『俺の家の話』2話|長瀬智也「オヤジは寂しい老人なんかじゃない。俺がいる」
長瀬智也主演、宮藤官九郎脚本の『俺の家の話』(TBS毎週金曜夜10時から)は、介護がテーマのホームドラマ。プロレスラーの息子(長瀬智也)が、能楽師(人間国宝!)の父親(西田敏行)の介護で実家に戻ってきて……。「宮藤官九郎といえば若者向きという先入観は捨ててください、介護に直面するひとのためのドラマです」と、ドラマを愛するライター・大山くまおが2話までを熱く振り返ります。
「クドカンドラマ」という先入観は捨てよう
長瀬智也主演のドラマ『俺の家の話』は、老親の介護をテーマにしたホームコメディー。脚本を務めているのは宮藤官九郎だが、「クドカンドラマって若者向きなんでしょ?」「テンポ速いんじゃない?」「知らない言葉がいっぱい出てくるんじゃない?」と構える必要はまったくない。現在50代、60代の介護に直面している人たち、40代のこれから介護のことを考えようとしている人たちが一番楽しめる、どっしりしたドラマに仕上がっている。
主人公は42歳の観山寿一(長瀬智也)。能楽の人間国宝・観山寿三郎(西田敏行)の長男として生まれるが、17歳のときに家出してプロレスラーに。結婚もして子どももできたが妻とは離婚。プロレスラーとしても全盛期を過ぎた頃、父親が危篤になったのをきっかけに25年ぶりに実家に帰ってきた。
寿三郎は一命をとりとめたものの、車椅子生活になってしまう。寿一はプロレスラーを引退し、寿三郎の介護をしながら後継ぎになることを決心する。しかし、寿三郎の側には身元不明のヘルパー、さくら(戸田恵梨香)がいた。寿三郎はさくらとの婚約と全財産の譲渡を彼女に宣言。はたして彼女は“後妻業の女”なのか――。
たしかに介護は重いテーマだが、クドカンらしい端々に切れ味の鋭いギャグが挟み込まれており、笑わされながら、考えさせられ、最後はしみじみしてしまう第1話だった。
寿一を取り巻くさまざまな問題
第2話では、寿一と彼を取り巻くさまざまな問題が描かれた。まず、金銭的な問題。プロレスラーを引退した寿一にはまったくカネがない。離婚した妻・ユカ(平岩紙)に渡す養育費にも事欠くありさまだ。大きな邸宅に住んでいるが、寿三郎の家にも現金はなかった。芸養子の寿限無(桐谷健太)がデリバリーのバイトをしてしのぐほど。寿一も一緒にデリバリーのバイトを始めることに。
もう一つの問題は、寿一の一人息子、秀生(羽村仁成)のこと。秀生には学習障害と多動症の兆候があった。学校でも5分として座っていられず、友人にもケガをさせてしまう。寿一とユカは秀生をフリースクールに入れようとするが、寿一には月謝5万円を支払うカネがない。
さらに後継者問題もある。寿三郎の門弟たちは出戻りの寿一のことを後継者として認めていない。寿三郎の指導のもと、寿一は25年ぶりに能の演目「高砂」の稽古に打ち込むことになるが、付け焼き刃でできるものではない。無収入のまま、厳しい稽古が続く。
もちろん、寿三郎の介護は現在進行形で待ったなし。「要介護1」とはいえ、風呂と排泄は寿一が手伝わなければいけない。ケアマネジャー、末広涼一(荒川良々)が入浴つきのデイサービスを勧めるが、寿一は「お風呂は何がなんでも俺がやると決めたんで」と断ってしまう。保険が適用されるため、デイサービスの料金はそれほど高額ではない。「何がなんでも」というあたりに長男の意地を感じてしまう。
『俺の家の話』はどんな問題でもテキパキ解決してしまう痛快なドラマではない。寿一を取り巻く問題は何も解決しないまま積み残されている。ただ、その分、とても誠実なドラマだとも言えるだろう。
さくらは“後妻業の女”なのか?
寿一の弟で弁護士の踊介(永山絢斗)は、“後妻業の女”であることが疑われるさくらの身元を追っていた。さくらは過去に3人の高齢男性を介護し、彼らの死後に多額の遺産を手にしていたのだ。踊介、舞(江口のりこ)ら観山一家の前で証拠を突きつけられたさくらは、自分の過去を語り始める。
さくらは献身的に介護に打ち込んでいただけだった。介護された男性はみるみる生気を取り戻し、半年だった余命が1年延びるほど。介護を嫌がっていた実の息子たちではなく、さくらに財産を与えると遺言状を書き換え、そのまま死んでいった。
「私は寂しい老人を慰めて、それに見合った対価をいただくだけの女です」
「騙すつもりはない。遺産目当てではけっしてない。けど、もらえるものはもらいます。いけませんか?」
こう堂々と言うさくら。過去にも亡くなった高齢男性の遺族にこんなことを言っていた。
「半年だった余命が1年に延びたんです。それだけのことをしたんです、私は。あなたたちに責められるいわれはない。何もしなかったあなたちに私を責める権利はないはずです」
ぐうの音も出ない正論だ。さくらは肉親も嫌がる介護に打ち込んで、その正当な対価を得ていただけ。「婚約」をエサにしているので“後妻業の女”といえばそうなのだが、なんだか潔い。話を聞いていた寿一はさくらを引き止めるが、彼女の言葉を一つだけ訂正する。
「オヤジは寂しい老人なんかじゃない。俺がいる。踊介がいる。舞がいる。寿限無もいる。寂しくなんかない。それでもよければ、明日も来てくれ」
こうして介護される親と息子、娘、芸養子、ヘルパーという“家族”が出来上がった。血のつながった家族もいれば、そうでない家族もいる混成部隊。でも、こういう家族が身の回りにいる人は本当に幸せだと思う。かくして“後妻業の女”というミステリー部分は早々に解決してしまった。
『俺の家の話』は“男”の話
『俺の家の話』というだけあって、このドラマの語り手は一家の長男・寿一だ。彼は長男だという理由で寿三郎の後継者となり、長男だという理由で親の介護を行っている。長男としての責任感もあれば、遺産が手に入るのではないかという打算もある。意地もある。もちろん父親への愛情もある。
つまり、これは男の話なのだ。これまで介護といえば女性がするもの、というイメージがあった。夫の両親の介護は妻がする。妻の両親の介護も妻がする。夫の介護も妻がする。女性はずっと介護に追われることになる。
『俺の家の話』では、長男の寿一がいろいろな事情を背負って介護の全面に立つ。もちろん、さくらのサポートもあるが、うまくやっていけるかどうかは彼次第となる。先に介護当事者や介護について考えている人は必見と書いたが、正しくは「介護当事者や介護について考えている男性」が必見のドラマということになるだろう。
第2話のラストで寿一はさくらからの借金10万円を返すためにプロレスのバイトに行き、家にひとりで残された寿三郎は倒れてしまった。無職の長男が介護をやると決めたとき、どんな困難が待っているのか、どんな葛藤があるのか。今後はそれを見せていってくれるような気がする。
『俺の家の話』これまでのレビューを読む
→『俺の家の話』1話|長瀬智也が老眼の衝撃。親の介護は実の親子だからできることもあるし、できないこともある
『俺の家の話』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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