高木ブー家のお雑煮の味【第7回 お正月】
お正月は毎年、家族水入らずで過ごす高木ブーさん。楽しみは娘さんが作ってくれる年越しそばとお雑煮とお節料理。そして、箱根駅伝を見て母校の中央大学の応援すること。ドリフのお正月公演で忙しかったころや亡き妻を思い出しつつ、87回目のお正月を家族と元気に迎えられることに、しみじみ感謝している。(聞き手・石原壮一郎)
お正月は家族の絆やありがたさをあらためて感じる
ここ最近の年末年始は、家族水入らずでのんびり過ごします。ありがたいことに、今度のお正月も家族と元気に迎えられる。365日のうちの1日なんだけど、やっぱり元旦って特別な気持ちになるよね。暦の区切りや節目って、いいもんだなと思う。
「8時だョ!全員集合」をやってた頃は、お正月は日劇でザ・ドリフターズのお正月公演があったから、家族でのんびりしたことはなかった。家族もたいへんだったんだよね。家族総出で楽屋弁当を作って、差し入れしてくれてた。おにぎりを200個くらい握って、お味噌汁をいくつものポットに入れて。ほら、当時はコンビニなんてないから。
ステージの合間に、それをメンバーがおいしそうに食べてくれる。長さんが、おにぎりほおばりながら「ブーたん、最高だよ」なんてホメてくれたなあ。僕が作ったんじゃないけど嬉しかったなあ。ステージ上のことは絶対にホメてくれなかったんだけどね。
年末年始の楽しみは、やっぱり食べものかな。年越しそばは娘のかおるがつくってれるんだけど、鴨南蛮風のそばに大好きな海老天を入れる。娘と孫はアレルギーがあるから、海老天は入れずにそのまま。かわいそうだけど、しょうがないよね。
お雑煮は、亡くなった妻は醤油ベースの関東風だったんだけど、娘はぜんぜん違っていて、あれは白出汁なのかな。そこに大根や、花の形に切ったにんじん、椎茸、鴨肉が入って、結んだ三つ葉の上にいくらが少し。「山のものや海のものをたくさん入れたいから」ってことで、母親とは違うタイプのお雑煮を開発したらしい。
もちろん、とってもおいしいんだけど、ある年に「お母さんのと違うなあ」ってポロッと言っちゃった。娘は笑いながら「ごめんね。でも、こっちもおいしいでしょ」って流してくれたけど、ちょっと悪かったかな。文句言ったわけじゃないんだけどね。
ま、そうやって僕も娘も亡き妻のことを思い出したことで、お正月の食卓に加わってくれたかもしれない。実際には会っていない娘の夫や孫と、いっしょに新しい年を迎えたってことにもなるかな。そこまで考えるのは、僕の勝手な感傷なんだけどさ。
お節料理を食べるときも、妻が元気だった頃に作ってくれた黒豆とか筑前煮とかを見ると、けっして比べているわけじゃなくて、いっしょに過ごしたお正月の風景が浮かんでくる。そういうのも、お正月のいいところだよね。ふだんは何かと忙しくてそんなこと考えないけど、お正月はいつもは会えない人に会えたりする。
箱根駅伝では母校の中央大学を応援
2日と3日の楽しみは、何といっても箱根駅伝の応援だね。母校の中央大学は駅伝が強くて、今までに14回も優勝しているらしい。自分が走ったわけじゃないけど、誇らしいよね。僕は子どもの頃から走るのは大の苦手だから、ああやって長い距離をびゅんびゅん走る姿を見ると、心の底から尊敬します。
今回の中央大学はどうなるかな。順位は何位でもいいんだけど、出場した選手たちが満足できて、いい思い出になるといいな。テレビで見てると、それぞれの選手の経歴とか家族のこととか紹介してくれるじゃない。沿道で応援しているご両親もチラッと映ったりとか。あれも好きだなあ。
人それぞれ、いろんなお正月の迎え方がある。家族と迎える人、ひとりで迎える人、お休みの人、働いている人。どれがよくてどれがよくないってことじゃない。お正月のありがたさは、誰にとっても同じだと思う。どう過ごさなきゃいけないなんてこともない。
ただ、せっかくのお正月だし、ちょっと立ち止まって、いっしょに暮らしている家族や離れて暮らしている家族、今はもういない家族について、ちょっと考えてみるのもいいんじゃないかな。それもまた「お正月気分」だよね。
「我が家のお雑煮。娘と亡き妻の味、どちらもとっても美味しいよ」
高木ブー(たかぎ・ぶー)
1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1963年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。2020年2月16日にハワイで開催される「ウクレレ・ピクニック・イン・ハワイ」への出演が決定!
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。
撮影/菅井淳子