高木ブー「ドリフ時代のコントもやる『こぶ茶バンド』は特別」【第4回 大切な仲間】
ザ・ドリフターズのメンバーとして、『8時だョ!全員集合』『ドリフ大爆笑』などの大人気番組でお茶の間に笑いを届けてきた高木ブーさんは、現在86歳。ここ数十年は、ウクレレ奏者として全国のステージを飛び回り、円熟の演奏と歌声で聴衆を魅了している。今を謳歌しているブーさんの生き方から、上手に年齢を重ねる秘訣を学ぼう。
今回は、ドリフのメンバー、加藤茶さん、仲本工事さんと一緒に組む「こぶ茶バンド」のお話。コンサートでは、お馴染みのコントも飛び出すという。(聞き手・石原壮一郎)
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今でも顔に洗濯バサミをはさんで引っ張られてる
今年の夏は、加藤(茶)や仲本(工事)とやってる「こぶ茶バンド」で、たくさんのコンサートをやった。都内、埼玉、千葉、神奈川で9か所かな。
1部は山本リンダさんとか黒沢年雄さんとか新沼謙治君とかが出てくる歌謡ショー。山本リンダさんなんて、ミニスカート姿で「ウララ~♪」って踊ってるもんね。プロポーションも昔のままだし声も出るし、色っぽい。たいしたもんだよ。娘の元上司で80代の女性が、ミニスカート姿の山本リンダを見て「勇気が出た!」って言ってたらしい。
それで、2部が「こぶ茶バンド」で、加藤がドラムの前に座って進行役になって、コントをやったりドリフの歌を歌ったりする。会場のお客さんも平均年齢はけっこう高めなんだけど、僕たちが「ババンババンバンバン♪」って歌うと、いっしょに歌ってくれるんだよね。サイリウムって言うんだっけ。青とか赤に光る棒を振ってくれている人もいっぱいいる。いまいち動きがそろってないのが、また味があっていいんだよ。
加藤も一時期は病気して元気がなかったけど、もうすっかり大丈夫になった。「ヘックション」の勢いも突っ込みのキレも昔のままだよ。仲本は仲本で、あいかわらずひょうひょうとしていて、やっぱりあの頃のままかな。もうでんぐり返りはしないけど。
ドリフのメンバーとステージに立つのは、特別な気持ちだね。ドリフの高木ブーとして出ているわけだし、3人で作っていくショーというのも楽しい。久しぶりにやっても、ちょっとリハーサルをすれば昔の感覚が戻ってくる。「8時だョ」の頃は、家族よりもメンバーのほうが、よっぽど長い時間いっしょに過ごしてたから、お互いの呼吸みたいなのが身体にしみついているのかな。
コントでは、長いヒモが付いている洗濯バサミを僕の顔にたくさんはさんで、それをふたりが引っ張るなんて場面もあった。やる前に楽屋で、洗濯バサミのはさむ強さはどれぐらいがいいかな、強すぎると痛いし、弱すぎると落ちちゃうしなあ……なんて3人で真剣に打ち合わせをしたんだよね。はたから見ると、おじいさんが3人集まって何やってんだって感じだけど、当人たちはすごく楽しかった。
僕は膝を痛めちゃったから、楽器持って転がるなんてのはもうできない。だけど、身体のこと以外で「この歳になって、そんなことやりたくない」と思うことは、まったくないなあ。洗濯バサミのコントも、顔から外れて「バチーン」となった瞬間に、お客さんがものすごく喜んでくれた。はさむ強さを話し合った甲斐があったよ。
自分で「もう俺も歳だし」なんて言い出したら、どんどん老け込んでやる気もなくなっちゃうんだろうね。身体の衰えはある程度はしょうがないけど、気持ちの衰えは心がけ次第でどうにでもなると、僕は思ってる。だけど、いくら自分はまだ若いつもりでも、見ているお客さんが「痛々しい」とか「かわいそう」と感じるようなことは、やらないほうがいいよね。本人が楽しめているうちは、まだ大丈夫かな。
僕にとってドリフのメンバーっていうのは、やっぱりかけがえのない存在です。長さんは早く死んじゃったし、志村は志村でけっこう忙しそうだ。あいつは僕より17歳も若いしね。また「ドリフターズ」でやりたいな。加藤と仲本には、ずっと元気でいてもらわなきゃ。「ブーさん、それはこっちのセリフです」って言われそうだけど。
「ドリフターズのメンバーは、かけがえのない存在です」
高木ブー(たかぎ・ぶー)
1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1963年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。
撮影/菅井淳子