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暮らし

老後の住まい安心「リフォーム術」で後悔しない終の棲家を

 経年劣化や家族構成の変化にともない、誰もが我が家のリフォームを考える。広々としたリビングもほしいし、念願だった趣味の部屋にも胸躍る。だが待ってほしい。10年後、20年後、自分や家族はどうなっているのか。将来を見据えたリフォームのポイントを知ることで、後悔しない終の棲家を手に入れることができる。

 厚生労働省の人口動態調査によれば、2016年の死因順位は、1位がん37万2986人、2位心疾患19万8006人、3位肺炎11万9300人。こうした生活習慣病が死因の約6割を占めるが、見落とされているのが、家庭内での不慮の事故である。

 同調査によると、16年に家庭内事故で亡くなった65歳以上の数は1万2146人。同年の交通事故死が全年齢で3904人であるのと比べると約3倍にものぼる。家庭の中に潜む意図していない危険について、介護向けに特化したリフォームを手掛けるユニバーサルスペース社には多くの事例が寄せられる。

「親が階段から転落したので、手すりを付けたいという依頼もあります。しかし、負傷してからでは遅い。昨日まで健康だったのに、転倒がもとで入院して、自宅に戻れなくなったというケースもあります」(遠藤哉社長)

 同社では年間約7000件の住宅改修を手がけるが、約8割が手すりの取り付けで、そのほとんどが家族が要介護認定を受けてからのものだという。

 住み慣れた自宅で安心して老後を過ごせる住環境を提案する高齢者住環境研究所の溝口千恵子会長も、健康なうちに講じる対策の重要性を説く。

「先のことはその時に考えればいいと思いがちですが、本当は早ければ早い方がいい。手すりの設置はいかにも介護向けのリフォームだからと抵抗感を持つ人もいますが、つまずきの原因となる段差の解消などはハードルが低いはずです」

 家庭内での事故を防ぐポイントは、階段や風呂、トイレなど転倒しやすい場所への手すりの設置、敷居を中心とした段差の解消、風呂場などの滑りやすい場所の床材の変更が挙げられる。やがて車椅子での移動を余儀なくされることを想定すれば、玄関や室内ドアの開口部を広く取ったりすることも、10年後、20年後を見据えた賢いリフォームといえるだろう。

 玄関、外回りから階段、廊下、トイレ、風呂、居間、寝室まで、20年後を見据えた改修ポイントを徹底解説しよう。

外回りの改修ポイント

●玄関ドアを引き戸に
63万円(税込、工事費込)

 高齢になると、握力が弱くなり小さな取手が掴みにくくなる。玄関ドアを開き戸から引き戸に変更しておくと将来も安心。ドア幅は80㌢以上にしておくと、ゆとりをもって出入りすることができる。

●屋外用手すりの素材は樹脂皮膜に
9万7700円(通常固定)、11万2900円(遮断機付)

 夏の炎天下で熱くなったり、凍える冬に冷たくなっていると、しっかり掴めず危険であると同時に、外出するのが億劫になってしまう。素材を樹脂被膜にすることで、安全と安心が手に入る。通り抜け可能な遮断機付(写真矢印部分)もある。

●玄関アプローチにクッションマットを敷く
1万3200円/m²

 舗装された道でも滑りやすい材質では転びやすい。特に雨の日は危険なので、適度な弾力性のあるゴムマットを敷くことで事前に危険を回避したい。ポイントは、表面に水が溜まることのない材質の製品を選ぶこと。

段差を解消してつまずきを予防する

●飛び石や凸凹段差をなくし、コンクリートスロープに
20万円(税込、工事費込)

 道路から玄関までのアプローチによく見られる飛び石や凸凹の段差は、足腰が弱くなるとつまずく事故につながる。コンクリートのスロープにすることで段差をなくし、自力で車椅子の昇降が可能な緩やかな勾配にしておきたい。

玄関の改修ポイント

●屋内郵便受けを設置
5万8000円(税込、工事費込)

 屋外に設置したタイプや、郵便物が床に落ちるタイプの郵便受けだと、転倒や腰痛の原因につながる。屋内に郵便受けを設けることで、外へ取りに出たり、腰をかがめたりすることをなくしておく。

