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豊川悦司と武田真治が超絶かっこいい!90年代の傑作深夜ドラマ『NIGHT HEAD』の黒い輝き

「過去の名作ドラマ」は世代を超えたコミュニケーションツール。懐かしさに駆られて観直すと、意外な発見することがあります。今月はゲーム作家の米光一成さんが『NIGHT HEAD』を鑑賞。宜保愛子、ミステリーサークル、人面犬などで賑わった90年代オカルトブームの中に誕生した豊川悦司と武田真治の超能力兄弟が繰り広げるドラマの衝撃は、映画、ゲームなどに次々と波及し、現在までその魅力は色褪せず、今年の7月には新たなアニメ作品として蘇っています。時を超えるカルト作品を紐解いていきます。

さまざまなメディア展開を繰り広げたカルト作品

「兄さん、頭が、頭が痛い」
「やめろ───!」

 ドーン!

 ドラマ『NIGHT HEAD』は、1992年の木曜深夜フジテレビ系で放映された。超能力をもつ兄弟、霧原直人(豊川悦司)と霧原直也(武田真治)が、他の能力者と遭遇したり、能力を持つがゆえに虐げられたり、敵対する何者かに襲われたりしながら、ふたりで世界に立ち向かう全21話。原作・監督:飯田譲治。

 カルト的な人気を得て、1994年には劇場版も公開され、マンガ、小説、ゲームなどさまざまなメディア展開を繰り広げた。2021年7月から、飯田譲治が原作および構成・脚本を担当する新たなる物語『NIGHT HEAD 2041』(アニメ作品)が放映開始している。
 
 ドラマのオープニングでこう示される。

「人間は、脳の容量の70%を使用していないと言われている。人間の持つ不思議な力はこの部分に秘められていると考えられている。使用されることのない脳の70%はこう呼ばれることがある──NIGHT HEAD」

 FODで、ドラマ『NIGHT HEAD』全21話とスピンオフ作品『THE OTHER SIDE』が観ることができる。今回、約30年ぶりにイッキに観た。やー、おもしろかった。「劇場版」がFODにない(他の配信サービスでも見つからない)のが残念(観たい!)。

 物質文明に対する批判、バブルな時代の若者像、スピリチュアルに対する意識、ボーイズラブという言葉がまだなかったころの耽美的な魅力、あの時代の感覚がぎゅうぎゅに詰まっていた。

ハンデを持つ若者たちと、超能力を持つ兄弟

 タモリの案内役で知られる『世にも奇妙な物語』の1話として発表された「常識酒場」がもとになっていて、この飯田譲治脚本演出のエピソードがそのまま『NIGHT HEAD』の第1話として作り直されている。

 超能力研究所に隔離されていた霧原兄弟は、森を抜け出し、酒場に入る。「Mr.マリック」をモデルにしているだろう人物ミラクルミック(綾田俊樹)が、酒場のテレビでスプーン曲げをしている。

「全部イカサマだ、超能力なんか信じるヤツはバカだ」という話題で盛り上がる客たち。超能力のせいで苦しんできた兄は怒りに震え、ビール瓶が突然割れる。兄の霧原直人はサイコキネシスの能力を持っているのだ。

 出ようとするふたりを挑発する客たち。目の前でスプーンを折る兄。それでも「とにかくイカサマに決まってる」と叫ぶ若者たち。

 この後、直也のリーディング能力で、自分たちの秘密が露わになるのを恐れて、若者たちはさらに攻撃的になる。

「こいつらバケモノだぞ」

 人が人をバケモノ認定して、攻撃し排除しようとする。その状況に対して、直人が「やめろ───!」と叫んで、能力を爆発させてしまう。ミラクルミックと兄弟が同じバスに乗り合わせる第3話では、ハンデを持つ若者たちと、超能力を持つ兄弟を照応させて描く。

宜保愛子、超能力少年、ミステリーサークル、人面犬……の時代

 ユリゲラー初来日が1974年。そこからオカルトブームが盛り上がる。ライアル・ワトソン『生命潮流』の翻訳(木幡和枝)が1981年。Mr.マリックのスペシャル番組がはじまるのが1989年。「MMR マガジンミステリー調査班」(『週刊少年マガジン』)の連載開始が1990年。

 宜保愛子、超能力少年、ミステリーサークル、人面犬などの流行もあった。超能力が凄い能力としてもてはやされていた時代だった。

 だが───『NIGHT HEAD』は、凄いパワーである超能力を使って活躍する物語ではなく、能力のせいで苦しみ排除され、悲劇的な状況に立ち向かう兄弟の話なのだ。

 極限まで能力が進化し、肉体から解放された双海翔子(山口リエ)
 ウイルスによる人類滅亡を予知する神谷司(小木茂光)
 マイナス意識のY(高橋信雄)

 基本的に1話もしくは2話で完結するエピソードだが、さまざまな謎を秘めたキャラクターが全体を貫くように登場し、物質文明から精神文明に移るための変革をめぐる話として、大きく拡がっていく。

 90年代のスピリチュアルな想像力と、世界から排除される兄弟が手を取り合って彷徨う悲劇性が絶妙にかみ合って、ドラマに底知れない熱気を生み出した。

初めて観たのは高校生のとき

 若き豊川悦司と武田真治が、初々しく、かっこいいのだ。安易なCGや特撮に頼らない超能力描写はいま観ても新鮮。

 びくびくと動く眼球、編集とフィルターで描写するリーディング場面、パンとわれる瓶や、吹き飛ぶ人間、にらみ合ったすえの鼻血、電球の点滅、ライティング。

 もちろん予算があまりなかったという理由もあるだろうが、工夫とセンスでそれを乗り越え、スピリチュアルなビジョンに生々しさを与えた。

 ぼくが『NIGHT HEAD』を初めて観たのは高校生のときだ。大学受験で東京に行った試験前日、寝る前にふとテレビをつけたら観たことのないドラマをやっていて、すぐに夢中になった。

 1話終わったと思ったらすぐに続きが始まり(3日間ぐらいでイッキ全話再放送やっていたのだろう)、気がづいたら午前4時になっていた。「テスト前なのに眠らせてくれなかった凶悪なドラマ」として記憶している。

 使用してない脳の容量の70%が覚醒してくれないかと思いながら試験を受けたが落第した。

文/米光一成(よねみつ・かずなり)

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。

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