『俺の家の話』5話|「血圧130以下、体重85キロ以下、空腹時の血糖値140以下」をクリア!
長瀬智也主演、宮藤官九郎脚本の『俺の家の話』(TBS毎週金曜夜10時から)は、介護がテーマのホームドラマ。能楽師の父親(西田敏行)の介護のために実家に帰ってきたプロレスラーの息子(長瀬智也)は、父のエンディングノートに書かれていた目標「家族旅行」を計画する。25年前のハワイ旅行をもう一度! と話は壮大になっていくが、果たしてうまくいくのか。ドラマを愛するライター・大山くまおが5話までを解説します。
40歳の遅すぎる反抗期
「よろしくメカドックじゃ、こりゃあ!」
何の話かと言うと『俺の家の話』である。長瀬智也主演、宮藤官九郎脚本で、家族が抱える「介護」と「相続」という重いテーマを、「プロレス」と「能」というフィクション内フィクションを通して描く。すでに中盤の第5話だが、ますます快調だ。
主人公はプロレスと能を両立させながら介護をする観山寿一(長瀬)。第4話では人間国宝の父・寿三郎(西田敏行)の不貞が露見し、これまであらゆることに忍耐を重ねてきた芸養子の寿限無(桐谷健太)が実は寿一の異母兄弟だということが判明した。
能の演目「道成寺」では、大蛇と化した娘は自分が吐いた炎で身を焼き、川へ飛び込むが、娘を演じた寿限無には40歳で遅すぎる反抗期がやってくる。冒頭のセリフは寿一の夢の中でヤンキーと化した寿限無が吐いたもの。
他にも部屋に閉じこもってデスメタルを爆音で聴いたり、不良ゲーム「熱血硬派くにおくん」をプレイしたりと、やることが80年代の中学生。彼が鬼気迫る面持ちで稽古をする能の演目は「八島」。源義経の亡霊が修羅道(戦う者が堕ちる地獄)での戦いを再現する場面だった。寿限無の心の荒れ方がよく表れている。
可愛さ過失致死だぜ!
第5話は明るくてフワフワした話題と、重くて苦しい話題が交互(というかほぼ同時)にやってくるストーリーだった。幸せな気持ちと辛い気持ちはいつも表裏一体。禍福は糾(あざな)える縄の如し。
まずは明るくてフワフワした話題。なぜか観山家には恋の嵐が吹き荒れていた。弁護士の弟・踊介(永山絢斗)は介護士のさくら(戸田恵梨香)に夢中。「お前の可愛さ、有罪! 有罪!」「可愛さ過失致死だぜ!」という弁護士らしいキレキレのフレーズが楽しい。さすが、クドカン。
一方、さくらは寿三郎と『ビューティフルライフ』ごっこをしていて倒れた自分を助けてくれたスーパー世阿弥マシンの正体が寿一だとわかって、ときめきっぱなし。またあの「山賊抱っこ」をしてほしいと願っている。辛い幼少期を過ごした彼女は、自分を包み込んでくれるような包容力のある男性を好きになりやすいのかも。
舞(江口のりこ)はピリピリしていて、舞の息子の大州(道枝駿佑)は反抗期で、O・S・D(秋山竜次)はいつも見当外れ。大所帯の観山家、たしかにまったく噛み合っていない。
親の介護もあんたの人生なんだよ!
