天海祐希『緊急取調室』3話 巧みな人物描写と役者陣の演技にハッとさせられる
天海祐希主演の大人気シリーズ『緊急取調室』第4シーズン(テレビ朝日木曜夜9時〜)。第3話は、ボクサーの若者をめぐるちょっと昭和っぽい事件。しかし、キントリのあり方を見直す大きな命題もはらんでいた。ドラマを愛するイラストレーター・オカヤイヅミが『キントリ』の魅力を絵とテキストで振り返ります。
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昭和みたいなボクサーの若者
さて、ハイジャックの件は置いておいての第3話。
今回の容疑者はチャンピオン確実と目されているボクシングの選手、石倉衆ニ(岡山天音)。貧困や暴力、自身の犯罪歴から抜け出そうと名を上げてきた「昭和みたい」な若者だ。大事なタイトルマッチを控えたある日、週刊誌記者・梅本マサル(松本実)が殴り殺され、直前に会っていた石倉に容疑がかけられる。
昭和みたいな石倉だが、岡山天音の細やかな演技で古臭く見えない。
たとえば大会前の記者会見でのビッグマウスっぷり。ガードが固そうな冷たい目でありながら所々で見せてしまう感情的な仕草と、それを圧し殺すように切り替わる表情にいちいちハッとさせられる。
過酷な生い立ちのせいで人を信じられない、暴力衝動もある男。しかし心をなくしてはいない部分や頭の良さが伝わってきて、それが結末の説得力となる。
ボクサーの石倉は、キントリの取り調べにも隙を見せない。真壁有希子(天海祐希)によると「常に相手の出方を見てから間を開けずに発言」して「距離を縮めたけどパンチを全部避けられた感じ」。強敵だ。
捜査が進み、トレーニングウェアでボクシングジムに行った真壁は、石倉の右手に巻かれた包帯に気づく。さらに、タイトルマッチの相手で「プリンス」と呼ばれる加賀見光一郎(神尾楓珠)への殺意を感じとる。
令和みたいなボクサーの言葉を解読
石倉が昭和ならさしずめ加賀見は「令和みたい」ってところだろうか。梅本との関わりを端緒とする事件の重要な部分を告白した加賀見の部屋は、タワーマンションの高層階。スタイリッシュな小物でいっぱいだった。
さらに玉ちゃん(玉垣松夫/塚地武雅)の読唇術(すごい)で、会見の時の加賀見が石倉に囁いた言葉が「俺は八百長なんかしないぜ」だったことが判明。石倉とキントリの「再試合」が始まる。
この話はボクシングのように、最初に「試合」が設定される。しかし、後半の取調べ中、石倉は犯人ではないということが判明する。梅本を殴った(これが死因に)のは、彼の記者としてのモラルのなさと暴言に怒った先輩記者だった。
起きてしまった事件を解決するだけでいいのか?
キントリ班の仕事は取調べであって容疑者を犯人にすることではない。そのことに見ているこちらも気付くのだ。もともとは石倉を取り調べることにも懐疑的だったはずなのに、
「どうしよう私、石倉の態度に引きずられていつの間にか犯人だって決めつけてた」
と落ち込む真壁に対して梶山管理官(田中哲司)は、
「起きてしまった事件を解決するだけでいいのか?」
と発破をかけ、そこから試合の目的が変わっていくのが面白い。一対一で向き合った真壁は石倉の秘めた殺意を解きほぐし、とうとう先の事件をも解決してしまった。「犯人を落とす」だけじゃないキントリを次回(8/12)も楽しみにしている。
イラストと文/オカヤイヅミ
漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。趣味は自炊。