悪口ばかり言う人は寿命が5年短い!? 悪口がもたらす6つのリスク
人はなぜ悪口を言うのか。悪口ばかり言う人は職場にも友人にもいるだろう。しかし、その悪口が、自分の脳を傷つけているという。悪口が引き起こす危険なリスクやメカニズムについて、脳科学者・杉浦理砂さんと精神科医の樺沢紫苑さんに解説いただいた。
悪口…例えば
「あの人、なんであんなに服もメイクも古臭いのかしら。おしゃれのつもり? まるで“ひとりバブリー”だわ」「お義母さんたら、いい年してジム通いしてるの。いったい何才まで生きるつもりかしら」
わかっちゃいるけどやめられない、他人への悪口。長期化するコロナ禍でストレスがたまり、ついつい毒を吐きたくなる。しかし、「人を呪わば穴二つ」という言葉通り、他人に放った悪口は、あなた自身の体の不調となって返ってくることをご存じだろうか。
悪口を言うと脳内でドーパミンが出る
誰しも、他人の悪口を言ってスカッとする体験をしたことはあるだろう。そのとき、脳の中では何が起きているのか。脳科学者の杉浦理砂さんが説明する。
「悪口を言ってスカッとしたとき、脳内で『ドーパミン』というホルモンが分泌されます。本来、ドーパミンは、“やる気ホルモン”と呼ばれ、頑張って結果を出したときに分泌され、達成感や満足感といった“快感”をもたらしてくれます」
ドーパミンは、人間が成長するために不可欠な物質だが、目的を達成したり欲しいものを手に入れたりして快感を得ることで分泌されるため、ギャンブルや買い物などへの依存症を引き起こすこともある。
「ドーパミンは、悪口を言ったり『他人の不幸』を見聞きしたりすることでも分泌されることが実験で証明されています。大変残念ですが、“人の不幸は蜜の味”という言葉は、人間の本質といえる部分もあるようです」(杉浦さん・以下同)
悪口ばかり言う人の心理とは
実は、悪口を言っているときは、その人自身が苦境に立たされているときでもある。
「人間は、誰かと自分を比べて“負けた、劣っている、不幸だ”と思うと、強い劣等感とストレスを感じます。そんなときに誰かの悪口を言うと、相対的に自分の価値が高まるように感じ、ドーパミンが多く分泌されます。つまり、悪口を言っているときは、自信を失い、ネガティブな思考になっているのです」
悪口は依存症に…
悪口ばかり言う人は、常に人をおとしめることで自尊心を保とうとしているのだ。言い換えれば、自分に自信がなく、嫉妬深く、コンプレックスや自己愛が強い人だといえる。しかも、悪口には“依存性”がある。
「悪口を言うことで分泌されるドーパミンの刺激は『報酬刺激』といい、これによって脳の神経回路の一種である『報酬系』が活性化することで、快感や意欲などが引き起こされます。しかし、ドーパミンによる快楽は一時的なもの。快感を得るために何度も悪口を繰り返してドーパミンの受容体が過剰に反応し続けると、報酬系がマヒして、さらに強い刺激を求める悪循環に陥ります。すると、悪口の回数も、内容もエスカレートしていくのです」
悪口依存症は女性のほうがなりやすい
このメカニズムは、アルコール依存症や薬物依存症とまったく同じだ。しかも、精神科医の樺沢紫苑さんによると、男性よりも女性の方が“悪口依存症”になる可能性が高いという。
「例えば、男性は、飲み会で“自分と相手の話”を好んでする傾向があります。自分の仕事に直結するので、職場の気に入らない上司の悪口を言うことはあっても、有名人や共通の古い知人など、“いまの自分に直接関係のない人”の噂話や陰口は、そもそも面白いと思わない人が多いのです。一方で、女性は“その場にいない人”を話題に挙げる傾向が強い」
女性は男性に比べて他人に興味を持ち、コミュニケーションに長けているからこそ、おしゃべりが高じて悪口大会になることも少なくないというわけだ。
悪口依存が招く危険なリスクと脳のメカニズム
悪口の恐ろしいところは、その依存性ばかりではない。自分の口から出た悪口は、本当に自分に跳ね返ってくるのだ。
1.悪口を言うと自分の脳が傷つく
「例えば、街中でどこからか『バカヤロウ!』と怒鳴り声が聞こえてきたら、たとえ自分に向けられた言葉でなくても、誰でもビクッとします。
これは、脳の中心にある扁桃体が危険を察知して、脳にストレス信号を発するための自然な現象です。扁桃体は、魚類や両生類などの下等生物なども持つ、きわめて原始的な部分。瞬時に危険を察知して回避するために、40~50mm/秒のスピードで働きます。
