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シニアの安全運転に必要な3つの秘策「シューズ」「グローブ」「偏光サングラス」竹岡圭さん

 福祉車両スペシャリストの資格をもつモータージャーナリストの竹岡圭さんが、介護と車について語るコラム。今回のテーマは“高齢者の運転”。高齢者の運転の特徴は? 免許更新や車の安全装備、運転に必要なもとは…。高齢ドライバーが知っておくべき注意点などについて教えてもらった。

高齢者の運転事故件は本当に増えている?

 高齢者の危険運転や交通事故の報道をよく耳にするようになりました。また、免許返納をする高齢者も増えているようです。

 しかし実際問題、高齢者には何かと車が必要になるわけで…。

 前回お話しましたが、高齢になっても自分で乗り降りがしやすい福祉車両を選ぶという選択もありますね。

→介護しやすい車とは…福祉車両の選び方、車いすを乗せるなら?

 高齢になっても自分で運転できたほうが行動範囲も広がるし、病院や買い物にと車じゃないと行けない地域も多いですよね。私はいくつになっても運転していたいと願っているので、80代でポルシェに乗るのを目標に頑張りたいと思っています。

 そんなわけで、年を重ねてもなるべく長く安全に運転を続けていくために高齢者の運転に必要なことについてお伝えしていきたいと思います。

高齢者運転の事故・高齢者運転とは何歳から…クイズに挑戦!

 まずは、運転と年齢の話から確認していきましょう。〇×クイズを使って解説します。

【1】高齢ドライバーの交通事故は年々増え続けている→○か×か?

 アクセルとブレーキの踏み間違いによる衝突事故や道路の逆走による暴走など、何かと問題視されがちな高齢者の運転事故ですが…。

【2】高齢運転者とは70歳以上のことだ→○か×か?

 続いて2問目。高齢ドライバーとは何歳からを指すのでしょうか。何歳まで運転できるのでしょうか。現在は70歳から高齢者運転マークを付ける努力義務もありますが…。

クイズ解説:【1】実は高齢者運転の事故件数は減っている

【1】は「×」です。

 実は過去10年で交通事故自体が減っています。2010年は5万件を超えていた交通事故件数が、2019年には3万件に。高齢運転者が起こした事故に限ると、2010年が6979件から2019年は5524件と減少傾向に。ただし、事故全体における高齢運転者の割合は増えているのが現状です※。

クイズ解説【2】:警視庁によると高齢ドライバーは65歳以上と定義

【2】も「×」です。

 警視庁交通総務課統計よると、「高齢運転者とは、原付以上(特殊車を含む。)を運転している65歳以上の者をいいます」とあります。

 しかし、私は60歳を超えたあたりから運転にはかなり注意をする必要があると考えています。

→運転寿命を延ばす『運転脳トレ』で判断力・注意力など“運転脳”を強化

加齢と運転能力の関係

 私が車の運転と年齢を強く意識するようになったきっかけは、ある体験会のこと。

 車を運転していて赤信号でブレーキを踏むまでの時間を計測してみました。参加したのは以下の3人です。

・車の運転歴数年の20代アルバイトスタッフAくん

・運転歴20年越えモータースポーツもする40代の竹岡圭

・プロの男性レーシングドライバー50代のBさん

 3人それぞれ「アクセルを踏んで走る→赤信号を見る→ブレーキを踏む」までの時間を計測。勝負をしてみたところ…

 なんと結果は…Aくんの圧勝。40代の私が2位、僅差でBさんが3位という年齢が若い順の結果でした。

 私もBさんも、いわば運転のプロ。それが免許を取って間もないAくんに、何度やってもかなわないのでした。

 体験会の講師いわく、脳科学的な見地から、いくら運転がうまいベテランドライバーでも、脳の信号の伝達速度は、若いほうが早いとのこと。目で見て判断して体へ信号を送るそのスピードは年とともにだんだん遅くなってしまうんだそう。運転は経験だけを過信してはいけないという教訓でした。

