65才からの住まい、快適に暮らすために大切な4つのこと「若い頃とは違う工夫が必要」
超高齢社会でのシニア期、快適な生活を送りたいと誰しも願うはず。「終の棲家の“場所”、“かたち”を元気なうちから準備することが、シニア期を幸せに生きる秘訣」と語るのは、自身も親の見送り経験がある住宅ジャーナリスト中島早苗さんだ。シニア期にはどんな変化が起きるか想像し、それに向けて準備することが大切だという。老後を快適に暮らすヒントを聞いた。
まずシニア期の変化を想像してみる
100年ライフが現実的になってきたこの時代。今より長寿になるというのはつまり、シニアとして生きる時間が長くなるということです。シニア期を仮に、65才からとしましょう。シニアライフになると、50代までとはどんな違いが生じるか、住まいという観点で想像してみます。
・子どもが独立し、世帯人数が減る
・プライベートな時間や空間を充実させたい
・不慮の転倒等に備え、家族の気配がわかるようにしたい
・筋力の低下や関節痛等で、階段の昇降が辛くなるかも
1人もしくは夫婦のみの世帯が全体の半分以上
ところで実際は今、65才以上のシニアはどんな家族構成で、何人世帯が多いのでしょうか。
内閣府の「高齢化の状況」調査(2017年)※によれば、65才以上の人がいる世帯は全世帯の約半分。1人暮らしと、夫婦のみの世帯が全体の過半数を占めています。
※内閣府 高齢化の状況(家族と世帯)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/zenbun/s1_1_3.html
シニア期は2人または1人暮らしが多数派となることから、子育て期の若い時代と同じ広さの家では持て余す可能性がありそうです。
ではそもそも住まいは、家族の人数によって、どれだけの面積が妥当とされているのでしょうか。国交省「住生活基本計画における居住面積水準」(※)では、例えば2人家族なら、「最低居住面積水準」は30平方メートル。
健康で文化的な生活を送る上で必要不可欠な面積ということですが、都心のマンションですら、2人住むのに30平方メートルは少し狭いな、という印象を持ちます。
それに対して、より豊かな住生活を実現するための「誘導居住面積水準」は、2人暮らしで都心のマンションを想定した「都市居住型」が55平方メートル、郊外の戸建てを想定した「一般型」で75平方メートルとなっています。
※https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000012t0i-att/2r98520000012t75.pdf
マンションなら50~60平方メートル、戸建ては75平方メートル
「誘導居住面積水準」の方が、これまでの取材や自分の住んだ経験から、納得がいく数字です。
私が現在までに、1人または2人で住んだ都市部のマンションは50~60平方メートルですが、2人で50平方メートルはやや狭さを感じるものの、不要なモノを整理して、間取りを工夫すればそれなりに暮らせます。都市部は地価も利便性も高いので、そのメリットと引き換えに、面積の狭さを受け入れるのがリーズナブルだと思います。
郊外の戸建ての75平方メートルは坪数にすると約23坪。2人暮らしの戸建て住宅なら、十分な広さではないでしょうか。
シニア期に快適に住まう4つのヒント
前置きが長くなりましたが、シニア期になると世帯人数が減る。ここでは夫婦2人暮らしになったとしましょう。
上記のライフスタイルや体調の変化を整理して、「シニア期に快適に住まう4つのヒント」をまとめてみました。
1.シニア期に見合った広さにダウンサイジングを
上のデータにある通り、住まいは広ければ広いほどよい、というものではないと思います。例えば都市部なら都市部相応の、そして少ない人数ならそれなりの広さで十分、という意識を持つのが賢い選択につながりそうです。シニアになっても必要以上に大きな家に住んでいると、結局使わない部分が増えるだけではないでしょうか。
2.ワンフロアの方がムダが少ない
よく、2階建て住宅で、子ども部屋だった2階の個室が全く使われておらず、荷物部屋になっている例を見かけます。2階に上がり下がりするのは年を取るほど億劫ですし、階段で転んで骨折、入院して以来、体が弱って亡くなってしまったお気の毒な例も知っています。
また、以前取材した中で、3階建て住宅から1フロアのマンションに住み替えたご夫婦の感想が印象に残っています。
「ここに住み替えて気づいたのですが、3階建ての暮らしはムダが多かったです。何か必要なモノがあると別の階に取りに行くのが面倒になり、結局、同じモノ、例えば文房具などを各階用に買って、置いていました」
この話を聞いて、そうか、確かに例えば3階でハサミを使いたい、と思った時になくて、1階まで取りに階段を上下するのは、とても骨が折れそうだ、と納得した記憶があります。階段のある家は、階段分が居住スペースとして使えないので、スペース的にもロスが多いかもしれません。
3.互いのタイムスケジュールをじゃましない個室(別寝室)を持つ
また、間取りとしては、シニアになると夫婦で起床・就寝時間が違ったりするため、別寝室、個室があった方がストレスがないように思います。
4.不慮の転倒等に備え、気配がわかる間取りに
それでいて、万一互いが転倒して動けなくなったりした時に気づけるように、ゆるくつながっているような、気配がわかるレイアウトが望ましいでしょう。
シニア期の住まいには若い頃とは違う工夫が要る。どんな工夫をすれば自分達が暮らしやすいのかを、シニア期前にシミュレーションしておきましょう。それが長くなったシニア期を快適に、幸せに暮らすコツのような気がします。
文/中島早苗(なかじま・さなえ)
住宅ジャーナリスト・編集者・ライター。1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に約15年在籍し、住宅雑誌『モダンリビング』ほか、『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て、2002年独立。2016~2020年東京新聞シニア向け月刊情報紙『暮らすめいと』編集長。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(以上PHP研究所)、『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。300軒以上の国内外の住宅取材実績がある。