【しびれ】に隠れた実は怖い病気とは?手・足・指・顔面のしびれが原因の疾患をチェック
長時間の正座で足がビリビリしたり、寝相が悪くて起床時に手がジンジンしたり…。「しびれ」は日常よく起こる、比較的なじみのある症状だ。だからこそ「そのうち治る」「年のせいだから仕方ない」と、長引くしびれを放置する人が多く、それが症状悪化につながるケースが少なくない。“しびれのプロフェッショナル”と呼ばれる「のじ脳神経外科・しびれクリニック」院長の野地雅人さんにしびれに隠された病気や、しびれの自己診断できるチェック法など、詳しく教えてもらった。
「患者さんの約6割は、しびれを発症してから受診までに1~2年以上かかっています」
と野地雅人さんは語る。
「しびれに重大な疾病が隠れていることもあります。自己判断せず専門医に診てもらい、現状を正しく把握することが大切です」(野地さん・以下同)
しびれとは…助けを求める神経の悲鳴
「しびれとは感覚神経の1つ。たとえば、手で火に触れると熱いと感じる。
これは、火に触れた手が熱いのではなく、熱いという刺激を受けた感覚神経が情報として脳に伝え、脳が『熱い』と認識します。
感覚神経が正常であれば熱いと感じるだけですが、神経が障害を受けると持続的な異質の刺激が発生し、脳がしびれとして感じるわけです。
つまり『しびれ』とは、脳がキャッチした“異常な感覚”のこと。そこから病気につながるのは、主に椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきついかんきょうさくしょう)などの老化、生活習慣で蓄積された神経の圧迫か、糖尿病性神経障害などの神経自体がダメになってしまう変性です」
まずしびれのサインをチェック!
★こんな症状があったら注意!
□朝起きると両手がビリビリとしびれる
□長い時間歩いていると両足がしびれて、そのうち歩けなくなってしまうことがある
□肩から上腕にかけて痛みを伴うしびれがある
□足の指の先端が継続してジンジンしびれている
□顔面のしびれ、唇のまわり、舌のしびれがある
しびれが原因となる疾患としびれの症状は?
しびれが原因となる疾患の約半数を占めるのは、
・「変形性頸椎症」
・「末梢神経障害」
だ。加齢や女性特有の条件によって起こる疾患も多い。しびれがあり、首・肩こりや腰痛持ちの人は特に注意を。
脳に原因があるしびれ
●脳血管障害(のうけっかんしょうがい)
脳の血管が破ける、詰まる(脳出血や脳梗塞など)ことで細胞に栄養が届かなくなり、脳の働きに障害が出る。しびれは障害を受けた側と反対側の手足に起こり、特に、視床(視覚や聴覚などの感覚を脳に伝える部分)に起こると、しびれとともに強い痛みが生じる。
「短時間で改善する手足のしびれは、脳梗塞の前触れとされる一過性脳虚血発作の場合があるので、専門医を受診しましょう」
末梢神経に原因があるしびれ
●感覚異常性大腿神経痛(かんかくいじょうせいだいたいしんけいつう)
腰痛もちの人が発症することが多く、重症化するとしびれや痛みで歩行困難になることも。多くは片側の太ももの前面や側面にしびれが出る。原因は骨盤のゆがみ。骨盤まわりの筋肉から太ももが圧迫されることでしびれが発症すると推測される。女性は矯正下着による圧迫が原因のことも。
●胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)
なで肩の女性がかかりやすい。背骨から腕や手に向かう神経は第一肋骨と鎖骨の間の隙間を通っており、この隙間が胸郭の出口。「なで肩や肩の下がっている人はこの隙間が狭くなっています。神経や血管が圧迫されて手や腕にしびれや痛みを生じやすいのです」。
●手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)
50、60代の女性がかかりやすい。人差し指、中指を中心に親指や薬指の半分にしびれや痛みが出る病で原因は不明。
●足根管症候群(そくこんかんしょうこうぐん)
足の内くるぶしの下にある足根管が狭くなり、足の裏につながっている神経が圧迫される。
「きつい靴による圧迫や、神経のまわりにある血管の影響が原因と考えられています。かかとを除く足裏のしびれが特徴」
背骨に原因があるしびれ
●変形性頸椎症(へんけいせいけいついしょう)
首の骨が加齢により変形して骨のとげができることで、背骨にある神経や枝分かれした神経が圧迫や刺激を受け、多くは片側の手のしびれ、痛み、脱力などの症状を引き起こす。頸椎疾患のしびれは複雑で、障害されている神経の場所によってしびれる部位(腕、手、指先など)が細かく異なる。首や肩の強いこりを伴うことも。
●腰部脊椎管狭窄症(ようぶせきついかんきょうさくしょう)
加齢とともに脊椎の関節や靭帯が厚くなり、脊柱管(神経の通り道)に突き出して中の神経が圧迫されしびれが起きる。少し歩くと尻から脚にかけてしびれて歩けなくなるが、数分間座って休めば歩けるのが特徴。同様のしびれは動脈硬化が原因になっていることも。
●腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア
腰椎の骨と骨の間でクッションの役割をする椎間板の組織が神経を圧迫して発症。多くは片側の下半身にしびれ、痛み、脱力が起こる。太ももやふくらはぎにしびれがある場合は坐骨神経痛を伴うことも。
→「坐骨神経痛」をセルフチェック|しびれ、痛みの原因となる病気がわかるチェックリスト
内科的疾患に原因があるしびれ
●糖尿病性神経障害(とうにょうびょうせいしんけいしょうがい)
糖尿病が原因。内臓から起こるしびれとして最も多く、悪化すると痛みも生じる。
「糖尿病では神経に栄養を送っている血管が障害されて神経障害が起きます。両方の足先がなんとなくジンジンするしびれから始まり徐々に上へ。膝くらいまでくると両手先もしびれるようになるので、この特徴から“靴下・手袋型のしびれ”とも呼ばれています」
・ビタミン欠乏
現代人に増加中。インスタント食品ばかり食べる人、日常的な過度の飲酒による慢性アルコール多飲者などに多い神経障害。
「アルコール多飲者は、ビタミン不足以外にアルコールそのものによる神経の障害から、手足のしびれを起こす場合もあります」
しびれの初診では何を聞かれる?