高齢者運転の特徴と問題点…3つの注意で解決

 多くの高齢者が運転にまだまだ自信があるのはよ~くわかります。いまは60代、70代といってもすごく若いですからね。

 でも、前述のように運転に関する能力は年齢とともに判断や反射のスピードが落ちていくもの。

 そして私が高齢者運転講習の講師をしいてとくに感じるのは、男性はとくに「俺の運転はまだまだ大丈夫」というプライドがある人が多いということ。長年運転してきたからこそ、俺(私)は大丈夫と思いがちなのですが、その過信が危ないんですよね。

 60歳を過ぎた高齢ドライバーはとくに、以下のことに注意してほしいと思います。

高齢者が運転で気をつけるべき3つのこと

1.自分だけは大丈夫という考えを捨てること

2.車間距離に余裕を持つこと

3.まわりをキョロキョロと見ること

 高齢者の運転の特徴として、車間距離が詰まってしまったり、運転中はまわりをよく見るのは当たり前とはいえ、考えごとをしていると以外と周囲に目がいかなくなっていることも。そして、人は見ている方向に進んでしまう習性があるため、たとえば運転中に「あの電柱が怖いな」と感じていると、どんどんその電柱のほうに寄っていってしまうということが起こるんです。

 キョロキョロと周囲を見て全方向に注意を向けるというのは結構な集中力が必要なんです。

高齢者運転マークは70歳から努力義務

 70歳を過ぎると通称、高齢者マークを付けることが努力義務になっています。1997年には75歳以上でしたが、2002年から70歳に引き下げられました。

 もみじの形をしたものや四葉のクローバーの形のものもあり、カー用品店などで販売しています。最近はネットでも普通に買うことができます。周囲に認知してもらうためにも、70歳を過ぎたらつけておくことをおすすめします。

高齢者の運転免許更新に必要なものは?

 車の免許証の有効期間は、違反や事故がなければ一般的には5年です。

 70歳の人…4年※
 71歳以上…3年(免許取得後5年未満の人や違反運転者も3年)

※更新期間満了日の直前の誕生日に71歳を迎える人。

 このように免許の有効期限は70歳から短くなります。また、70~74歳の人は免許更新時に「高齢者講習」を、75歳以上の人は「認知機能検査」も受講する必要があります。

→高齢者が運転を長く安全に続けるための「産官学民連携プロジェクト」

75歳から免許更新時に受ける認知機能検査の例

高齢者が免許返納の前に考えるべき安全装備

 高齢の親に運転をやめさせたい、免許を返納してもらいたいと考える人も多いと思います。認知症を発症しているなど、あきらかな身体的理由があるなら仕方のないことですが、安全装備のある車を選ぶなど、運転をあきらめる前に見直しておけることもあります。

 事故件数は減ってきている背景には、ここ数年で飛躍的に車の安全装備が強化されたことが理由のひとつだと考えられます。安全装備のある車なら、補助金を使えるケースもあるんですよ。以下で解説しましょう。

高齢者運転の事故対策|安全な車を補助金でお得に

 高齢者が長く運転するにあたり、安全運転の装備のあるサポカーを選ぶといいでしょう。

 衝突時に自動でブレーキがかかる装置や、アクセルとブレーキの踏み間違いによる加速を制限する装置など、安全装備を搭載した車のことを、セーフティ・サポートカー(サポカー)と呼び、近年普及が進んでいます。

 経済産業省では、サポカーの普及や啓発を推進していて、2020年3月9日から「サポカー補助金」の申請受付が開始されました。

 以下の条件を満たした「サポカー」を購入する場合、乗用車で10万円、軽自動車で7万円、中古車で4万円の補助金が受け取れます。

・65歳以上のドライバーである

・「対歩行者の衝突被害軽減ブレーキと「ペダル踏み間違い急発進抑制装置」の両方を搭載している車である。

 なお、所有している車に後付けする場合でも補助金を受け取れるようになっています。

■サポカー補助金申請についてはこちら↓
http://www.cev-pc.or.jp/#no04

高齢者の安全運転におすすめの3つの対策

 安全な車を選ぶことに加え、それからもうひとつ、高齢ドライバーに大事なのが運転の“スタイル”だと私は考えています。安全運転のために是非身につけて欲しいのが、以下の3つです。

1.ドライビングシューズ

2.グローブ(手袋)

3.偏光サングラス

 こういったものを身につけることで運転がしやすくなるだけでなく、「これから運転するぞ」というスイッチが入って安全運転の意識が高まり、安心して運転できると思うんですよ。

