病院や施設を追い出される高齢患者を在宅で介護する現実
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、「ステイホーム」が世界の合言葉となり、「家」で過ごす時間は何倍にも増えた。
年を取っても、いつまでも慣れ親しんだわが家で過ごしたい──誰しも、本音はそうだろう。しかし、現実はうまくいかないこともある。
10年前に夫が先立ち、その後は「ひとり暮らし」を満喫していた斎藤真千子さん(仮名・80才)は言う。
「何十年も住み慣れたわが家ですから、不便を感じることもなく、しばらくはのんびり過ごしていました。ですが昨年、階段で転倒して足首を捻挫。何時間も倒れたままでした。大事には至りませんでしたが、それ以来、トイレに立つのも億劫になり、家でひとりで生活するのが怖くて、このままここで暮らすべきか迷っています」
ふるいにかけられる高齢の患者
年を重ねれば身体的な衰えは避けられない。けがや病気を患えば、病院での治療を受けることになり、状態によっては入院が必要になる。
ただし、社会の高齢化によって医療費が増大する昨今、いつまでも入院できるわけではない。早期の退院を推奨する国は、2001年の医療制度の改正で、緊急手術や重篤な病気の処置を行う「急性期」の入院は2週間、リハビリや療養に移行する「回復期」の入院は症状に合わせて1~6か月間と区切りを設けた。
そうした区切りだけでなく、場合によっては、病院が患者を“ふるいにかける”こともあるという。高齢者の生活支援や居住環境調整に詳しい大阪保健医療大学准教授の山田隆人さんが話す。
「収入や身寄りがなく、ある一定の期間で医療費の支払いが困難になると、その後の方針について相談されて、早期退院となることもあります。また、認知機能に問題があって周囲と軋轢(あつれき)がある患者も、病院側から対応を求められて早めの退院を促されることがあります」
山田さんが知るケースでは、圧迫骨折の治療で入院した男性患者が、症状の回復とともに徘徊を繰り返すようになり、ほかの患者の私物を持ち出すというトラブルがあった。一般的な病院は夜間の職員が少ないため、認知症患者の対処に手が回らず、退院させざるを得なくなった。
「早期退院して介護老人保険施設への移動を求められることが多いですが、その患者は受け入れてくれる施設が見つからず、自宅で生活することになりました」(山田さん)
自宅でみれない場合の選択肢とは
とはいえ、自宅では面倒を見きれないということがほとんど。家族も介護疲れを起こし、共倒れしてしまう可能性もある。介護アドバイザーの横井孝治さんは、精神病院への通院も1つの手だと言う。
「神経を落ち着かせる薬を処方してもらったり、一時的に入院させるのもありでしょう。その間に家族は介護休業を取得し、施設を探す。このとき、いい加減に施設を選ぶと、後悔することになるので決して慌てないことです」
介護休業は最大3回、トータルで93日間取得することができ、その間は雇用保険から「介護休業給付金」として、給与の67%を受け取れる。引け目を感じて申請しない人も多いが、将来の自分のためにも、しっかり利用すべきだ。
※女性セブン2020年5月7日・14日号
https://josei7.com/
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