに入って才能が開花した。ドリフも志村がいたから新しいステージに進めた」と高木さん。2021年夏に大阪からスタートした「志村けんの大爆笑展」は、東京や福岡など全国10カ所を巡って、現在は群馬県高崎市で開催中である。その才能を誰よりも高く評価している高木ブーさんが、志村さんとドリフの関係を語る。(聞き手・石原壮一郎)
「早すぎたよ、志村」って言いたくなっちゃう
いつも言ってるけど、志村けんという男は、本当にたいしたヤツだよ。先週の金曜日(10月14日)も、群馬県の高崎市で始まった「志村けんの大爆笑展」に行ってきた。仲本(工事)がオープニング店長で、僕はスペシャルゲスト。志村がバカ殿の格好で「アイーン」をしてる人形の前で、来場したお客さんと僕らで記念撮影をしたりした。
去年、東京の会場に行ったときも感じたけど、志村のファンの熱気はすごいよね。若い女性が「ヘンなおじさん」の模様が入ったパジャマで来場したり、会場に流れるコントの映像や展示されてる小道具を食い入るようにずっと見てたり。みんなが志村を愛してくれてることが伝わってきた。高崎が11カ所目だけど、全部を巡ったファンもいるみたい。
たくさんのファンが志村に会いに来てくれるのは嬉しいんだけど、そんな光景を見るとあらためて「早すぎたよ、志村」って言いたくなっちゃう。思い出してみると、ドリフターズにとっても「8時だョ!全員集合」にとっても、言ってみれば志村は救世主だった。
1976(昭和51)年にあいつが「東村山音頭」で大爆発したおかげで、その頃ちょっと元気をなくしていたドリフというグループも「8時だョ!全員集合」という番組も、さらに勢いよく再スタートを切ることができたんだもんね。
もちろん、荒井(注)さんは誰にもない才能を持った人だったし、荒井さんの頃もどこにも負けない面白いグループだった。「全員集合」が人気番組になったのは、荒井さんがいてくれたおかげでもある。でも、志村が入ったことで、唯一無二の「ドリフターズの笑い」が完成したんじゃないかと僕は思ってる。
ほかの4人と志村との違いは、4人はもともとミュージシャンだけど、志村は最初からコメディアンを目指してたところだよね。志村は楽器は苦手だったけど、音楽的なセンスは高かったし音楽を聴くのも好きだった。とくにソウル・ミュージックにはまってたな。「東村山音頭」の一丁目のシャウトや「ヒゲダンス」は完全にそれがベースにあるよね。
年齢も長さん(いかりや長介)や僕からは20歳近く離れてる。加藤(茶)や仲本とも10歳ぐらい違う。音楽だけじゃなくて動きや笑いに関しても、新しい感覚をたくさん持ち込んでくれた。それまでは加藤(茶)がひとりでオチを受け持っていたけど、志村がいることで役割を分け合えるようになったんだよね。負担が減ったっていうとヘンだけど、オチを交代したりふたりでいっしょにオチをやったりできるようになって、ドリフの笑いに厚みが出た。
「全員集合」が終わってから加藤と志村で番組をやってたこともあるけど、あのコンビは最強だよ。たとえば医者と患者のコントをやるとしても、医者役の志村と患者役の加藤のやり取りが、どんどん激しくなっていく。片方がどんな攻めを繰り出しても、もう片方がしっかり受け止める。隙がまったくない。剣豪同士が真剣で立ち合いをしてるみたいだった。
何となく覚えている人も多いかもしれないけど、志村は「東村山音頭」で人気者になるまで、2年近くのあいだ「全員集合」でぜんぜんウケなかった。その頃は、志村だけじゃなくて、メンバーみんながどこかおどおどしてたかもしれない。
「東村山音頭」にしても、その後の「カラスの勝手でしょ」にしても、もちろん長さんは何をやるか知ってただろうけど、僕ら3人は本番まで知らなかった。合唱隊の格好で後ろから見てて、「志村、いきなり何を始めたんだ」って感じだったな。考えた志村もすごいけど、「これはウケる」と判断して「やってみろ」と言った長さんもすごいよ。
ただ、志村の才能が開花したのは、ドリフに入ってからなのは間違いない。実際、一時期はコンビでお笑いをやってたわけだけど、うまくいかなかったんだもんね。ドリフのコントっていうしっかりした土台や枠組みがあって、その中で4人とのからみがあったから、志村の面白さが生きたし新しい面白さもどんどん引き出されていった。
相乗効果っていうか、めぐり合わせって言ったほうがいいかな。志村に限らず、誰がいなくてもドリフじゃないし、ドリフがなければ僕たちもない。「第5の男」の僕が言うのもおこがましいけど、僕は僕なりにドリフにいる意味があったと思ってる。
どんな集団も中心人物だけじゃ成り立たないし、コントだって主役だけではできない。「第5の男」には、前に出る人たちをより輝かせるという大切な役割があるんだよね。会社でも同じじゃないかな。なんて、自分でいうのもヘンだけどね。
ブーさんからのひと言
「『志村けんの大爆笑展』に行ったら、あらためて志村のことをたくさん思い出しました。ドリフは、誰がいなくてもドリフじゃない。それぞれの個性がすごい相乗効果を生んだんだろうね」
高木ブー(たかぎ・ぶー)
1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『Hawaiian Christmas』『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。YouTube「【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう」(イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評。2021年6月に初めての画集『高木ブー画集 ドリフターズとともに』(ワニ・プラス)を上梓。毎月1回土曜日20時からニコニコ生放送で、ドリフの3人とももクロらが共演する「もリフのじかんチャンネル ~ももいろクローバーZ×ザ・ドリフターズ~」が放送中。「志村けんの大爆笑展」は、10月24日(月)まで高崎高島屋で開催中。11月以降、青森や広島でも開催予定。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」が好評発売中。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。