認知症の祖母の「徘徊」に口出しせず付き添ってみたら…
祖母に「ばあちゃん、どこに行きたいの?」と聞くと、「あそこの角を右に曲がれば、お兄さんやお姉さん達がいっぱいいるところに行くんだよ」と言う。
また昔のことを思い出しているのかなと思いながら、付き添って歩いていると「もうすぐすればお寺さんに着くのよ、この角を左に曲がったらね」と祖母。
お寺さんというのは、先日書いたお泊りデイサービスの事(※)だ。建物が寺に似ているので祖母は普段からそう呼んでいる。
→※「お泊まりデイ」は月6泊で3万円と高額!でも、利用したい祖母の気持ち
祖母はお泊まりデイサービスを目的地にして歩いていたのだ。帰宅願望ならぬ施設願望だ。
歩くこと15分ぐらい、国道に出た。
「あの大きな坂を上にのぼるとお寺さんに着くの」と祖母。お泊まりデイサービスへ向かう道はあっていた。
私は30才過ぎから祖母の在宅介護を始め、6年が経過した今、それなりにちゃんと介護してきたつもりだ。しかし、祖母が、自宅ではなくお泊まりデイに行くことを目指して徘徊しているという事実は複雑な心境ではあった。
そんなにお泊まりデイが好きなのか…。
しかし、イライラせず祖母の気持ちを理解することが大切だ。
祖母に「ばあちゃん、すごいなあ。よく覚えてるな」と言うと「そうでしょ?よく通っているからね、当然ですよ」と笑顔で答える。
さらに、祖母は郵便局の看板をみつけ「私がね、昔働いていたところだからちょっと行ってみようかいな」と言い出した。
私は中に入り、郵便局の 職員の方に「祖母が徘徊で来てしまいまして」と事情を説明。職員の方が「ゆっくりしていってくださいね」と笑顔で親切に対応してくださったことに祖母は満足そうな表情で「私ね、昔ここで働いていたのよ、窓口でいろいろなお客さんがいてね」と答える。
「このタイミングだ」と思った私は、「じゃあ、ばあちゃん家に帰ろうか」と言うと納得したので、タクシーを呼んで自宅まで連れて帰った。
昔馴染みの場所を目指すこともある
祖母はこの郵便局を長い間勤めていた電話局と記憶違いをしていた。
昔から私と祖母で時折郵便局に行っていて、職員の方々もだいたい覚えてくれている。前回の徘徊時の行き止まり先もこの郵便局だった。
徘徊は、自宅からあまり離れていない、昔からの馴染みのあるスポットを目指すことが多いのかもしれない。徘徊する祖母に、私が余計な口を挟まず、ひたすら付いて歩いたことで、祖母の徘徊には、祖母なりの理由があることがわかった。
徘徊後、この日は間質性肺炎・変形性膝関節症などの定期検診の為すぐ病院に向かったが、いつもより疲れていたり、足が痛かったりというような症状は特になく、食欲もあり会話もよくする普段の姿の祖母だった。
頭ごなしに、「ダメ、ダメ」と否定するのではなく、気持ちを理解することの大切さをしみじみ感じたのだった。
文/奥村シンゴ
プロフィール:大学卒業後、東証一部放送・通信業界で営業や顧客対応などの業務を経験し、6年前から祖母の認知症在宅介護を経験中。在宅介護と並行してフリーライターとして活動し、テレビ、介護、メディア、阪神地区のテーマを中心に各種ネットメディアに寄稿。他時折テレビ・ネット番組や企業のリサーチ、マーケティングなども担当している。
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