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僕が介護士として成長を感じた老人ホームの誕生祝い 回転寿司に仰天した利用者の実話

 介護士ブロガーとして活動中のたんたんさんこと深井竜次さん。介護の仕事をする中で、最もやりがいを感じ、成長を実感したある出来事があったそう。老人ホームで働いていたとき、初めて担当した利用者の誕生日祝いのイベントを企画・実行したときのエピソードだ。

 介護士ブロガーのたんたんと申します。

 5年間介護現場で働いてきた経験や知見をもとに、「多くの介護士さんが幸せな働き方を実現できるように」という思いを込めて、ブログを運営しています。

 介護ポストセブンでもこれまで僕が介護現場で経験した出来事や学びを、「介護士さんをはじめ介護にかかわる多くの人に参考になれば…」と思って連載を書いてきました。

 先月に公開された介助にまつわるエプロンの話は、多くの方に読んでいただきました。コメントをくださった方ありがとうございます。

今回は、僕の介護士人生の中でも印象に残っている出来事のひとつ、担当した利用者さんの誕生日にまつわるエピソードを書いていきたいと思います。

老人ホームのイベント「誕生日」は悩みの種

 僕が働いていた介護施設では、利用者の誕生日には、担当の介護職員が誕生祝いのプランを企画して、実行することになっていました。

 このとき、僕が担当していた塚田梅子さん(88才、女性・仮名)がまもなくお誕生日。当時、入職してから1年ほど経っていた僕は、誕生日の1か月前から「何をしようかなぁ」と頭を悩ませていました。

 塚田さんは、とってもおしゃれな方でたくさんの洋服をお持ちでした。昨年の誕生日には別の担当職員がデパートで洋服を買って差し上げたという話を聞きました。

 その話を聞いて、僕は「昨年と同じでは能がないし。何かほかのことを提案したいなぁ~」と、余計に悩んでしまいました。

 塚田さんは、僕が初めて担当した利用者だったので、「喜んでもらえるように精一杯のことをしたい」と思っていました。

 そのときの僕は、介護士としてまだまだ未熟で、利用者の誕生祝いについても完全に経験不足。だからこそ真剣に悩んでいましたし、さまざまなアイディアをひねり出しては、「これで喜んでもらえなかったらどうしよう…」と、頭の中は不安でいっぱい。夜もなかなか寝つけないこともありました。

利用者さんの声に耳を傾けて…

 誕生祝いのプランにだんだん煮詰まってきた僕は、さすがに自分ひとりで抱えていては答えがみつからないと思い、当時の上司に相談してみました。

 そのときの上司から、「生活する中でふと呟いた言葉を聞いてメモしておくといいよ」とアドバイスをもらいました。

 そこで僕は、塚田さんの様子をしばらく観察することにしました。

 あるとき、塚田さんはリビングでソファーに座ってテレビのグルメ特集を見ていました。隣に座っている鈴木よしさん(85才、女性・仮名)と楽しそうにお話をされていました。

塚田さん「久しぶりにお寿司が食べたいわ」

鈴木さん「あら寿司は御馳走だからね。私たち庶民はなかなか食べられるものじゃないよ」

 ――そんな会話が聞こえてきました。これを聞いた僕は、ひらめきました。

「誕生日祝いに、お寿司を食べに行くのはどうだろう? もしかすると回転寿司には行ったことがないかもしれない。塚田さんを驚かせたいな」と思い、早速誕生祝いのプランを立てました。

 プランを立てている最中に、「鈴木さんも塚田さんと同じ誕生月だから、一緒に行くのがいいかもしれない」と考え、鈴木さんの担当職員にも相談しました。

 鈴木さんの担当職員も起案に悩んでいたようで、「それいいね!」と僕の提案に賛同してくれました。

誕生日祝いは回転寿司へ!

「お誕生日に回転寿司に行く」というプランは、鈴木さんの担当者と一緒に試行錯誤しながら何とか仕上げることができました。当時は、コロナ禍以前でしたので外食も認められました。

僕が誕生日プランのために準備したこと

・施設の車の使用を予約する(利用の病院の送迎などで車が使えない日が出てくる可能性があるため)

・家族の許可を取り、費用などの相談をする

・誕生日プレゼント(今回はお寿司)を用意する

・排泄介助が必要な場合は、介助用のグッズを用意する

・上司や同僚に実施日を伝える(当日のシフトにかかわるので、シフト作成前に伝える)

・車いすを利用する場合は店側に伝え、広い席を予約する

 これらの準備をして、無事に当日を迎えることができました。今ならもちろん「感染対策」がマストになるでしょう。

回るお寿司を見た塚田さんの反応は?

