八千草薫さん がん闘病で「隣人介護」を選んだ生き方
超高齢社会で、誰にとっても介護が身近な問題となりつつある現在、近所の人が当事者の面倒を見る「隣人介護」が注目されている。
エンディングプランナーの藤澤一馬さんが隣人介護についてこう話す。
「家族という関係性のなかで介護するとなると、どうしても“こんなことをされるのは恥ずかしい”という羞恥心が生じて、お互いにやりづらくなることもある。それが隣人という“赤の他人”ではないものの気心が知れた“他人”が入ることで、お互いが思いやりを持って冷静に介護ができるケースがあります。隣人は本格的な介護には不向きですが、たとえば八千草さんのように庭の手入れや植物の水やり、愛犬の散歩や買い物など『ついで』に頼める隣人をつくっておくことはひとり暮らしの高齢者にとってメリットは大きい」
近年は核家族やひとり暮らし世帯が増え、昔は当たり前にあったご近所づきあいや地域の集まりが少なくなった。
だからこそ、八千草さんのように夫に先立たれた女性は、近隣との関係を良好にすることも大切だと藤澤さんは話す。
「高齢になってから関係性を作るのは難しいので、日常的にご近所さんにあいさつをしたり、旅行に行ったらちょっとしたお土産を買ってくるなど、少しでもいいので、コミュニケーションをとっておきましょう。独居の高齢者は“元気ですか?”と声をかけてもらうだけでも生活の活気や意欲につながりますし、身内以外の他人としゃべることで、認知症予防になるともいわれています」
隣人介護の注意点
隣人からの介護はあくまでも補助まで。体に触れたりケガの恐れがあることは、専門家に任せたい。
というのも、一般に第三者が介護を行う際は「報酬」がトラブルの種になりやすいからだ。
「ヘルパーは介護保険で報酬額が決まっていますが、隣人に報酬を払う場合は規定額がなく、揉めるケースがあります。隣人にお金を払う場合は、定額を振り込むなどのルールを明確にしておくべきです」(藤澤さん)
おひとりさまの財産相続
超高齢化のなか、男性より寿命が長い女性がおひとりさまになる可能性は高い。そうした場合の財産相続はどうなるのだろうか。
相続・終活コンサルタントの明石久美さんが話す。
「夫が死んで子供がいない場合、夫の親が遺産を相続する権利を持ちます。親も他界していたら、兄弟姉妹、兄弟姉妹も他界していたら、その子供たちが相続します。八千草さんのように相続人が誰もいない場合、遺言書がなければ財産は国のものとなります」
介護をした隣人が財産をもらうケースもある。
「天涯孤独で法的な相続人がいない場合、『特別縁故者に対する相続財産の分与』が認められることがあります。たとえば、他人だけどずっと介護をしていた人や、内縁関係にある者が相続を主張した場合、家庭裁判所が特別縁故者だと認めれば、相続の権利が生じます」(明石さん)
周りに負担をかけずに、円滑な相続を実現するためにベストの方法は、遺言書を作成しておくことだ。 「相続において法的に大きな効力を持つのは遺言書です。遺言書があれば、相続人以外の人にもスムーズに遺産を渡せます。遺言書は作成時に意識が明晰なことが成立の条件なので、認知症になる前に作成しておきましょう」(明石さん)
※女性セブン2019年9月12日号