●「点手すり」はデザイン的にも◎
5500円

 いずれ必要なのはわかっていても、手すりの設置に抵抗を感じる人は多い。丸みを帯びた「点手すり」なら、デザイン的にも自宅の顔といえる玄関の雰囲気を損なわない。機能的にも手を添えるのに最適の形状で、木製なら和風住宅にも溶け込む。

●靴の脱ぎ履きに役立つ「Ⅰ型手すり」
9300円

 玄関先で靴を脱いだり履いたりする際に、壁に手をついてバランスをとるのは危険。縦型の手すりを設置することで、立ち上がる時や腰をかける際に掴まって姿勢を安全に保つことができる。直径2.8cmから3.5cmの円柱形が握りやすい。

●車椅子での移動用にはボタンを押して上下する「スマートリフト」
30万円

 車椅子での移動を余儀なくされると、上がり框が邪魔をして出掛けるのが面倒になる。ボタンの長押しで上下動する段差解消機を設置すれば、外出が楽になるだけでなく、介助者の負担も軽減できる。

●玄関上がり框と色違いの木製踏台の設置で段差を解消
1万5200円

 外から入ってくる埃やゴミなどの流入を防ぐために生まれた上がり框だが、シニア世代には転倒の原因になる。国土交通省の推奨する高齢者や障害者に向けた建築設計標準である高さ16cm以下に抑えるか、踏台を設置して段差を解消するのが文字通り転ばぬ先の杖。踏台は色のコントラストをつけると、視力が低下しても識別しやすくなる。

階段の改修ポイント

●曲がり階段手すりは早めの設置を
1万3700円/m

 屋内では、年齢とともに足腰が弱まり、階段の事故が急増するが、妊婦や幼い子どもにとっても手すりのない階段は転落の危険性が高い。家族の年齢構成にかかわらず、早めに設置すべきリフォームの代表例。

●2階で居住したい場合は階段昇降機の検討も
130万円(税込、工事費込)

 足腰に自信がなくなってきたら階段を使わないことがベストだが、今までの生活を崩さずにどうしても2階で居住したい場合は、階段昇降機を付ける手もある。設置には、少なくとも75~80cmほどの階段幅が必要になる。

 

●カドにはクッション材で保護を
1400円

 加齢にともなって関節が固くなると、徐々に摺り足のように歩行も固くなり、ちょっとした段差でつまずくようになる。不意の転倒で怪我をしないよう、危険なカドをクッションで保護しておく。

●滑りやすい階段事故の予防策「階段マット」
8000円(15枚セット)

 直線の階段では、ひとたび滑ると一番下まで転がり落ちてしまう重大事故が起こりやすい。とっさに掴むための手すりの設置はもちろん、床材の変更や、滑りにくい表面加工がされたマットを敷くことが転落の予防になる。

廊下の改修ポイント

●段差にはスロープを設置して、つまずき予防
6800円

 高齢者のつまずきのもとになる段差は階段に限らない。敷居や異なる床材のつなぎ目など、若い時には気にも留めなかった小さな段差で転ぶケースは少なくない。スロープを設置して段差は3mm以下にするのが理想的。

●木製手すりを廊下の両側に設置
1万2500円/m

 廊下に連続した手すりを設置するだけでは不十分。行きも帰りも同じように利き手を使って手すりを握れるようにするために両側に取り付けることが、より安全な工夫といえる。

●暗い廊下を人感センサーで照らす「LED手すり」
7500円

 視力が低下してくると、暗くなりがちな廊下の歩行は、たとえ手すりがあっても転倒の危険度が増す。人感センサーで自動的に明かりのつく手すりがあれば、手すりの位置も足元も確認できて、安全に歩くことができる。

●廊下を横切って部屋へ移動する際に便利な「遮断機式手すり」
2万7300円(手すり棒含まず)

 年齢を重ねると日常の動作を手で支えながら行なうことが増えるため、手すりは連続して設置するのが望ましい。廊下を横切って部屋へ移動する時など、遮断機式の手すりなら途切れた部分を補うことができる。

