暮らし

【親の介護】“費用は親のお金で”“きょうだいと役割決め”が大事と識者

 今、大きな社会問題になりつつある介護離職。40~50代になれば、親の認知症に直面する人が出始めてくる。その時に大事なことは決して慌てないことだ。

 いざ離れて暮らす親が認知症と診断されたら、どうすればいいのか。

杖をつくシニア男性と手をつなぐシニア女性

1人で抱え込まず、きょうだいで「役割」を決める

「まずは介護を“1人で抱え込む”事態を避けるために、きょうだいと話し合うことが大切です」と語るのは、NPO法人「パオッコ~離れて暮らす親のケアを考える会~」代表理事で介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さん。

「男きょうだいが『おれは仕事で忙しいからそっちで考えてよ』と言って、逃げようとするのはよくあるケース。どう介護を分担し、どんな介護サービスを受けるかについて、きょうだいで一緒に考えるべきです」

 親が一人暮らしの場合、病院に通ったりケアマネジャーに相談したりすると、必ず聞かれるのが「誰が主となって介護しますか?」「何かあった時に、誰に緊急連絡をすればいいですか?」ということ。

「介護には“キーパーソン”と“主たる介護者”が必要です。キーパーソンとはケアマネやヘルパーさん、デイサービスなどとの交渉や報告・連絡・相談をする人。主たる介護者は実際に動く人。重なるケースも多いですが、負担があまりに集中すると、長続きしなくなります」(太田さん)

 実際には、最初に異変に気づいて病院に連れて行った人が、いつの間にか“キーパーソン”と“主たる介護者”を押しつけられてしまうことが多いという。

「理想的なのは、直接会うなりLINEなりで連絡を取り合って、こまめに相談し合うことです。病院に行ったりしたら、その結果を他のきょうだいにも周知させる。でなければ、どうしても最初に病院に連れて行った人が主導権を握ることになり、『そのままよろしく』ということになりかねません」(太田さん)

介護の費用は「親のお金」で

 病院や介護の費用もトラブルの原因になりやすい。「とりあえず立て替えておこう」と付き添った人が払ってしまうことも多いが、それが重なると「どうして私だけ?」という気持ちになってしまう。しだいに鬱憤が積もって、けんかにもなりかねない。

「最初のうちに『親の介護をしていくのだから、親のお金を使おうね』ときょうだい間で話し合っておく。それと同時に親に『どのお金を使えばいいか』を確認しておくことです」(太田さん)

親が元気なうちにキャッシュカードを作ってもらう

 親の世代の中にはキャッシュカードを持っていない人もいるが、いちいち通帳と印鑑を持って午後3時までに窓口に行くのは大変。そもそも子供が1人で必要なお金を下ろそうとしても、委任状がなければ下ろすことができない。

「ですから、認知症が進んで親の判断力がなくならないうちに、親にキャッシュカードを作ってもらうほうがいい」

 と太田さんはアドバイスする。そして忘れてはならないのが、お金の出し入れがあったら必ずその明細を書いておくことだ。

「私は『介護家計簿』と呼んでいますが、身内だからといって曖昧にしておくのはトラブルのもと。きょうだい間での報告だけでなく、税法上もきちんと記録をとっておくことが大切です。また、親にも『お金を使うよ』と断っておかなければ、金銭搾取になってしまいます」(太田さん)

認知症介護にかかる費用は約850万円(12年介護をする場合)

 では、介護にはどれぐらいのお金がかかるのか。

 介護者専門ファイナンシャル・プランナーの河村修一さんが言う。

電卓と現金・お札と小銭

「例えば、80才の女性がアルツハイマー型認知症を発症したとします。これはゆっくりと進行するのが特徴で、5年ごとに軽度、中度、重度とともに要介護度も高くなった場合、在宅介護にかかる費用は、初期の軽度の時期は約3万円×12か月×5年=約180万円。中度の時期は、約6万円×12か月×5年=約360万円。重度の時期は約13万円×12か月×2年=約312万円。

 ここでは、認知症を発症してからの平均余命は約12年として計算しましたが、トータルで約852万円となり、さらに住宅改修費などがプラスされます」

●かかる費用イメージ(認知症を発症してからの平均余命約12年で計算)

認知症軽度の初期:約3万円×12か月×5年=約180万円

認知症中度期:約6万円×12か月×5年=約360万円

認知症重度期:約13万円×12か月×2年=約312万円

 重度になれば遠く離れた親が1人で住むのは難しい。となれば施設に入ってもらうしか選択肢はなくなるが――。

「地方自治体によって違うので、詳しくは親が住んでいる自治体に聞いていただきたいですが、ある地方都市の場合、グループホームだと月10万~20万円程度。要介護3以上が対象の特養(特別養護老人ホーム)は、4人部屋だと月8万~9万円程度、ユニット型個室は月13万~14万円程度。要介護1以上の老健(介護老人保健施設)は、4人部屋が月9万~10万円程度、ユニット型個室が月14万~15万円程度

 要介護1以上の介護療養型医療施設は、4人部屋が月9万~11万円程度、ユニット型個室が月14万~17万円程度。介護保険3施設の内訳はいずれも介護サービス費の1~2割+食費+居住費+その他のサービス費を足したものですが、それぐらいはかかるわけです。当然ながら、有料老人ホームやサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)はもっとかかります」(太田さん)

●施設の費用目安(介護サービス費+食費+居住費+その他のサービス費)

・グループホーム:月10万~20万円

・特別養護老人ホーム:4人部屋の場合・月8万~9万円、ユニット型個室の場合・月13万~14万円

・介護老人保健施設:4人部屋・9万~10万円。ユニット型個室の場合・14万~17万円

・介護療養医療施設:4人部屋の場合・月9万~11万円。ユニット型個室・月14万~17万

 近頃は悪徳業者の訪問販売被害に遭い、虎の子のお金を失ってしまうケースが後を絶たない。いくら本人に注意するよう言って聞かせても、完全に防げない場合もある。

地域包括センターや社会福祉協議会を利用する

 こんな時に頼れるのが、親の住む地域の地域包括センターや社会福祉協議会だ。

「日常生活自立支援事業というサービスでは、お金の出し入れのサポートや、振込もしてくれます。悪徳業者による集金があっても払えないので安心です」(太田さん)

 近所に親しい人がいたらその人と連絡を取り合い、注意しておいてもらえば、なお心強い。

教えてくれた人

太田差惠子さん/NPO法人「パオッコ~離れて暮らす親のケアを考える会~」代表理事で介護・暮らしジャーナリスト

河村修一さん/介護者専門ファイナンシャル・プランナー

※女性セブン2016年3月3日号

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