寿一は家族旅行に行こうと提案する。もともとは寿三郎のエンディングノートに書かれていたことだが、彼自身が観山家には家族旅行が必要だと感じていた。家族旅行は25年前にハワイへ行ったきり。家族が揃って満面の笑顔になったことなんて、そのとき以来なかった。
しかし、当事者である寿三郎が行くのを渋る。風呂も食事も思い通りにならないのに腹を立てている様子。寿一はなだめるのではなく、全部まとめて引き受ける。
「わかったよ。病人扱いしねえよ。メシも風呂も何もかも全部親父の好きにさせてやるよ。楽しめ。だから面倒くさいこと言うなよ」
ぶっきらぼうだが、言っていることはとても頼もしい。たしかに、介護が必要な家族を旅行に連れていくのに逡巡してしまうことがある。世話をする人は重労働だし、気疲れもする。危険もある。だけど、その一方でケアマネージャーの末広涼一(荒川良々)が言ったように「あのとき連れてってあげてればと後悔するケース」もある。
寿一は全部まとめて引き受けるが、ポイントは家族と協力し合っていることだ。舞もサポートしてくれるし、風呂の介助は踊介と一緒。今はグレている寿限無だっていざとなれば力を貸してくれる。介護士のさくらもいるし、末広もいる。つくづく介護は家族の総力戦だと思う。
舞が息子の大州に「親の介護もあんたの人生なんだよ!」と言い放つシーンがあった。このセリフは多くの視聴者に響いたようだが、一人で介護を背負ってしまうとその重みに押し潰されてしまう。舞だって大州にすべて背負ってほしいとは思っていないはずだ。
親の介護も人生の一部だが、自分の人生も大切だ。現在、介護に奮闘している寿一だって、(収入のためではあるが)自分の好きなプロレスのリングに立っている。それも家族やプロのサポートがあってのこと。ならば、どうやって家族とプロが一致団結した総力戦に持っていくかを考える必要がある。
誰が継ぐのか二十八世
介護の問題だけでなく、相続の問題もある。グレ続けて卑屈になっていた寿限無を、寿一は正面から受け止める。さんたまプロレスのリングに連れていって、自分を殴ってみろと言うのだ。寿一はやり返さずに殴られ続ける。「受け」はプロレスラーの美学だ。
仲間のレスラーたちに引き離された寿限無は、思いのたけを寿一にぶつける。寿限無は何もかも耐えてきた。寿一が家出してからは、芸養子になって観山家を支え続けた。それでも寿三郎とは血縁がないから二十八世宗家は継げないと考えていた。ところが、自分には血縁があった。
「決めた。俺が継ぐ。二十八世。もう一歩も退かない。寿一ちゃん、親父の跡を継ぎたいなら、プロレスじゃなくて能で俺に勝ってみろよ!」
寿一は自分が二十八世を継ぐつもりで観山家に戻ってきた。だが、その人生プランを根底から揺さぶる寿限無の宣戦布告だった。寿一はショックを受けてもおかしくないのだが……。
「好き」
なんと、その直後にさくらに告られてしまったのだ。寿一は一人で心の声を朗々と歌い上げる。
「さくらは俺が好き~。俺はプロレスが好き~」
寿一が二十八世宗家を継ごうとしたのは、大好きなプロレスの道を諦めたから。だけど、今はスーパー世阿弥マシンとしてリングに立っている。それなら、答えは出ているような気がするが……。
介護に必要な瞬間
糖尿の数値が悪化して医師の大迫(小松和重)からストップがかかった家族旅行だが、寿一は頑として聞こうとしない。逆に、家族の団結を高らかにアピールする。
「認知症とか、相続とか、隠し子とか、いろいろあった俺たちが、いろいろ踏まえて笑えるか、確かめたくねぇか?」
寿三郎と家族とさくらたちの努力の結果、大迫が出した「血圧130以下、体重85キロ以下、空腹時の血糖値140以下」を見事にクリア! 揃って笑顔でガッツポーズをする寿三郎、寿一、舞、踊介。介護にもこういう瞬間が必要なのだろう。
とてもいい写真だが、寿一はまだ足りないと思っている。ここには寿限無が写っていないからだ。家族旅行に出発する日、寿限無はぶっきらぼうにこう言う。
「どこに乗ればいいの?」
「俺の隣だよ」
寿一は兄として人として、弟の寿限無を全部受け止めてみせた。プロレスラーはやっぱり相手を受け止めてナンボの存在なのだ。こんな器の人間になりたいと思った第5話だった。それにしても、寿三郎はどれだけ不貞をはたらいているのだろう……。第6話には阿部サダヲも登場するぞ。
『俺の家の話』これまでのレビューを読む
→『俺の家の話』1話|長瀬智也が老眼の衝撃。親の介護は実の親子だからできることもあるし、できないこともある
→『俺の家の話』2話|長瀬智也「オヤジは寂しい老人なんかじゃない。俺がいる」
→『俺の家の話』3話| 令和の寅さんは、介護から逃げられない。男も女もつらいよ
→『俺の家の話』4話|「うるせえ、クソジジイ」に隠された息子の気持ち
『俺の家の話』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
●『北の国から』は父の視点、子の視点、母の視点…あらゆる視点を内包する傑作である