連載

1人で介護悩みを抱えていませんか?「隠れ介護者」にならないために

 介護作家でブロガーの工藤広伸さんは、認知症の母の介護術や経験談を書籍やブログ、講演会などで公開し続けている。そのノウハウは、わかりやすく、すぐ役に立つと評判だ。

 工藤さんの元には、介護悩みの相談が寄せられることもあるが、人知れず介護の悩みを抱えている人もまだまだ多いと実感しているという。今回は、そんな介護悩みを打ち明けられない人はどうすればいいかを教えてもらう。

 * * *

 介護者の皆さんが抱えている悩みは、わたしのブログやSNSに寄せられます。また、わたしの講演会の質疑応答の時間で、悩みを教えてもらうこともあります。

 このように介護の悩みを明かす方がいる一方、介護の悩みを抱えたまま、誰にも話せずにいる方が、意外と多くいらっしゃいます。なぜ、悩みを打ち明けられないでいるのでしょう?

介護の悩みに対するわたしのスタンス

 わたしは、現役の介護者です。自分自身の介護の悩みを解決することを優先しているので、介護者からの相談は、積極的には受けていません。

 ただ、ブログやSNS等で頂いた悩みについては、解決方法というよりかは、自分の意見を言うようにしています。

 また、様々な形で介護について発信をしているので、介護者の皆さんが、発信した内容から何かを感じ取って欲しいと思っています。

 介護の悩みを抱えている方が、公開されているインターネットや書籍など、介護のノウハウにアクセスすることは、決して難しくはありません。

 しかし、 家族の容体が良くなかったり、親が認知症になり、介護をどう始めていいかわからなかったりするなどで冷静になれず、いつもなら集められるはずの介護のノウハウがうまく集められなくなります。

 そんな状態で、たまたまわたしの講演会を見つけ、参加される方もいます。

 講演会終了後にわたしのところへやってきて、介護の悩みを吐き出し、ホッとして涙を流す介護者を何人も見てきました。

身近な人に介護の相談ができず「隠れ介護者」になる

 ご自身が抱える介護の悩みは、誰に打ち明けますか? 

 仲のいい友人や家族、職場の同僚を思い浮かべるかもしれません。話しやすいはずの身近な人であっても、介護の悩みを打ち明けることに躊躇する方は多くいます。

 例えば、仲のいい友人とは、楽しい話や笑い話はできても、介護の重い話はしづらい、できないと考える方がいます。

 きょうだいや親族とは、悩みの話よりも、介護の役割分担や費用負担といった現実的な話になりがちです。

 職場の上司や同僚も、介護について打ち明けてしまうと、仕事や昇進に影響するから相談できないという方もいます。

 そうやって、介護の悩みを話せる人が見つけられず、最終的には自分が介護をしていることを誰にも明かさないで介護を続ける「隠れ介護者」になってしまうのです。

 特に周りで介護している人が少ない40代以下の世代は、相談相手が見つけられず、隠れ介護者になりやすい傾向にあります。

 わたしも30代半ばで介護に直面したとき、周りで介護している人はいませんでした。相談相手も見つけられず、誰にも介護していることを明かさない、隠れ介護者になってしまいました。

 身近に介護の悩みを聞いてくれる人がいない場合、どこに相談すればいいのでしょう?

介護の悩みを相談する場所をそもそも知らない

 実は、介護の悩みを相談できる場所は、たくさんあります。

 まず頼りにすべきは、中学校の通学区域に1つはある地域包括支援センターです。包括にたどりつけば、介護保険サービスの利用への道筋も立てられます。

 公的機関を活用することで、介護の悩みが解決されることもありますが、どちらかというとサービスや制度面での解決が多くなります。特に認知症介護は、サービスや制度だけでは解決できない、日々の悩みが蓄積していきます。

 その場合、地域にある認知症カフェを活用すれば、医師、地域の介護職、認知症介護経験のある先輩介護者、認知症当事者に会えますし、同じ悩みを抱えた仲間がいます。

 電話相談もオススメです。市区町村が発行している広報には、たくさんの無料電話相談窓口が紹介されています。民間やNPOなどが運営しているので、悩みを相談してみるといいと思います。

 SNSで介護の悩みを発信し、会ったことのない全国の介護者が解決してくれるケースもあります。

 Facebookは友人とのつながりが強く、介護について書きづらいという方も多くいます。その点、Twitterは顔を知らない相手であることも多く、気がラクです。悩みをつぶやくと全国の介護仲間が手を差し伸べてくれることもあります。

介護の悩みをため込むこと自体が大きなストレスになる

 講演会で全国各地の介護者にお会いしましたが、多くは介護の悩みを解決できないでいることよりも、悩みをため込むことの方が、大きなストレスになっているように感じました。

 それだけ、介護の悩みを誰かに伝えることは、大切なのかもしれません。

 知らない誰かに介護の悩みを吐き出してもいいのですが、思い切って本当に信頼できる友人に介護の悩みを打ち明けてみてもいいかもしれません。お互い介護のことを隠したまま、友人の付き合いを続けているケースもあります。

 この年末年始に帰省し、久しぶりに親に会って、介護を意識する時期がまさに今です。介護への関心があるうちに、自分の介護の悩みを打ち明ける相手が誰なのかを考えてみてください。

 相談できる相手が1人でもいれば、介護は本当にラクになります。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

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