「初診でお聞きするのが、
【1】いつ起こったのか(昨日なのか10年前からなのか)、
【2】どんな感じのしびれか(ジンジンする、痛みを伴う、感覚がないなど)、
【3】しびれの範囲。
最初の手がかりとなる重要な要素なので、軽症でもしびれを感じたら【1】~【3】を記録しておくことが早期治療の近道です。
特に【3】はしびれの場所が広がる、変わることもあるので順を追って記録しておきましょう」(野地さん・以下同)
しびれの治療は?
野地さんのクリニックでは、問診を踏まえたうえで、しびれる部位や症状の出方から原因を探り、関係部位をX線撮影、CT(コンピュータ断層撮影法)、MRI(磁気共鳴画像診断)、電気生理学的検査などで詳細に調べて総合的な診断が行われる。
「正しい診断がつけば適切な治療ができますから、患者さんの希望に応じて外来で治療を行います。保存療法として、リハビリや漢方を含む投薬などで改善を目指す場合もあれば、骨の変性による神経の圧迫の場合は手術も有効な手段です」
野地さんのクリニックを訪れた患者を対象に行った分析(※)によれば、しびれ患者の平均年齢は62.1才。男性に比べ女性患者が多く、男女ともに40代から増え始め、70代がピークだ。
「しびれが原因でQOL(生活の質)を落としている人は大勢いますが、その多くが命にかかわらない病状のため、外科・内科的疾患に比べると軽んじられる傾向にあります。
重篤化するまで病院に行かない、または、病院に行ったとしても正しく診断されないまま、効果が期待できない理学療法を続けさせられる。丁寧に診断すれば、原因不明のしびれは意外に少ないのです。
毎日不安を抱えて過ごすより、充分な検査をして原因を突き止め、QOLを向上させるのが賢明です」
もちろん、劇的によくなるケースもあれば、原因が解明され治療や手術、リハビリを行ったとしても完全に治らないしびれもある。
「ただ、しびれを放っておくより、“命にかかわる病気ではない”と診断を受けるだけでも精神的な負担が減りますし、その後のしびれとの向き合い方も変わるはずです。
さらに、早期受診によって脳梗塞など予期せぬ病気が発見されることもあります。気になる部位にしびれがあるなら、ためらわずに専門医に受診を」
しびれを感じたら何かを受診する?
しびれに特化した専門病院やしびれ外来はまだまだ少ない。ならば、どこに行けばよいのか?
「しびれには神経が大きくかかわっているので脳神経外科や神経内科、または脊髄脊椎科に行くのがおすすめです。いずれもない場合は総合診療科に相談してみてください。整形外科でもOKですが神経専門の医師がいるかどうかを確認すること。
さらに、日本脊髄外科学会のホームページには、しびれに対して患者に寄り添った診療を行う全国の病院が掲載されています(一部地域にはなし)。
特に、治療が長引く、手術が必要になるなど通院のケースを考慮すると、フォローが確実なお住まいに近い病院が適切です」
日本脊髄外科学会
www.neurospine.jp
教えてくれた人
医師・野地雅人さん
「のじ脳神経外科・しびれクリニック」院長。神奈川県立足柄上病院・脳神経外科部長在任中に日本初の「しびれ外来」を開設、2017年からはしびれ専門クリニックを開院し、6000人超の患者を診察してきた“しびれのプロフェッショナル”
イラスト/さややん。取材・文/佐々木めぐみ
※女性セブン2020年12月3日号
https://josei7.com/
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