ストーマ装具の工場も見学 オストメイトツアーの意義<第3回>
(株)近畿日本ツーリスト首都圏が、ストーマ装具製造メーカーのアルケア(株)とともに企画した新しい旅の提案オストメイト(人工肛門・人工膀胱を造設している人)向けの日帰り温泉ツアーに同行。旅の内容や参加者の感想を取材し、3回にわたってレポートする。3回目の今回は、ストーマ装具工場見学の様子とツアー終了後の参加者の声をお伝えする。
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ストーマ装具の工場を真剣に見学
最後のプログラムは工場見学だ。
普段は公開されていない製造室や品質検査室に入り、いつも使っているストーマ装具が細心の注意を払って生産される現場を目の当たりにした。ロボットとオートメーションが活躍する工程だが、最終の検品は専門スタッフの確実な目と手で行われている。参加者から「やっぱり日本製が信用できるのよ」と声が聞こえた。
本物と同じ原理を再現した製造体験の時間も。5層フィルムの素材を引っ張って強度を確かめたり、日ごろ気になっていた疑問をアルケア社員に直接聞いたり。
朝「工場見学が楽しみ」と言っていたEさんは「面白かったです。製品づくりを体験できるとは思わなかった。肌への影響なども考えて天然素材を使ってるんですね」と満足そうだ。
アルケアを発つ前の挨拶で、「ストーマ装具を使っていらっしゃる方に直接お会いしたことは、今までほとんどありませんでした。皆様と触れ合えたこと、真剣なまなざしで工程の説明を聞いていただけたことに感激し、感動しています。今後は皆様の顔を思い出しながら製品づくりに励みたいと思います」と生産管理部部長の北澤英己氏。参加者からひときわ大きな拍手が起こった。
17時45分、帰路につくバスが出発。道の両側で見送る大勢のアルケア社員の姿に、車内も「残業時間じゃないか?」「待っていてくれたの?」と話しながら手を振り返した。
好評を博した日本初のオストメイト向け温泉ツアー
すべて終わって、感想のマイクが回る。
「気持ちよかったし、楽しかった。子どものころに戻ったようです」
「今日は生まれて初めて、男同士の裸のつき合いをさせていただきました。これからもこういう機会があればいいです」
「皆さんに優しく接していただいて、どうもありがとうございました。山本先生の講演も大変よかったです」
「ストーマ装具デビューして2ヵ月の母も自信がついたようです」
「いろいろな意味で心が洗われました。僕もちゃんとして生きていこうと思いました(笑い)」
「次のツアーはフルーツ狩りも入れてほしいですね」
「今日のこのメンバーで再会できたらなと思います」
「いいお風呂といい食事。皆さんにお世話になって、どうもありがとうございました」
日本初のオストメイト向け温泉ツアーは、思い入れの強い好評のもとに幕を閉じた。
このツアーで自信をつけて、もっと旅の楽しさを
今回のツアーは約2年前、近畿日本ツーリスト首都圏のユニバーサルツーリズム推進担当の伴流高志氏と、アルケアのオストミーケア事業部の長谷川淳一氏が出会って構想が生まれた。
長谷川さんは車中で参加者の感想を聞いたあと、「皆さんに喜んでいただけてよかった。普段は滅多に泣かないんですが……」と感涙。
伴流さんには終了後に手応えを聞いた。
「まずはこれを成功させることが使命だと思ってきました。異業種交流会で長谷川さんが『うちはものづくりの会社だが、それだけではなくてユーザーの生活の質の向上や幸せづくりにも関わっていきたい』と言われるのを聞き、一緒に旅をつくろうと決めました。
新しいユニバーサルツーリズムとして、お客様一人ひとりが抱えている不安や躊躇などの課題、または社会が抱えている課題を解決する旅行が必要な時代ではないかと考えています。初の試みが無事に終了したという意味では、ゼロの更地に家を建てたような感覚ですね。
達成感はありますが、これをどう広げ、どう継続していくかが今からの仕事。年2回ぐらいの定番ツアーにして、ここで自信をつけた方が『自分でももっと旅をしよう』『一般のツアーにも参加しよう』と思ってくださるようにしたい。旅の楽しさを伝えるのが旅行会社ですから」
外出さえ不安、温泉旅行など考えられない、というオストメイトが身近にもいる。徐々にでも本人と社会、両方の認識が変わり、当たり前の旅を当たり前に楽しめるときが来るのを期待したい。
撮影/浅野剛 取材・文/菅田よし子
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