 僕ともうひとりの担当介護士は、塚田さんと鈴木さんを車に乗せ、施設から30分ほどの場所にある回転寿司店さんに到着しました。

 塚田さんと鈴木さんは、回っているお寿司やタッチパネルで注文するとすぐに食べたいお寿司が届く様子を見て、大興奮。

「これはハイカラだねぇ! 時代の進歩は凄いね…」と、ふたりとも目を丸くして驚き、ありがたそうにお寿司をつまんでいます。

「こんなにおいしいお寿司をたくさん食べていいのかしら」と、塚田さんは本当に嬉しそう。

 僕は幼い頃から回転寿司に馴染みがあったので、「お寿司は回るのが当然で、回転寿司は比較的コスパのいい外食」というイメージだったのですが、おふたりがあまりに感激している様子にはびっくりしました。

「こんなに喜んでくれるなんて! 誕生日祝いを回転寿司にしてよかったなぁ」と、思えた1日でした。

介護士としての成長を感じて…

 僕はブログの中でも、介護をするときには、「自分がされて嫌なケアはしない。自分がされて喜ぶケアをすることが大切」と書いてきました。

 しかし、介護士として経験を積むうちに、もうひとつ考えるようになったことがあります。

 それは、「自分がされて嬉しいケアが必ずしも相手がされて嬉しいわけではない」ということ。大切なのは、利用者さんが喜んでもらえるケアを日々の生活の中から見つけて、実践することだと思います。

 回転寿司の件では上司から言われた言葉、

「利用者さんが日々暮らす中でふと呟いた言葉をよく聞いておくこと」というアドバイスは、まさに金言でした。

 塚田さんは洋服もお好きな方でしたが、毎日の食事を心から楽しみにされていて、食べ物を残さず召し上がる方でした。鈴木さんとの“お寿司”に関する会話を聞いていなければ、例年通りデパートで洋服を買っていたかもしれません。

 利用者さんの満足した表情を見て、僕は「介護の仕事をしていてよかった」という充実感を得ることができました。

 やはり介護士の仕事の醍醐味は、利用者の笑顔。どんなに準備で大変な思いをしても利用者の笑顔を見るとその苦労も吹き飛びます。

 誕生日祝いのプランを通して、僕は介護士として成長することができたいのではないかと、当時を振り返って思うのです。

 後日談ですが、塚田さんと鈴木さんは、回転寿司に行ったことをほかの利用者さんに伝えたようです。すると、「私もお寿司を食べに行きたい!」とおっしゃる利用者さんが次々と…。

 この施設ではしばらくの間、“誕生日のお祝いは回転寿司に行く”が新たなトレンドになったほど(笑い)。お誕生日祝いの新たなモデルケースを作れたこともとても嬉しかったです。

 この記事を読んでくださっている介護従事者の方には、お誕生日祝いなどイベントには、プレゼントという品物もいいですが、“利用者さんの心に残る体験”をお送りするのもおすすめです。

 今はコロナ禍で外食や外出が制限されているかもしれませんが、施設の中でもアイディア次第で利用者さんを笑顔にするお祝いはできるはずです。それを考え、実践することが介護士としての成長とやりがいにつながると思うのです。

文/たんたん(深井竜次)さん

たんたん(深井竜次)さん

島根県在住。保育士から介護士へ転職し、介護士として働いた経験を持つ。主に夜勤を中心に介護施設で働きながら介護士の働き方について綴ったブログ『介護士働き方コム』(https://www.tantandaisuki.com/)を運営。著書『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)が話題に。

●介護士は食事の介助に”エプロン”を使うべきか…僕が介護現場で学んだひとつの答え

●介護施設で働いてきた僕が一番衝撃を受けた深夜のできごとと罪悪感の正体

●老人ホームで嫌われる介護士の特徴3つ|自分のために嫌われない介護を…

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