一方で、“いま、どこかでバカヤロウと聞こえたのは、誰かがけんかしているんだ”などと、複雑な判断はできません」(樺沢さん・以下同)
一方で、前頭前野は、最も理性的で高度な働きをする部分だ。
「“いまの怒鳴り声は危険ではない”と理解するのは前頭前野ですが、理解したときには、すでに扁桃体が危険を感じて、ストレス信号を出した後です」
われわれの脳は、悪口などのネガティブな言葉を本能的かつ瞬時に「危険なもの」と判断するということだ。しかし扁桃体は、その悪口が誰に向けられたものなのか判別することはできない。
「つまり、自分が誰かに『このバカ!』と言い放ったとしても、扁桃体が負うストレスは、自分が人に『このバカ!』と罵られたときと同じなのです」
悪口が脳に与える影響は…
【前頭前野】
最も高度に発達した、理性や思考を司る部分。感情の制御、行動の抑制などにかかわっている。思春期のうちは未発達。
【大脳基底核】
ドーパミンやアドレナリンなどによる快感を受け取ると満足して欲求が抑えられるが、過剰な快感を受け続けると次第にマヒしていき、果てしなく快感を求め続けるようになる。
【扁桃体】
本能で危険を察知する、最も原始的な部分。魚類や両生類にもあり、危険から逃れるために瞬間的に動き、危険を察知するとストレスを感じる。自分の口から出た悪口でも、扁桃体は「ひどいことを言われた!」と捉え、ストレスを受ける。
2.アドレナリン増加で心臓疾患のリスク上昇
悪口を言うとドーパミンで快楽が得られるが、それと同時にアドレナリンやコルチゾールといった、ドーパミンとは別のホルモンも分泌され、これが健康に悪影響を及ぼす。
「アドレナリンは、怒っているときやジェットコースターに乗っているときなど、興奮によって出る物質。瞬間的な快楽にはつながりますが、一方で血圧や心拍数を上げる作用もあります。
怒りっぽい人は心筋梗塞になりやすいと昔からいうように、日頃からアドレナリンが多いと心臓疾患のリスクが上がります」
3.ストレスホルモンで太りやすく・不眠に
コルチゾールは“ストレスホルモン”と呼ばれ、ストレスを受けたときに脳や体を“臨戦態勢”にするために出る。
コルチゾールが出ると、エネルギーを体にため込むため食欲が増して太りやすくなったり、睡眠の質が落ちたりする。
4.前頭前野の働きが低下すると認知症のリスクも
こうして扁桃体がストレス信号を発し続けると、その“暴走”を抑えようとして、理性を司る前頭前野が酷使され、働きが低下する。すると、本能むき出しの感情的な人になってしまうばかりか、認知症のリスクまで上がるのだ。
5.海馬が萎縮するとうつや記憶力低下も
「脳の扁桃体のすぐ近くには、記憶を司る『海馬』があります。扁桃体の過活動によって慢性的なストレスを感じるとコルチゾールの過剰な分泌で神経細胞が破壊され、海馬が萎縮します。すると記憶力が低下したり、うつやアルツハイマー型認知症などを発症しやすくなります。
6.自律神経が乱れ老化が加速
また、悪口を言うことで快楽とストレスを同時に受け続けると、全身の臓器を調整する自律神経が“臨戦態勢”に入り、全身が過剰に活動することになる。
すると、老化を促進する活性酸素が大量に発生し、全身の老化が加速します。“人を呪わば老い加速”と、肝に銘じてください」(杉浦さん)
悪口ばかり言う人は死亡率も高まる!?
「世間や他人に対する批判度が高い人は、認知症のリスクが3倍、死亡率が1.4倍高い」「ゴシップや噂話が好きな人はそうでない人に比べて寿命が5年短い」など、悪口が命を削ることを示す研究結果は、世界中で発表されている。
悪口ばかり言う人が危険なリスク【まとめ】
・自分の脳が傷つく
・血圧や心拍数が上がり、心臓疾患のリスクが上昇
・太りやすくなる
・睡眠不足
・認知症のリスクが上昇
・うつ
・記憶力低下
・活性酸素により老化が加速
・寿命が短くなるなど
自分の命を守るために、悪口は控えたほうがよさそうだ。
教えてくれた人
脳科学者・杉浦理砂さん/スタンフォード大学で脳トレ研究にも従事した脳科学者で『ブレインフィットネスバイブル 脳が冴え続ける最強メソッド』などの著書も。
精神科医・樺沢紫苑さん/精神科医として多くの著者がある。作家、映画評論家など幅広く活躍。
※女性セブン2020年11月19日号
https://josei7.com/
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