幸せな終の住処は自宅か施設か…最終結論!メリットデメリットを専門家が解説
当たり前だが私たちは一度しか“終の住処”を選べない。もし「やっぱり別の場所がよかった」と後悔してもリカバリーはきかない。しかし、先人や専門家から情報を集め、学ぶことはできる。自分にとって、最適な“終の住処”は住み慣れた自宅なのか、常に第三者が常駐していて、安心して過ごせる「施設」なのか──最期まで幸せに生きるための一助としてほしい。
終の住処:自宅と施設のメリット・デメリット
自宅で暮らしていれば、24時間、いつでも好きなときに好きなところに出かけられる半面、食事の用意や洗濯、掃除などはすべて自分でこなさなければならない。体力が衰えれば、負担を感じることもある。介護コーディネーターの山川仁さんが話す。
施設で快適に暮らす実例
「現役時代はバリバリのキャリアウーマンで、夫に先立たれた後、趣味や地域活動にとアクティブに過ごしていた女性がいました。この女性は70代の終わりになり、身内にすすめられ、2年間も迷った末、しぶしぶ施設に入りました。しかし80代になったいまは『とっても快適』と言って、見学に来た友人を自ら案内し、『あなたも入居なさいよ』と勧誘するほどに。もともとひとり暮らし中は食事の用意が億劫だったそうで、この女性のように家事を負担に感じる人には、施設暮らしは向いているといえるでしょう」
「高齢者住まいアドバイザー協会」代表理事の満田将太さんは、施設で生活することで、心身ともに健康を取り戻したケースもあると説明する。
「家にこもりがちで食事はコンビニ弁当ばかりという人が施設に入った。すると栄養バランスが整い、そのうえ、毎週予定されている“お茶の時間”に同年代の入居者との交流も生まれ、一気に健康になりました。イヤイヤ施設に入居する人が多いものの、よい結果が出るケースも少なくない」(満田さん)
施設のデメリットとは
だが、入居が吉と出なかった人もいるようだ。
「手押し車を使って買い物に行くなど、自分で身の回りのことをやっているからこそ生活に張りが出ていた人もいる。施設に入ってADL(日常生活動作)のレベルが落ちた結果、介護度が上がってしまったケースもあります」(満田さん)
管理された生活に息苦しさを感じるパターンもある。大阪府在住の村田和子さん(67才・仮名)は施設に入ることを検討したものの、いくつか見学した結果、入居せず在宅を選んだ。
「私は夜型で夜中にお腹が空いてインスタントラーメンを食べることもザラですが、多くの施設は消灯時間が決まっていたり、やけどを避ける意味でお湯を沸かすことを制限しているところがある。朝も遅くまで寝ていたいが、他人の目があればそうもいかない。何十年も夜型だったから、そうそう生活リズムは変えられない。そう思うと、在宅で好きな時間帯に生活した方がいいように思えました」
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施設で幸せに暮らすための準備
当然ながら、施設の居心地は建物そのものはもちろん、運営スタッフや入居者といい人間関係を築けるかによる部分も非常に大きい。だからこそ施設を終の棲み処と決めたなら、後悔のないよう全力を注いで選定し、その後はいい関係を築くべく積極的にコミュニケーションを取るべきだ。
「90日以内に退去した場合、前払金の全額を必ず返還しなければならないクーリングオフ制度はあるものの、できれば元気なうちにたくさんの施設に足を運び、多くの選択肢から選ぶに越したことはないのです」(満田さん)
都内で教員をしていた岡田洋子さん(67才・仮名)は、全国の施設を見学、厳選して退職と同時に静岡県の施設への入居を決めた。
「夫とは離婚し、一人娘は家庭を持ったので独居で寂しい老後になるのはごめんだと、元気なうちから有料老人ホームへの入居を決めました。自宅とは離れた場所になりましたが、陶芸やパン教室など地域の活動に顔を出し、新しいお友達もたくさんできた。高齢になってから新しい環境に慣れるのは大変だから、早くに決めて正解だったと思っています」
満田さんも「施設でうまくやるためには、ある程度、元気なうちに入るべし」と声をそろえる。
「個人差はありますが、80才前後の元気なうちに入居すれば、嫌な人とはかかわらずに、気の合う人とのコミュニケーションを広げることも可能。例えば90才近くになってからだと、なかなか気の合う仲間はつくりにくいのが実情です」(満田さん)
終の住処:自宅で暮らす工夫とは
一方の自宅暮らしは、これまでのコミュニティーを維持すればいいわけだが、これにもやはりひと工夫が必要だ。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんが話す。
「同じひとり暮らしの友達をつくって、新聞がたまっていたり夜にカーテンが閉まってないときにはお互いに声をかけ合う約束をしたり、鍵を渡して様子を見に来てもらうなど、何かあったら連絡を取り合う“協定”を結んでおくなど、自分から積極的に人間関係をつくることをおすすめします」(太田さん)
施設も自宅も“住めば都”。しっかり準備をすれば、どこでも快適な「おひとりさまライフ」が送れるはずだ。
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教えてくれた人
介護・暮らしジャーナリスト・太田差惠子さん、介護コーディネーター・山川仁さん、「高齢者住まいアドバイザー協会」代表理事・満田将太さん
※女性セブン2020年11月5・12日号
https://josei7.com/