高木ブーが明かすドリフ加入の本当の理由【第8回 東京オリンピック】
高木ブーさんがザ・ドリフターズに加入したのは、前回の東京オリンピック直前だった。バタバタの状態だったせいか、そのオリンピックのことはほとんど記憶にないと言う。今年はふたたび、東京でオリンピックが開催される。「今度こそ楽しみたい」と胸を躍らせつつ、ドリフに入ったばかりの頃や、ドリフでの自分の役割に思いを馳せる。(聞き手・石原壮一郎)
前の東京オリンピックはドリフに入った直後だった
新しい年に向けての抱負とかは、まあとくにないんだけど、今年もライブやフェスの話はいろいろ決まってるみたいだから、まずは健康に過ごさないとね。2月にはハワイに行って「ウクレレ・ピクニック・イン・ハワイ」に出る。ハワイの空気の中でウクレレを演奏するのは、やっぱりいいんだよね。今のいちばんの楽しみは、それかな。
今年は東京でオリンピックがある。マラソンを楽しみにしてたんだけど、北海道でやることになっちゃった。残念だなあ。まあ、どっちみちテレビで見るから同じなんだけど、近くでやってるか遠くでやってるかで、何となく気分が違いそうだよね。
前に東京でオリンピックがあったのは1964年だから、もう56年前か。僕がザ・ドリフターズに加入したのも、その年だったな。加入は9月16日で、東京オリンピックの開会式が10月10日だった。入った直後の時期だったからか、前の東京オリンピックの記憶はあんまりないんだよね。たぶんバタバタだったんだと思う。
もともと、いかりや(長介)さんと加藤(茶)がいて、僕と荒井(注)さんが同時に加わって、仲本(工事)が入ったのは、その翌年の正月だったかな。いかりやさんの考えで、音楽だけやるんじゃなくて、お客さんを笑わせることができるバンドになろうとしていた。いかりやさんも手探りだし、まして僕らは何をどうしていいかよくわからない。グループとしての形がどうにかまとまるまでに、1年ぐらいはかかかったね。
ドリフのメンバーに選ばれた理由
ただ、長さんが僕を誘ったときには、お笑いもできるグループにしようと決めていたみたい。だって、ずっとたってから「どうして僕に声をかけてくれたんですか?」って聞いたら、「デブだからだよ」って言われたもんね。メンバーの中にデブがひとりいると、それだけでおかしみが出るってことらしい。
どうりで、ギターのテストとか何にもなかったはずだ。僕はその頃はほかのバンドでエレキギターを弾いてたから、きっとそれを見て「大丈夫」と判断したんだろうと、勝手に思ってた。でも、真相を聞いても腹は立たなかったし、むしろ「さすが長さんだ」って感心したね。その頃から、テレビの時代を予感していたのかもしれない。
僕はドリフの中では「第5の男」のイメージかもしれないけど、加入したばかりの頃は、加藤とかといっしょにわりと前に出ていた。ほら、太ってるのがあたふたやってると、それだけで笑いが取れるじゃない。だけど、しばらくたって長さんが「加藤を前に出していこう」って決めて、あとのメンバーはそれをサポートすることになった。
それが大当たりしたわけだよね。もちろん、不満なんてないよ。みんながそれぞれ自分の役割を果たすから、ドリフ全体としての面白さが出る。全員が「俺が俺が」と前に出ようとしたら、グループは成り立たない。ドリフに限らず、どんな集団でも同じだよね。僕は、どん尻としての役割を果たしてきたことに誇りを持ってます。
たとえば100メートル競走でも、5位や6位がいるから1位や2位が輝くことができる。スポーツは勝ち負けが大事だって言う人もいるかもしれないけど、いろんな順位の人がいるからレースが盛り上がるわけだよね。1位じゃなくても目立たない存在でも、それぞれ大切な役割を果たしていることに変わりはない。少なくとも自分の人生では自分が主役なんだから、それでいいんですよ。
オリンピックから話がそれたと思ったら、また何となく戻って来ちゃった。56年前は楽しみ損ねたオリンピックも、嬉しいことにまた戻って来てくれたから、今度こそはしっかり楽しまないとね。長さんと荒井さんにも、見せてあげたかったな。
「人はそれぞれ大切な役割を果たしている。自分の人生では自分が主役だもんね」
高木ブー(たかぎ・ぶー)
1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1963年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。2020年2月16日にハワイで開催される「ウクレレ・ピクニック・イン・ハワイ」への出演が決定!
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。
撮影/菅井淳子