ストーマを装着する大学名誉教授が語る「我が友オストメイトよ、旅に出よう!」<第2回>
(株)近畿日本ツーリスト首都圏が、ストーマ装具製造メーカーのアルケア(株)とともに企画したオストメイト(人工肛門・人工膀胱を造設している人)向けの新しい旅の提案を開始した。その旅に同行し3回にわたってレポート。2回目の今回は、ホテルの広い温泉にゆっくり浸かり、食事を楽しんだ後のプログラム、ツアー中に実施された講演会の様子をお伝えする。
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食事は笑顔で美味しく食べるのが一番
ホテルを出発して約1時間、もうひとつの訪問先のアルケア千葉工場に到着した。
アルケアは日本で唯一、ストーマ装具を製造している会社。工場見学の前に、オストメイトの暮らしに役立つ講演2つが行われた。
まず、管理栄養士の平野未咲都氏による講義「腸に優しい美味しい食事のとり方」。
「基本的には何を食べても構いません」を大前提に、ガスやにおいが発生しやすい食物、腸内環境をよくする組み合わせのおすすめレシピなどを紹介。
「でも、食事は何をとるべきというより、笑顔で美味しく食べるのが一番ですよね」と締めくくった。
ストーマ装具を装着してから行った海外旅行は22回
続いて、金沢大学名誉教授(歯科口腔外科)で公益社団法人日本オストミー協会の理事でもある山本悦秀氏による講演「我が友オストメイトよ、旅に出よう!」。
テレビ番組でも明るくパワフルな人柄が人気の山本名誉教授は現在74歳。
「今日は皆さん、勇気をもって温泉体験をされたそうで、大変うれしく思います」と笑顔で講演を始めた。
60歳のときに大腸がんを発症してから計3回の開腹手術を経験。
「奇跡的に回復して5年生存をクリアしたのを機に、それまで仮設と説明されていたストーマを永久受容して、日本オストミー協会にも入会しました。2012年のことです。気持ちの整理がついたのでかなり前向きになった。それからは講演や執筆で啓発活動をするのが、医療者オストメイトとしての私のミッションだと思っています」
マラソンが趣味で67歳まではフルマラソンを完走、現在は10キロマラソンを楽しんでいる。
これまで出かけた海外旅行も60回以上と多く、うち22回はストーマ装具を装着してからだという。
「どんどん運動しましょう。汗をかいても大丈夫! 今のストーマ装具は本当にすごいですからね。安心して使ってください。『におってるんじゃないかな』と落ち込んしまう人もいるけど、絶対にない。無臭です。私は外国製品を含めて全種類を使ってみました。12年6ヵ月で現在810枚。ストーマ協会には30年ぐらい使っている人もいるから、私はまだ中間ぐらいです(笑い)」
そのほか「自己流の装具交換ノウハウ」「私の希望するストーマ装具の3条件」「皮膚保護材の恩恵は絶大です」「唯一の大失敗は、メキシコから13時間半の直行便で帰るときに替えのストーマ装具を手荷物バッグに入れ忘れて大漏れ。周囲には気づかれなかったが、CAさんにビニール袋と大量の紙をもらって妻とトイレで応急処置した」など、医療者オストメイトならではのテーマで公私にわたる話を披露した。
多機能トイレは必要な人が使うべき
最後はオストメイト対応の多機能トイレについて。
「最近の調査では、多機能トイレを使ったことのあるオストメイトは約半数だそうです。半分しか利用していない。とにかく一度、入ってみてください。多機能トイレは『どなたでも使ってください』としているけれど、僕は必要な人が使うべきものだと思う。ちなみにオストメイトマークは、2017年にJISに登録された純国産品です。ちょっとうれしいですよね(笑い)。でも、一般の人でこのマークの意味を知っている人は17%しかいない。まだまだそういう状況です」
そういえば講演の冒頭でも、2019年11月に出演したBSプレミアム『医療の闘病から読み解く がんを生きる新常識2』の話の際、「ストーマのことも正しく理解してほしいと思ってお腹を撮影してもらったんですけど、番組ではとり上げられなかった。そんなもんです、まだ」と語った。山本名誉教授の啓発活動はオストメイト以外にも向けられているようだ。
次回は、ストーマ装具製造工場見学の様子をお伝えする。
撮影/浅野剛 取材・文/菅田よし子
●人工肛門・人工膀胱でも温泉大浴場で寛げるオスメイト向けツアーに同行<第1回>