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暮らし

高齢者が運転を長く安全に続けるための「産官学民連携プロジェクト」

 高齢ドライバーによる事故が取り沙汰され、免許返納を促す動きもある。しかし、車が暮らしの“足”として、なくてはならない人たちがいる。少しでも長く、安全に、運転し続けるために──三重県伊賀市で開催された“健康安全運転講座”の様子をレポートする。

産・官・学・民が連携して実現した「地域密着プロジェクト 健康安全運転講座」

 三重県の北西部に位置する伊賀市は、山々に囲まれた自然豊かな土地。上野城の城下町であり、忍者の里としても知られる。この土地で長く住民に親しまれている三重ダイハツ販売には続々と人が押し寄せた。

 この日行われたのは、今回3度目となる「健康安全運転講座」。60才から92才までの男性17人、女性10人の計27人が参加し、ほぼ全員が自ら運転してきていた。

「友人が免許返納したと聞いて不安になり、今の自分の状態を知っておきたくて…」(60代女性)

「毎日車に乗っていて、それが生きがい。長く運転するために、勉強しにきました」(80代男性)

 講座が始まると、会場は熱気を帯び、参加者たちの運転に対する熱量の高さがひしひしと伝わってきた。

「地域密着プロジェクト 健康安全運転講座」と題したこの取り組みは、ダイハツが名乗りをあげ、販売会社を拠点としたイベントを主催。地方自治体を介し、社会福祉協議会が地域住民に告知して参加者を募った。

 さらに、理学療法士協会の専門家による運転に必要な筋力や認知機能のトレーニング、日本自動車連盟(JAF)が正しい姿勢や運転中の死角を確認するといった安全運転講習を実施。まさに産・官・学・民が連携するプロジェクトだ。

「車がなくては生活できない」免許返納で懸念されること

 伊賀市社会福祉協議会の猪岡恵理美さんは、この取り組みについて語る。

「今、3人に1人が高齢者といわれますが、伊賀市では高齢者の割合が7割を超える地域もあります。高齢者のかたたちは、運転に不安は感じていても、車がなくては生活できないのも事実。買い物に行くにも、病院も美容院だって、車がないと行けません。免許を返納してしまったら、生活のための移動手段を失い、外に出られなくなって孤立化し、運動機能が低下してしまうことも懸念されます」(猪岡さん)

 今年3月の改正道路交通法の施行により、免許更新時の認知症検査が強化された。免許取り消しとなる高齢者が増えるとも予測され、免許返納を促す動きもある。

 高齢者の運転にまつわる女性セブンの読者アンケートでは、「76才になる夫の運転に不安を感じたことはありません。年齢で判断してほしくない」「高齢者だからって、一概に免許返納というのはおかしい」「都会はいいかもしれないが、地方は車がないとどうにもならない」など反対の声が多数。“何才まで運転したいか?”の質問には、70~80才の回答が最も多く、年齢を重ねても「できるだけ長く運転したい」という切実な声が寄せられた。

「車を手放した後の生活を支援するサービスはまだまだ少ないのが現状。地域を巡回するバスはあってもバス停まで遠いとか、タクシーだってすぐに来てくれるとは限りません。できるだけ長く運転するためにできることを、地域が一体となって取り組む。こういった講座は、今後ますます必要になると思います」(猪岡さん)

車を通して、お客様と地域への恩返ししたい

「地域に根差す企業として、長く住民に必要とされるには、“車を売る”だけではなく、その先のことを提案しなければならない。車を通してできることは何かと考えたとき、健康で長く運転してもらうための取り組みが必要だと感じました。車を買っていただいたお客様、そして地元・三重への恩返しができたら…。この取り組みを地域全体に広げ、定期的に続けていきたいですね」

 と、三重ダイハツ販売の代表取締役専務・長嶋典行さんは熱い思いを抱く。

 三重・松阪市とダイハツは、11月8日に地域包括協定を結び、連携してこういった取り組みを広めていくことを発表。三重、広島、静岡をはじめ、徐々にこのプロジェクトが波及している。

最高齢92才が参加。会場には笑顔が

 運転には、信号や周りの動きを察知するための認知機能や、バックをするときに振り返るのには首の動きや背中の筋力なども必要となる。そういった機能を鍛えるために考案された理学療法士によるトレーニングも実施された。皆で体操をしたり、運転に関するクイズをしたり、会場には笑顔があふれた。

 今回の参加者で最高齢の92才男性は、「運転姿勢はあまり気にしていなかったので、とてもためになりました」と、笑顔を見せた。

 67才の女性は、「夫に先立たれ、この先もずっと自分で運転しなければならないから、運転のために必要なことを学べてよかった」と、真剣な眼差しで語っていた。

安全運転のために体を鍛えておく

「1、2、“3”で拳を突き上げて~」と、三重県理学療法士会・番條友輔さんの掛け声に合わせて体操が始まると、会場は盛り上がりをみせた。

「運転に必要な認知機能や筋肉は、いくつになっても鍛えられます」。こう話す番條さんたち、三重県理学療法士会では、運転機能を向上させるためのストレッチや体操を新たに考案したそう。

「運転のための運動療法は、これまで考えられていませんでした。今回このプロジェクトを始めるにあたり、運転の時の体の動きを分析し、どんなトレーニングが必要なのか細かく検討しました。安全運転のためのトレーニングを、今後もっと普及させていきたい」と、意欲を語る。

「夫の運転で年に3回は旅行に行きますよ。今度静岡まで遠出するから、今回学んだことを参考にしたいですね」と、講座を終えた白髪の夫婦は見つめ合いながら微笑んだ。

 いつまでも一緒に車で旅を、元気に運転し続けたい――そんなささやかな夢を叶えるためのプロジェクトが、地域に根づき始めている。

※女性セブン2017年12月14日号

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