高木ブーインタビュー|加藤茶は「天才」。仲本工事の最高傑作は「ばか兄弟」【連載 第27回】
『8時だョ!全員集合』をはじめ、多くの人気番組で日本中を盛り上げてきたザ・ドリフターズ。いかりや長介さん、荒井注さん、志村けんさんは、残念ながらすでにこの世にいない。先日の『24時間テレビ』では、元気で活躍し続けている“こぶ茶”の3人が久しぶりに集結した。高木ブーさんが、加藤茶さんと仲本工事さんについて語る。(聞き手・石原壮一郎)
半分になってしまったドリフのメンバー
考えてみたらザ・ドリフターズは、半分になっちゃったんだよね。途中で抜けた荒井さんも入れて6人のメンバーのうち、荒井さん、長さん、この春にはいちばん若かった志村までいなくなった。残っているのは、加藤と仲本と僕。
8月末の『24時間テレビ』では3人で『Long Tall sally』を演奏したけど、やっぱりドリフのメンバーは特別な存在だなと感じた。息が合うっていうだけじゃなくて、息の合い方が違うっていうのかな。まあ、あれだけ一緒の時間を過ごしてきたんだもんね。
番組では演奏だけじゃなくて、打ち合わせで集まった楽屋で、僕のフェイスガードやマスクをたくさん持ち歩いていることを冷やかす場面も映ってたけど、ああいうのも懐かしかったな。『8時だョ!全員集合』のときも、毎週の会議で次のネタを考える合間に「そのカバン、どこで買ったの」なんてやってた。
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そんな流れでっていうとヘンだけど、今回は“こぶ茶バンド”の仲間でもある、加藤と仲本について話そうと思います。
加藤は、ひと言でいうと天才的なコメディアン。瞬間的な反応や表情で笑いを生み出す力は、本当にすごい。福島訛りのおまわりさんとか、ハゲヅラにチョビ髭の「ちょっとだけよ」とか、「ウンコチンチン」とか、あの面白さはあいつにしか出せないよね。
福島の高校を中退してミュージシャンを目指して東京に出てきて、長さんと同じ時期に「桜井輝夫とザ・ドリフターズ」のメンバーになった。そのときはまだ10代だったんじゃないかな。数年後にザ・ドリフターズのメンバーが4人同時に抜けちゃったときも、加藤が残ってくれたから、長さんは「まだやれる」と思ったんだろうな。
ドラムの演奏でいうと、力強いっていうより、軽くてノリがいいジャズ的な叩き方をする。あいつらしいっていうか、心地いいリズムで叩くよね。ドラムの音に合わせてメンバーがコケたりとか、そういうギャグと連動する叩き方は、事務所の大先輩でもあったクレージーキャッツのハナ肇さんを見習って身に着けたみたい。
ドリフの笑いは加藤と志村が引っ張ってきたわけだけど、志村はどっちかっていうと努力型だった。「全員集合」が終わったあと、ふたりで「加トケン」としてやってたけど、あのコンビもよかったね。刀の名人みたいに、志村が突っ込んで加藤が受ける。加藤がギャグをぶつけると志村がそれをもっと大きくしてはね返す。見ててホレボレしたもんね。
だんだん別々にやるようになったけど、あのコンビの才能を生かさないのはもったいないなあって、ずっと思ってた。まわりの事情や本人たちの考えもあったんだろうけど、志村はもっと加藤の力を利用してもよかったんじゃないかな。僕が口を出すことじゃないから、本人たちには言ってないけど。ここだけの話、かなり残念だったな。
仲本は、ドリフの中で「真面目役」をきっちり務めてた。眼鏡だって役作りで付けてたし、そういう真面目なキャラクターが似合うことを自分でもわかってたんだよね。あえて一歩引いて、加藤や志村につなげることで、ドリフ全体の笑いを大きくしてた。
長さんは自分の本の中で「(仲本はやればできるヤツだけど)めったなことではやる気になってくれなかった」なんて書いてたけど、そんなことはない。たしかに、やる気が顔に出づらいタイプではあるけどね。ま、僕に言われたくないかもしれないけど。
彼は都立の青山高校から学習院大学に入ったシティーボーイなんだよね。体操が上手っていうだけじゃなくて勉強もできたらしい。学生時代から音楽の世界に入って、僕や加藤ともそれぞれ別のバンドで一緒にやったこともある。ギターの腕前も歌もなかなかのもんだよ。仲本が得意なのはロックンロールで、ジャズは僕のほうがいいかな。
コメディアンとしての才能だって、加藤や志村には及ばないかもしれないけど、十分にある。ドリフの数あるコントの中で、自分が出てた雷様は別として、僕がいちばん好きなのは「ばか兄弟」なんだよね。赤い服の長さんが兄で、黄色い服の仲本が弟。やたら威張りたがる兄の長さんも、無邪気でとぼけた弟の仲本も、見事にはまり役だった。仲本は最近、TwitterやYouTubeを始めたらしいけど、きっと面白いものになると思うよ。
余計な話だけど、加藤と仲本の共通点は、何度か結婚していてどっちも奥さんが若いこと。加藤んちの綾菜さんは45歳下で、仲本んちの純歌さんが27歳下かな。どっちもいい奥さんで、彼らにパワーを与えてるところも共通してる。僕は僕で娘夫婦や孫からパワーをもらってる。3人ともおかげさまで元気だから、まだまだがんばらなきゃね。
「やっぱりドリフのメンバーはみんなすごいよね。加藤と仲本の才能も特別だね。これからも“こぶ茶”としても一緒にがんばります」
高木ブー(たかぎ・ぶー)
1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。2000年にはビートルズのスタンダードナンバー11曲をハワイアンでカヴァーしたCD『LET IT BOO』をリリース。現在はSony Music Shop(https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=2500&cd=DQCL000000660)で発売中(3300円税込)。
CD『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』(http://www.110107.com/s/oto/discography/DQCL-566?ima=1025)などアルバム多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。YouTube「【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう」( https://www.youtube.com/watch?v=9N3tZoPKKVA イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評!
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「恥をかかない コミュマスター養成ドリル」。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。
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