 それぞれの選び方とおすすめのアイテムをご紹介していきます。

1ドライビングシューズ:ペダルの操作性を向上

 ドライビングシューズを履くことでペダルの操作性が格段によくなります。靴底が柔らかいゴム性など伸縮性のあるものを選ぶといいでしょう。

 レース用のレーシングシューズは、運転はもちろんしやすいものの靴底が極端に薄いため、歩いていると疲れてしまうので、普段は歩行も運転もしやすいドライビングシューズを愛用しています。

 私が長年愛用しているドライビングシューズが『キビラ』。日本人に多い足型に合うように作られたドライビングシューズで、デザインも素敵なものが多いんですよ。

【データ】
商品名:ボディバランスビットドライビングシューズ
価格:9790円
問い合わせ先:キビラ:https://www.kibera.jp/

 また、ほかにもリーガル、トッズ、クラークス、プーマ等々、実は数えきれないくらいたくさんのブランドからドライビングシューズは発売されていますので、自分の足の形に合うものを探してみてくださいね。

2.ドライビンググローブ:ハンドルを握りやすく!

 グローブをつけるだけでグリップ力がアップし、ハンドルの操作性が上がります。また疲れにくくなります。指先の部分まですべて覆うフルフィンガータイプのもの、指先は出ているハーフフィンガータイプのものがあります。蒸れにくく柔らかい革素材などがおすすめです。

 私が長年使っているのが、『カカザン』のグローブで、手袋職人が1つ1つ手作りしている香川県のメーカーのもの。

 グローブをつけることでハンドルが滑りにくくなって操作がしやすくなることで安全運転にもつながると思うんですよ。

【データ】
商品名:KNR-071
価格:2万6400円
問い合わせ先:カカザン https://www.caca-zan.net/

3.偏光サングラスで目の疲れを軽減

 サングラスは、フロントガラスに映り込む反射や雑光を抑えてくれる偏光レンズのものがおすすめです。

 偏光サングラスは、陽射しのギラつきを抑えてくれるのはもちろん、対向車両のドライバーの顔もしっかり見えるなど、周りのドライバーの動きもわかりやすくなります。また、高齢者はとくに気になる運転時の目の疲れを軽減してくれます。

 私が愛用しているのは『TALEX』製の偏光レンズのサングラス。普段メガネをかけている人にはオーバータイプのものが便利ですよ。


【データ】
商品名:TALEXオリジナルオーバーグラス(グロスダークグレー)EM6-D0302(トゥルービュー)
販売サイト:https://talex.co.jp/ct/overglass/
価格:1万9800円
問い合わせ先:タレックス https://talex.co.jp/
0120-608-660 9:00~18:00(平日のみ)

高齢者の運転について【まとめ】

 少子高齢化社会で、在宅介護や老老介護も増えています。ちょっと病院に行くから乗せていってと誰かに運転を頼めるような時代じゃないのかもしれません。

 自分のことはできるだけ自分で…。運転もしかり。健康を維持しながら、おばあちゃんになっても、なるべく長く安全に運転し続けるために、必要なものは何でも取り入れて、早いうちからできることをやらなくちゃ、と改めて思うのでした。

教えてくれた人

モータージャーナリスト・福祉車輌取扱士スペシャリスト 竹岡圭さん

竹岡圭さん

日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)副会長、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。車の試乗レポートをはじめ、テレビ・雑誌等メディアで活躍。テレビ『おぎやはぎの愛車遍歴NO CAR,NO LIFE!』(BS日テレ毎週土曜21時~)、『なかなか日本!~高速道路DRIVE1バン旅~』(TVK他、毎週水曜日21時55分~)にレギュラー出演。そのほかラジオにもレギュラー番組を持つ。福祉車輌取扱士スペシャリストの資格を取得し、介護に役立つ車のインプレッションを福祉車両メディア『ビリーヴ』https://believejapan.com/?cat=108にて配信中。2017年から全日本ラリー選手権にも参戦している。オフィシャルブログ「竹岡圭の晴れ女ブログ」 https://ameblo.jp/takeoka-kei330/

協力/ビリーヴ https://believejapan.com/

構成・文/介護ポストセブン編集部

 

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