風呂の改修ポイント

●水の量を楽に調整できる「シングルレバー水栓ハンドル」
8700円

 加齢で握力が低下すると、握ってひねるタイプの蛇口は固く感じるようになる。レバー式の水栓ハンドルに替えると、レバーの上げ下げで楽に水の量が調整できる。

●不測の事態に備えて「ワイヤレス報知器」の設置
6500円(税込、親機含む)

 風呂やトイレなどで突然身動きが取れなくなったり、声をあげられなくなったりすると、たとえ家族と同居していても不安。緊急ブザーを設置して万一に備える。

●濡れた場所での転倒予防に「浴室クッション材」を貼る
7500円/m²

 石鹸や水で濡れた風呂場では転倒事故が起こりやすい。水はけがよく断熱効果のあるシートを貼れば、事故が防げるうえに足裏の熱が奪われず、冬場に足元が冷たくなるのを防ぐことができる。

トイレの改修ポイント

●廊下側からも解錠できる「レバーハンドル」はいざという時に役立つ
4500円

 球状になっている旧来型のドアノブは、手先の衰えとともに操作がしづらくなる。また、内側から鍵をかけると緊急時に開けるのが困難なので、廊下側からも解錠できるタイプのレバーハンドルがいざという時に役立つ。

●縦型の手すりと横型手すりが合体した「L型ハンド」
2万円

「立つ」「座る」「いきむ」など、トイレでは想像以上に動きがある。縦型の手すりが起立時の引っ張る動作を補助し、横型の手すりがいきむ時の姿勢保持や着座をサポート。指を掛けられる工夫が起立を助ける。

●急激な寒暖差を防ぐ「ヒーター内蔵型天井照明」
2万3000円

 冬場の脱衣所やトイレで体調を崩すのは、急激な寒暖差によって心臓に負担がかかるヒートショックが原因。心筋梗塞や脳梗塞などを招きかねず、狭い場所でも暖房を完備したい。

●片手で簡単にトイレットペーパーが切れる「ワンハンドカット・ワンタッチ紙巻器」
2650円

 ホルダーのカバーを押さえながら、もう一方の手で紙を切る動作は、加齢とともに意外なほど難しくなる。片手で簡単に切れるものに替えておくのもひとつの知恵。

寝室の改修ポイント

●押入れをトイレにリフォームする
84万円(税込、工事費込)

 夜中にトイレに立つことが増えると、寝室からの移動は思いのほか不便に感じる。思い切って押入れをトイレにリフォームすれば、移動も楽で転倒のリスクを軽減できる。

●ドアを引き戸に変える「部品セット」の活用も
3万3000円

 筋力が低下してくると、ドアの開閉という前後移動の大きい開き戸はふらつきの原因になる。引き戸に変更すれば、開閉時の体の移動がほとんどなくなるうえ、上部のレールに吊ったドアなら軽い力での開け閉めが可能。既存の建具を活用すれば部品代だけでリフォームで

●縁側からの出入りには「アルミ踏台」を
3万8500円

 家庭菜園を楽しむ人だけに限らず、縁側からの出入りは日常の重要な生活動線となる。手すりが付いた踏み台を設置すれば、より安全な出入りができるようになる

●滑りにくく、弾力性のある床に変える「コルクフロア」
1万2000円/m²

 艶出しのワックスを塗った床材は、見た目はきれいでも高齢になると転倒の原因となる。コルク材など、滑りにくく弾力性のある素材に替えることで将来に備える。

●寝室に簡易トイレを置く選択肢も「ポータブルトイレ」
3万2000円

 寝室の近くにトイレを設置したくてもリフォームの手段がない場合、簡易的なトイレをベッドの横に設置することも選択肢のひとつ。水洗タイプもある。

居間と寝室間で呼び出し可能な「ワイヤレス報知器」で急な事態に備える
受信機4290円・送信機1840円(税込み)

 寝室や居間などに部屋間での呼び出しが可能な報知器を設置して、家族の体調が急に悪化した時に駆けつけられるようにしておくのがベスト。

撮影/内海裕之

※本特集の価格は参考価格。注記のないものは税抜き、工事費を除いた価格です。

※週刊ポスト2018年7月6日号

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