暮らし

マンション内近居13年目の女性7人グループに聞く他人と暮らすメリット・デメリット

 家族との関係に煩(わずら)わしさを感じたとき、ふと「老後は気の合う友達と暮らしたい」と、考えたことはありませんか。でも、それはそれで大変そう―果たして実際は? そこで、60~70代のときに同じ分譲マンション内に部屋を購入し、他人と暮らす選択をした女性グループに、近居13年目で変わったこと、そして改めて見えてきたこととなど話を伺った。

2008年に女性7人でスタートした「個個セブン」

 兵庫県尼崎市で、一棟の分譲マンションに各々が部屋を買い、見守り合いながら暮らしている70~80代の女性グループがある。その名も「個個セブン」。

 かねてから友達だった田矢きくさん、市川禮子さんらが、近居を目的にしたグループを作ろうと、賛同者を募ったのがグループ結成の発端だ。食事会などを重ねて親交を深め、2008年から7人の女性たちで近居を始めた。  

 13年目となる現在、健康面や親の介護などの問題で2人が脱退し、メンバーは、田矢さん、安田和子さん、一ノ坪良江さん、川名紀美さんに。市川さんは、マンションの近くの自宅から、通いながら交流しているという。

テーマは「自立と共生」。介護はしない独立して生きる

田矢:「個個セブン」が、近居をする上で掲げたテーマは、「自立と共生」。お互いに見守りはするけれど、介護はしないなど、独立して生きていくことを最初に決めました。

 仲間と月1回程度のイベントを企画・開催しているほか、誕生会などを定期的に開き、少なくとも週1回は会っていますし、普段はメールでやりとりをしています。旅行も一緒に行きますが、都合がつかなければ、断ってもいい。程よい距離感を保ちつつ暮らしています。お互い適度な“間”の取り方が身についているんですよね。

■「人とかかわることは煩わしい。それでも共に生きていきたい」(川名さん)

川名:私は、3人の友達グループの中に新たに入る形だったので、当初は遠慮や戸惑いもありました。ひとりの方が気楽じゃないかと思うことも…。でも、多少煩わしさがあっても人とかかわって生きていこうと決めたのは私。その覚悟を持っているだけで、心にさざ波が立っても、うまく自分を納得させられました。

 近居を始めて5~6年経ったある晩。別の友人と居酒屋に行ったのですが、ごく自然に“今度、「個個セブン」のみんなともここに来たいな”と思えたんです。そのとき、私はもうすっかり仲間になれたんだと、感じましたね。

■「ひとりで暮らす寂しさに比べたら、たいていは些末なこと」(一ノ坪さん)

一ノ坪:私も、みんなとの会話の中で反論したいことがあっても、それが私の人生に重要かどうかを考え、たいていはのみ込みます。

 昔、母が死んでひとり暮らしを始めた頃、あまりの寂しさに、毎日泣いていたことがありました。そのときのつらさを思えば、人と一緒にいられることの方がありがたい。些末(さまつ)な問題は気にしません。

安田:私も、持病がありますから、誰かと一緒に暮らす安心感が大きいです。とはいえ、最初の3年は自宅を改築したばかりだったので、半年を元の家で、半年をこのマンションで過ごしていました。“この人たちとなら大丈夫”と心から納得したので、家を処分してこちらに正式に越してきたんです。

みんなで話し合い決めた「終活」ルール

 人間関係を模索しながらつきあいを続けて13年。その過程で、当初は思ってもいなかった新たな課題が浮上したという。それは「終活」。家族ですらなかなか向き合えない課題に、他人同士でどう向き合ったのか。

川名:「自立と共生」を掲げていた割に、終活について具体的にどうするか決めていなかったのですが、仲間の1人が入院したことで、否応なく気づかされました。つまり、介護や死の問題が現実味を帯びてきたんです。

 家族なら、介護をするでしょう。しかし私たちは他人です。いざというとき、どう対応するか、具体的に決めるため6年ほど前から話し合い、今年2月、全員が遺言書や任意後見契約、死後事務委任契約などを公正証書に残し、親戚や弁護士に預けることが完了しました。

田矢:これで、万一のことがあっても仲間に迷惑をかける心配がありませんから、心の負担がなくなりました。

 いざというときのための準備を整えたいまは、なるべく長くこの生活が続くよう、日々を豊かにする活動に尽力しているという。

「個個セブン」の終活ルール

「自立と共生」がテーマのため、お互いに見守りはするが介護はしない

自立したおひとりさまとして、全員が以下を終え、公正証書にしている

【1】「遺言書」

【2】認知症などで判断力が衰えたときのための「任意後見契約」

【3】死後の葬儀などをお願いする「死後事務委任契約」

定期的にイベントを開催する事で仲間の結束を図る

一ノ坪:私たちは毎回テーマを決めて、講師や地域住民を招き講演会などを開いています。「土曜サロン」と呼んでいるのですが、協力して行うイベントがあると結束力が強まります。

田矢:いまはコロナ禍でイベントも控えてはいますが、しゃべらずに楽しめる映画鑑賞会をしたり、間仕切りをして食事会をするなど、週1回は顔を合わせています。いまはお友達と気軽に会えない日々ですから、改めて「個個セブン」の仲間が近くにいてくれてよかったと思いますね。

川名:私が深夜に激しい頭痛に襲われたときも、田矢さんに連絡をしたら、すぐに家に来てくれて…。結果、何事もなかったんですが、あの晩は近居のよさを実感しました。

安田:私は今後も皆さんと生きていきたい。仮に車いす生活になっても、在宅介護を受けつつ、交流できればと思っています。

「個個セブン」が考える他人と暮らすメリット&デメリット

 今回話を伺った「個個セブン」のみなさんに、一緒に暮らすことのメリットデメリットを聞いた。

<メリット>

●安否確認ができる

●突然の体調不良時、深夜でも呼んだら
 1分以内に駆けつけてくれる

●寂しくない

<デメリット>

●互いを深く知るには時間がかかる

●良好な関係を持続させるため、時に言いたいことを
 のみ込むなどの努力は不可欠

教えてくれた人

安田和子さん(81才)/女性問題専門心理カウンセラー、田矢きくさん(85才)/NPO代表、川名紀美さん(74才)/ジャーナリスト兼大学客員教授、一ノ坪良江さん(76才)コピーライター、市川禮子さん(83才)/社会福祉法人名誉理事長

取材・文/桜田容子

※女性セブン2021年6月24日

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  • よしみ

    60歳女性です。 老後が心配です。 今後の生活をどう過ごしたらよいか? 毎日考えてます。 とても参考になりました。

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