認知症の母がタオルの使い分けができない…不自然なタオルに息子が驚いた理由
岩手・盛岡に1人暮らししている認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。母は認知症が進行してからタオル類の使い分けが難しくなってきたという。体を拭くタオル、台拭き、食器拭き用のタオル…。思わずギャーッと叫んでしまった恐怖のタオルとは?
タオルで思わず叫んでしまった3つの瞬間
家族を自宅で認知症介護している方は、お薬の服用や火の始末、夜間の外出など、注意しなければならないことはたくさんあると思います。
わが家も同様ですが、中でも注意しているのがタオルです。介護中、思わず「ギャー」っと叫んでしまうほど、タオルが危険なのです。いったいタオルの何が危険なのでしょう?
タオルに関して、わたしが思わず声を上げてしまった3つの瞬間があります。
1つ目は、生乾きのタオルです。
洗顔後に使うタオルのニオイは通常、洗剤や柔軟剤のいい香りがします。しかし、わが家のタオルは、顔をうずめた瞬間に雑巾のようなニオイが、鼻にツンと来ることがあるのです。
理由は、母が完全に乾いてないタオルを何事もなかったかのように畳み、そのまま棚にしまうからです。洗濯物が乾いているかを確認しないまま取り込み、畳んでいるときに生乾きに気づくのですが、認知症の影響で干し直すのを忘れてしまうようです。
2つ目は、洗濯機に洗剤を投入せずに洗ったタオルを使ったときです。
要は水洗いなので、しっかり太陽の下で干せば、気づかないこともあります。ただ、汚れがひどい状態で洗剤を使わないと、いいニオイはしないし、汚れがタオルに残っていることもあります。
3つ目は、母がタオルで自分の尿を拭ったものを、洗濯せずにそのまま干してしまったときです。さすがにこのタオルで顔を拭いたことはありませんが、ニオイで判断できるので、見つけたらすぐ洗濯しています。
洗濯の工程を忘れてしまう母にとって、タオルをキレイに保つのはとても難しいことなのです。なので、タオルを使う前のニオイチェックは欠かせません。わが家では、使用中のタオルにもたくさんのワナが潜んでいます。
タオルの使い分けができない母
認知症が進行してからの母は、タオルの使い分けができなくなりました。
例えば、食器拭き用のタオルを台所のタオル掛けにかけておくと、それを台拭きとして使います。その逆の使い方もあって、台拭きを使って洗い終わった食器に残った水滴を拭き取ることもあるので、「やめてー」と大声を出したことがあります。
とにかく台所の水滴が気になるようで、近くにあるタオルで拭きとります。そのため、台所にあるタオルはだいたい、水をたっぷり含んだ状態になっています。そういうタオルは、片っ端から洗濯機に入れるようになりました。
こんな状態でも、わたしは認知症のリハビリのために食器洗いをやってもらっています。洗い残しがありますし、どのタオルで食器を拭いたかも分かりません。なので、食事の準備前に、わたしが食器や調理器具などすべて洗い直して使うようにしています。
また、母が顔を洗い終わったあと、目ヤニが気になったのでしょう。タオルが近くになかったので、目の前にあった台拭きで目ヤニを取ろうとしたのです。
「ダメーーーー、それで目を拭いたら!!」
お風呂場の足ふきタオルが、台所の台拭きに変わっていることもありますし、とにかくタオルであれば、使用目的は気にしなくなってしまいました。
危険なタオルが多くなってきたので、わたしが確実に洗剤を入れ、母に生乾きの洗濯物を取り込まれることのないよう、母の見えない場所でしっかり天日干しをして、ふわふわでいいニオイのするタオルに仕上げています。
タオルを頻繁に洗濯するようになったせいか、今度は母がタオルを畳む機会が増えました。そうしたら、次の問題が発生したのです。
「これ、あんたのタオルでしょ?」を繰り返す母
「これ、あんたのタオルでしょ?」
母の中で息子のタオルと判別したものは、分けて畳むようになりました。わたしは、東京から自分専用のタオルを実家へ持ってくるようなことはしていません。
「うちのタオルは、名前書いてないでしょ?あんたとか、わたしとかなくって、タオルは同じものをずっと使ってきたでしょ?」
何度言っても、気になるタオルがあれば母は、「あんたのタオルでしょ」と言います。
おそらく、母のあいまいな記憶と合致しないタオルはすべて、息子のタオルと判断するようです。
5分前に来てくださった訪問看護師さんや、食べたばかりのご飯のことは忘れてしまうのに、見慣れないタオルはしっかり判別できる母に、脳の不思議を感じました。
母がひとりで生活しているとき、息子のタオルを分けて保管していても何ら問題はありません。しかしタオルの使い分けは、衛生面からもしっかりやって欲しいと思っていますが、残念ながらそれは叶いません。
洗濯も母がやれるうちは自分でやって欲しいので、不自然なタオルを見つけたら、家族やヘルパーさんが洗濯機に入れて片づけながら、これからも恐ろしいタオルたちとうまくつきあっていくしかありません。
認知症のリハビリと衛生面の両立、とても難しい問題です。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)。音声配信メディア『Voicy(ボイシー)』にて初の“介護”チャンネルとなる「ちょっと気になる?介護のラジオ」(https://voicy.jp/channel/1442)を発信中。