小型犬やシニア犬に散歩は必要? 排泄のために散歩に行くのはそもそもNG!?
小型犬は散歩をしなくても大丈夫?シニア犬に散歩は必要? 犬の散歩に適した距離や時間、歩くペースは? ドイツでは法律で義務化されている犬の散歩、果たして日本では…? そもそも散歩の効果とは何なのか、獣医師が解説する。
犬にとって散歩の役割や効果とは
トイプードルやチワワなど小型犬が人気だが、ほとんど室内で過ごす小さな犬にも散歩は必要なのだろうか。そもそも、なぜ犬にとって散歩が必要なのか…。目黒アニマルメディカルセンター/MAMeC顧問の獣医師・佐藤貴紀さんは、犬にとって散歩の役割は以下の4つだという。
1.運動
散歩は犬にとって大事な運動の時間。人間同様に筋肉は使わないと衰えていくので、生涯現役で自分の足で歩くためにも、散歩は重要となる。
2.健康維持
運動不足は、肥満を招くのにつながる。肥満傾向になれば、皮膚・免疫力・内臓疾患などさまざまな弊害が起こるので、健康上散歩は必要といえる。
3.気分転換
犬にとって散歩は気分転換になる。家の中だけでは刺激が少ないため、家の外に出ることで、家の中では触れることのない匂いや音を感じ、脳も刺激される。
4.コミュニケーション
犬同士の交流をすることで、本能も掻き立てられ、ホルモンなどの分泌も促される。さらに、犬だけでなく飼い主とのコミュニケーションをとるという面でも意味がある。飼い主との関係性が安定し、問題行動の予防にもつながる。
散歩=排泄の時間は間違い!?
「散歩=トイレの時間」と思っている飼い主も多いようだが、実は、これは間違い。
子犬の頃から、家で排泄・排尿をする習慣をつけていないと、台風や大雪の日など悪天候や災害時でも、外に連れていかなくてはならなくなることも…。
さらに、近隣トラブルという面でも、散歩を排泄の時間と決めてしまうのはあまりおすすめできない。
また、多くの行政では犬の排泄・排尿を済ませてから散歩に行くよう呼びかけている。万が一、排泄してしまったときに備え、必ず袋などを持参し、うんちは持ち帰るのがエチケットだ。
犬の散歩での触れ合いは人間にも好影響
さらに、コミュニケーションには、人間にとってもいい効果があるという。
「最新の研究では、人と犬が見つめ合ったり触れ合ったりすることで、人間も犬も共に幸せホルモンと呼ばれる“オキシトシン”が増えることもわかっています。
また、飼い主目線でみると、愛犬の歩く姿や様子、排便排尿などから愛犬の健康状態を知れるという利点もあります」(佐藤さん、以下同)
小型犬に散歩は必要?
いま犬は室内で飼われているケースが多い。その中でも、体の小さな小型犬は「散歩はしなくていい」と言われることもあるが…。
「室内である程度動き回るスペースがあるなら、運動量は確保できるかもしれません。しかし、散歩は運動だけでなくリフレッシュやストレス発散の意味合いもあるので小型犬であっても外での散歩をしたほうがいいいでしょう」
ストレスがたまって病気にかかりやすくなる、怒りやすくなるなど問題行動の要因にも。精神的に落ち着いて生活するためにも散歩は大切なのだ。
ドイツでは犬の散歩が法律で義務化
犬の飼い主は、1日2回以上、合計1時間以上は、犬の散歩をしなければならない…。ドイツでそんな法案が提出され、物議をかもしている。同案を発表したドイツ食糧・農業省によると、ドイツではほぼ5世帯に1世帯が犬を飼っており、すでに犬を屋外で散歩させることが既に法律で義務付けられている。
それに加え、先月新たに提出された法案では「1日2回以上・合計1時間以上」と、具体的な回数や時間を法律で規定する姿勢が示された。
なお、ドイツでは犬の法律に違反した場合は、獣医局やアニマルポリスと呼ばれる警察官から指導を受けたり、違反が続くと罰則や強制的に犬と離されたりといった処遇を受けるようだ。
小型犬の散歩は1日1回30分が目安
ドイツの法案では犬の散歩の回数や時間は、1日2回、1時間以上とされているが、日本ではどうなのだろうか?
