毒蝮三太夫「いいウソはエイプリル・フール以外もついていいんじゃない?」【連載 第14回】
世の中はまだまだ落ち着かない雰囲気だが、季節は移り変わって、また春がやってきた。84歳を迎えた毒蝮さんに高齢者との付き合い方の極意を教えてもらうシリーズ、今回のテーマは、「ウソ」。4月1日は、ウソをついてもいいとされる「エイプリル・フール」だ。高齢者と上手にコミュニケーションを取るには「時にはウソも必要」と、毒蝮さんは言う。相手を敬い、気持ちに寄り添う「やさしいウソ」のつき方とは?(聞き手・石原壮一郎)
いいウソと悪いウソ
自然っていうのは、偉大だよな。新型コロナのせいで人間たちは右往左往してるけど、また今年も春が来てくれた。冬来たりなば春遠からじ。4月から新しい年度が始まるわけだし、気分を変えて少しずつ元気を取り戻していこうじゃないか。
いつどこの国で始まったのかは知らないけど、明日4月1日は「エイプリル・フール」だ。昔は「四月馬鹿」て言ったけど、今でもその言い方はするのかな。この日はウソをついてもいいってことになってる。だけど、政治家なんていつもウソばっかりついてるから、この日だけはウソはつかないってことにすればいいんじゃねえか。
俺たちだって政治家のことは言えない。「自分は絶対にウソはつかない」なんて言い切るヤツがいたとしたら、そいつは間違いなくウソつきだよ。でも、ひと口に「ウソ」って言っても、いいウソと悪いウソがある。責任を逃れようとか人を陥れようとか、自分のためにつくウソは悪いウソだけど、誰かのためを思ってつくウソはいいウソだ。
ジジイやババアと話をするときには、いいウソをたくさんつくことも大事なんじゃないかな。前にもここで「時にはちょっとしたヨイショで警戒心を解くことも必要だ」って話をしたけど、ヨイショだって広い意味ではウソかもしれない。でも、誰も傷つけないし、お互いに気持ちよくなれる「やさしいウソ」だ。
年寄りって、やたらと物をくれようとするじゃない。有用感って言うのかな、誰かの役に立ちたいって気持ちが強いんだろうね。もらっても問題ないときはもらえばいいんだけど、介護施設の職員とかボランティアのスタッフとかだと、お菓子ひとつにしたってもらうわけにはいかない。かといって、むげに断るのも気の毒だよね。
いつだったか教えてる学生から「毒蝮先生、そういうときはどうすればいいですか?」って聞かれたから、いくつかいい方法を教えてあげた。
「せっかくですけど、受け取れないんです。だけど、それはおじいちゃんの気持ちだから。私も気持ちで受け取りました」
って言えば、気持ちと気持ちが行ったり来たりしたことになる。
相手の手を握って、こういうふうに言うのもいい。
「おじいちゃん(おばあちゃん)、私から今、若さと元気をおじいちゃんのところに送ります。おじいちゃん(おばあちゃん)からは、知恵と笑顔をもらいます。ふたつ行ってふたつもらうから、五分五分ですね」
それでお互いにニッコリ笑えたら、相手も有用感が満たされるわけだ。
そういうのって、本当かウソかって言ったら、本当ではないよね。俺の学生でも「私、やってみました。すごく喜んでもらえました」って言ってたのもいたな。そのとき、彼女は女優になって役を演じたわけだ。シェイクスピアは「世界はひとつの舞台で、すべての男女はその役者に過ぎない」って言ったらしいけど、演じることで誰かを幸せにできるなら、どんどん演じればいい。その分、自分も幸せをもらってるはずだしな。
俺だって、言ってみれば「毒蝮三太夫」っていう役を演じているわけですよ。中継に集まってくれたジジイやババアは、それを見て大笑いして、元気になってくれる。このあいだも「蝮さんからパワーをもらいました」って言ってるのがいたけど、俺は「じゃあ、俺にも何かくれよ」って返してお互いに笑い合った。
本当に何か欲しいなんて思ってないけど、そういうコミュニケーションが人生を楽しくしてくれるわけだ。
ちょっとした「やさしいウソ」っていうのは、人と人とをあったかく結びつけたり、幸せな気持ちを生み出してくれたりする。言ってる内容は本当じゃない部分もあるかもしれないけど、やさしい気持ちは本当なんだから、それはもう「ウソ」じゃないよな。4月1日に限らず、みんなで年がら年中「やさしいウソ」をつきまくろうじゃねえか。
■今回の極意
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、4月から『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』にお引越し。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。