《長生きの秘訣》「余暇活動」を始めるだけで高齢者の死亡・要介護リスクが10%以上低下 散歩に園芸、カラオケ、麻雀など好きなことでOK、取り組みのポイントを研究者が伝授
「休日はどんなふうに過ごしていますか?」「趣味は何ですか?」そう聞かれたとき、あなたはパッと答えられるだろうか。もし回答に窮してしまうようであれば、何か自分が興味を持てそうなことを始めてみてほしい。なぜなら、最新の研究により、余暇活動を開始した高齢者は、始めなかった高齢者と比べ、その後6年間における死亡・要介護リスクが低くなることが明らかになったからだ。
“人生100年時代”と言われる現代社会において、健康寿命をいかに延ばせるかは重大な課題のひとつだ。余暇活動ならば、運動や習い事よりも取り組みへのハードルが低そうだが、実際にはどんなことを始めると効果的なのか。活動を続けるうえでのポイントは何か。研究を行った東京科学大学大学院歯科公衆衛生分野の相田潤教授と大学院生の増子紗代さんに、お話を伺った。
余暇活動を新たに始めると、死亡リスクが約20%、要介護リスクが約10%も低下
「余暇活動は人生を豊かにし、健康上の恩恵をもたらすと言われています。しかし、これまでは“ある時点での活動”に焦点をあてた研究が多く、余暇活動の経時的な変化が死亡・要介護リスクにどのような影響を及ぼすかは検討されていませんでした。それを明らかにするために、本研究では日本老年学的評価研究の調査(2010年/2013年)に回答した、65歳以上の自立した高齢者3万8125人のデータを6年間、追跡しました」(相田教授)
その結果、2010年と2013年時点でどちらも余暇活動をしていなかった人と、2013年に余暇活動を開始した人を比較すると、2020年までの死亡率はそれぞれ28.6%と21.1%、要介護2以上の発症率は24.4%と18.8%で、明らかな差が見られた。
「解析を進めると、新たに余暇活動を開始した人は、その後6年間の死亡リスクが0.82倍、要介護リスクが0.89倍と有意に低下していることがわかりました。現在は余暇活動を行っていなくても、将来的に始めることで死亡・要介護リスクの減少に寄与する可能性があるという事実は、高齢者の健康寿命を延ばす策を考えるうえでのヒントになると思います」(増子さん)
手術や治療を受けるわけでもなく、余暇活動を始めるだけで死亡リスクが約20%も低くなるのであれば、その恩恵は大きい。相田教授によれば、「人間の身体は、筋肉を使わない不活発な状態が続くと簡単に弱ってしまうが、余暇活動は、その衰えを防ぐ手立てのひとつになり得る」という。
「久しぶりに駅の階段をのぼるとやたら息が切れたり、お正月休みなどでダラダラ過ごした後に働くと、すぐに疲れたりしませんか? 特に高齢者の方は、家にこもりがちになると、ふとした時に段差でつまずいて骨が折れる、腰を痛めるなどで寝たきりになってしまうことも珍しくありません。しかし、何か趣味があれば、そのために立ち上がったり、外に出かけたり、誰かと交流したりする機会が増え、筋力の維持がしやすくなります。好きなことに取り組むわけですから、精神的な満足感も得られます。それらが結果的に、健康状態を保つことにもつながるのでしょう」(相田教授)
「好きなことを、適切な頻度で行うこと」がカギ、周囲との交流も大切に
では、今回の調査に回答した人は、どんな余暇活動に取り組んでいたのか。統計結果を見ると、いちばん多かったのは「園芸・庭いじり」で、「散歩・ジョギング」「作物の栽培」「旅行」「読書」がそれに続いた。他にも「カラオケ」「手工芸」「釣り」「囲碁・将棋・麻雀」「写真撮影」「ゴルフ」など、インドア・アウトドア問わず多彩な項目が並ぶ。
これならば、誰しもひとつくらいは興味を持てるものがあるのではないだろうか。増子さんは、「普段から、好きなことや自分に向いていることであれば、自発的に行っていたりしますよね。一覧にない項目も含め、そういう自分が楽しいと思えて、無理なく継続できる活動を選ぶことがポイントです」と話す。
特におすすめの余暇活動を伺うと、
「あえて挙げるなら、運動や自然のなかで行うものは活動量が増えるので、身体がなまるのを防ぎやすいでしょう。ただ、他の研究では、運動を1人でやる人は、グループに所属している人よりも要介護のリスクが高いというデータもあります。ですから、できれば“誰かと一緒に行う”、“定期的に人と会う”ことが発生するものがベターと言えるかもしれません」。(相田教授)
人と会う予定があると、そのためにご飯を食べ、歯を磨き、服を着替えて、集合場所に向かう。そういった作業が身体を動かすことにつながるし、誰かと話すことで、脳や心も刺激されるのがプラスにはたらくのだという。
ちなみに、新たな余暇活動は、仕事を辞める前に見つけておくのがいいそう。相田教授によると、「日本とイギリスの高齢者についての研究で、日本人男性はイギリス人男性よりも友達が少なく、寿命も短くなる傾向にあった」とのこと。
「高齢者になりたての世代は、猛烈に働いてきたサラリーマンも多いと思います。しかし、仕事第一でやってきた方こそ、“退職したら友達がいなくて外に出ない”、“燃え尽き症候群のようになり、一気に老け込む”ということになりかねません。私の父も仕事人間なので心配ですが、働いているうちに定年後も打ち込めるものや、世間とコミュニケーションがとれる場を見つけておくことを勧めたいです」(増子さん)
最後に、頻度については、「多すぎるのもかえってNG」と2人は言う。
「社会参加を頻繁に行っている人は、意外と健康に関する数値がよくないというデータもあるんです。もちろん、ご自身が心から楽しんでいるのであれば問題ありませんが、義務感や誰かの指示で行っている場合は、心身にいい影響が出にくいのでしょう。余暇活動も一緒で、とにかくストレスなく、適切な頻度で続けられるものに出会えたら理想ですね」(相田教授)
相田教授と増子さんは今後、「趣味を増やすためにはどうすればいいのか、どういった働きかけをすると実際に活動を始めるきっかけにつながるのかについても研究していきたい」と意気込む。興味深い結果が発表されることにも期待しつつ、まずは自分がハマれそうなことを探すところからトライしてみよう。
◆取材・文/梶原 薫