「ドイツの法案は、大型犬をベースにしている数字だと考えます。日本では圧倒的に小型犬が多いので同じ数値はあてはまらないと思います。長時間歩くと疲れすぎてしまう場合もあります」
小型犬の場合は、1日1回、30分を目安にしてみてください。小型犬は歩くスピードが時速3.6kmくらいなので、30分散歩すれば約1.8km歩いたことに。この距離歩いたら、十分です。回数も、時間にゆとりがある場合や、運動が必要な犬の場合は1日2回が理想ですが、無理せず1日1回で大丈夫ですよ」
シニア犬の散歩は途中で休憩を
犬も人と同じで年を取ると足腰が弱ってくる。だからといって散歩は必要ないというわけではない。
「散歩をやめてしまうと、かえって老化を早めてしまう恐れがあります。シニアになれば何かしらの病気を持ち合わせていることもあるので、持病や体調などを考慮し、散歩コースや距離を見直しましょう。
また、脳に刺激を与えて老化を防ぐという意味では、いつも同じコースではなく、時々変えてあげるのがいいでしょう。また、疲れたようなら散歩の途中で休憩するなど、愛犬の様子をみながら無理のない範囲で行ってください」
適切な散歩の時間や距離の判断は?
散歩が足りているか、それとも少ないか、見分けるポイントは以下の2つだ。
・体重
・性格の変化
「体重適正量のご飯をあげているのに太っていくのであれば、消費カロリーが少ないことを意味します。性格が変わった、家を荒らすようになったなどの問題行動が目立つようになった場合は、ストレスが溜まっているのかも。どちらの場合も、散歩の回数を増やしたり、距離を延ばすなどの工夫をするといいでしょう」
犬の散歩の時間やタイミングの注意点3
食後すぐに散歩はさせない
食後だと、胃内の食べ物が原因で胃を移動させてしまう胃(い)捻転(ねんてん)を起こす可能性も。また、腸にガスを発生させて腹痛の原因になる可能性がある。
「急に興奮することで吐いたり、誤嚥(ごえん)(食べ物などが気管に入ってしまうこと)などを招く危険もあります。散歩は、なるべく食前のタイミングで。食後は最低でも1時間(個体差あり)は空けるようにしてください」
散歩の時間帯は早朝や夕方に
日差しの強い夏場は、熱中症の危険があるので昼間の散歩は避け、早朝か夕方が好ましい。
「これからの時期は、昼間でも構いません。夜間の散歩は、事故やトラブルになりやすいので特に注意が必要です。リードや首輪にライトを装着したり、光を反射する反射材を使用したアイテムを身に着けるなどして、周囲に飼い主だけでなく、犬の存在を知らせるようにしましょう」
雨の日の散歩はどうする?
雨の日は無理に散歩に連れていかなくてもよいが、中には雨でも行きたがる散歩が大好きな犬もいる。雨の日に散歩に行く際は、レインコートを着せてあげよう。
「特に、冬などは体が濡れて、冷えてしまうこともあるので注意が必要です。帰宅後は、体をぬぐい、乾かしてあげてください」
愛犬の健康や長生きのため、体調や様子を見ながら適切な散歩を心がけよう。
教えてくれた人/獣医師・佐藤貴紀さん
麻布大学獣医学部卒業後、勤務医を経て独立し白金高輪動物病院を設立。院長として勤務後、JVCC二次動物医療センター目黒病院センター長を務める。現在、目黒アニマルメディカルセンター顧問(https://mamec.wolves-tokyo.com/)。専門は「循環器」。全国に100人しかいない「獣医循環器学会認定医」。「SuperDoctors 〜名医のいる相談室〜」(https://www.youtube.com/channel/UCUxW…)にて配信中。
取材・文/鳥居優美
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