終末期の症状を知っておきましょう…看取りの時に何をしてあげればいいのか|700人看取った看護師がアドバイス
点滴をしている、していないに関わらず、「むくみ」は、ひとつのサインです。むくんでしまうのは、心臓の血液が流れにくくなっていたり、血液や水分が戻りにくくなっていたりする時――つまり心機能が落ちているためです。腎機能が落ちている時も、同じようにむくみます。「むくみ」は、心機能、もしくは腎機能が落ちているという証拠なのです。もうひとつのサインとして、亡くなる直前に、手足が冷たくなることがあります。これも、心臓の動きが十分でないために起こることです。
●心臓や肺など大事な器官に優先して血液を流そうとする
人の体は、意思に関係なく、体を維持しようとして働いてくれています。心臓の動きが正常な時には、全身にくまなく血液を回しています。しかし、正常でなくなってくると、指先などには回さずに、心臓や肺など大事な器官に優先して血を流そうとするのです。
あたたかい血液が回ってこなくて手足が冷たくなるのは、弱っている体が、なんとか心臓や肺を維持しようと最後の努力をしている証とも言えるのです。
最期の段階になってしてあげられることは
●クリームを塗ったり、口を湿らせたり
体内の水分量が減っているので、手足もカサカサしてきます。「クリームを塗ってあげてもいいですか?」とご家族のかたから聞かれることがあります。ぜひ、塗ってあげてください。最後まで、何かしてあげたいと考えるのは当然のことです。
また、口の中も乾きます。ナースに相談しながら、たとえば湿らせたガーゼを口に当てたり、マスクをしてあげたりすると、楽になります。
●アイスクリームを食べさせてあげていいか
「アイスクリームが好きだったので、食べさせてあげてもいいですか?」といったことを聞かれることもあります。「飲み込む」という行為は、それが原因で死に至ることもありますので、やはり、ナースに相談した上で行う方がいいでしょう。
そして、万一の可能性をわかった上だったら、私は、アイスクリームなどを食べさせてあげてもいいと思っています。
●少しでも楽になるように、いろいろとしてあげるのがいい
患者さんが下り坂に入ってしまった時は、もう残念ながら何をやっても大勢に影響はないのです。そのことを、付き添う人もわかっておく方がいいと思います。そうでないと、自分がしたあのことのせいで亡くなってしまったというような後悔が残るおそれがあるからです。
ある段階に入ったら、どちらの側を向けるのが悪いなどということはありません。最期を迎えるまでの間、患者さんが少しでも楽になるようにと、いろいろとしてあげてください。
枕をどかしてしまってもかまいませんし、体の向きを変えてあげてもいいのです。
●さすったり声をかけたりしてあげてください
どうしたらいいかわからないで、遠巻きに立っているご家族もあります。ご家族の中に縁者を亡くした経験のある方がいると、亡くなっていくかたのベッドの枕元や足元に座って、手を握ったりさすってあげたりしていることが多いようです。それがいいと思います。
「最後まで耳が聞こえている」ということが言われます。よかったら声をかけてあげてください。
それは、声をかける側にとっても、いいことだと思います。声をかけて「見送ってあげた」と納得することができ、少しでも気持ちが楽になるからです。
今回の宮子あずさんひとこと
「最後の瞬間を看取れてよかった」という言葉をよく聞きます。
●最後の瞬間に立ち会うのが大事な親孝行だろうか
周囲から「それで、最後は立ち会えたんですか」とお決まりのように聞かれたりもします。しかし、「最後の瞬間に立ち会う」のが大事な親孝行だなどと思って、自分に課す必要があるでしょうか。
実際問題として、24時間、付き添うことはできません。「最後の瞬間に立ち会う」ことを最終ゴールの目標にして、できなかった時に、自分を責め立ててしまうのは不幸なことです。
●なつかしく親を思い出すことができるのが相応しい看取り方
それよりも「一緒にいられる時に、何をしてあげられるか」と考えた方がいいでしょう。
「何をしてあげられたか」ということではなく、「何かしてあげたと思うことができるか」ことが大事なのです。
「看取る」ということは、残される家族にとっても後々まで残る大きな行為です。これが正しいという看取り方はありません。「我が家流の介護」があっていいし、家族ごとに違って当然です。
残された家族の気持ちが楽になって、なつかしく親御さんのことを思い出すことができるなら、それがいちばん相応しい看取り方ではないでしょうか。
教えてくれた人
宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。
構成・文/新田由紀子