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年々増加する高齢者虐待「介護施設より圧倒的に家庭内で起きている」その実態と対策【弁護士解説】

 高齢者の虐待件数は年々増加の一途をたどり令和5年は過去最多に。弁護士会と社会福祉士会が行っている「高齢者虐待対応専門職チーム」に参加した経験をもつ弁護士の前園進也さんは、「施設での虐待が報じられることが多いが、実は報告されている虐待の多くは同居する家族によるもの」だという。高齢者虐待の実態や対策について、前園さんに解説いただいた。

この記事を執筆した専門家

弁護士・前園進也さん

弁護士・前園進也さん

サニープレイス法律事務所代表。https://sunnyplace.law/

弁護士、認定心理士。埼玉県を拠点に障害福祉分野を中心に活動を行う。一児の父。埼玉県LGBTQ支援検討会議アドバ弁護士、認定心理士。埼玉県を拠点に障害福祉分野を中心に活動を行う。一児の父。埼玉県LGBTQ支援検討会議アドバイザー、埼玉県立精神医療センターの外部評価会議委員などを務める。著書に、知的障害をもつ息子の子育て体験から着想した『障害者の親亡き後プラン パーフェクトガイド』(ポット出版プラス)などがある。YouTubeチャンネル「障害者家族サポートチャンネル」https://www.youtube.com/channel/UCuVwAjhMEX5S7kxVTY-3jMw

高齢者の虐待件数は右肩上がり

 近年、高齢者虐待は深刻な社会問題となっており、特に施設における虐待の増加が懸念されています。愛媛県や岩手県では、高齢者虐待の調査開始以降、過去最多の件数が報告されています。実際、高齢者虐待の通報や相談の件数、市町村が虐待と認定した件数は、右肩上がり※です。

※厚生労働省「令和5年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001366828.pdf

令和6年から介護施設への措置を導入

 このような状況を受け、国は高齢者虐待防止対策を強化しており、令和6年度からは、高齢者虐待防止措置を実施していない高齢者施設に対して報酬を減額する措置を導入し、施設における高齢者虐待の防止が強く求められています。

 このような報道に触れると、高齢者の虐待は高齢者施設で起こっているように思われるかもしれません。しかし実際には、高齢者虐待の加害者の多くは、高齢者の世話をしている家族、親族、同居人などの養護者なのです。

 国が毎年行っている高齢者虐待の対応状況などに関する調査によると、2023年度で高齢者施設などにおいて虐待と認定された件数は1,123件です。

 それに対して、養護者による虐待と認定された件数は17,100件で、約15倍となります。

 この数字は、高齢者虐待が決して施設だけの問題ではなく、家庭内や地域社会においても深刻な状況にあることを示しています。

■高齢者虐待の判断件数、相談・通報件数(令和4年度対比)

養介護施設従事者等※1によるもの|養護者※2によるもの
虐待判断件数※3| 相談・通報件数※4 |虐待判断件数※3 |相談・通報件数※4
【令和5年度】1,123 件| 3,441 件|17,100 件| 40,386 件
【令和4年度】856 件 |2,795 件 |16,669 件| 38,291 件
増減(増減率) 267 件(31.2%)| 646 件 (23.1%)|431 件 (2.6%) | 2,095 件 (5.5%)

※1 介護老人福祉施設など養介護施設又は居宅サービス事業など養介護事業の業務に従事する者。
※2 高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等。
※3 調査対象年度(令和5年4月1日から令和6年3月31日)に市町村等が虐待と判断した件数(施設従事者等による虐待においては、都道府県と市町村が共同で調査・判断した事例及び都道府県が直接受理し判断した事例を含む)。
※4 調査対象年度(同上)に市町村が相談・通報を受理した件数。

 また、成人に対する虐待として障害者虐待もありますが、障害者虐待の場合、加害者が養護者である割合は高齢者虐待ほど高くなく、その差は約2倍です※。

※和5年度 「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/12203000/001364028.pdf

高齢者虐待の要因を考察

 高齢者虐待について、先ほど紹介した国の調査結果をもう少し詳しく見ていきます。

 認定を行なった市町村が捉える虐待の発生原因についても調査結果が集計されています。虐待の発生原因は、以下で示すように、大きく分けて虐待を受ける高齢者側の要因と、虐待を行う養護者側の要因に分けることができます。カッコ内の中の数字は、発生原因と認定された割合となります。

高齢者側の要因
【1】認知症の症状(56.4%)
【2】理解力の低下や不足(47.7%)
【3】精神症状が安定していない(45.9%)

養護者側の要因
【1】介護疲れ・介護ストレス(54.8%)
【2】知識や情報の不足(46.5%)
【3】介護力の低下や不足(45.8%)

認知症の高齢者の可能性が高い

 高齢者側の要因を見ると、「理解力の低下や不足」は認知症だけではなく老化によるものがあるとしても、発生要因の多くは「認知症の症状」によることが大きいでしょう。

 認知症の症状は、記憶障害や判断力の低下だけでなく、徘徊や介護への抵抗など、介護者を困惑させる様々な行動として現れます。これらの症状は、介護者の精神的な負担を増大させることは、容易に想像できます。

 他方、養護者側の要因についても、「知識や情報の不足」は認知症に関する知識や、介護サービスなどの情報の不足が考えられます。「介護力の低下や不足」に関しては、高齢者の認知症などの症状に対して十分な介護や対応ができていないことを意味します。

 特に、認知症ケアに関する知識や技術がないまま介護を行うと、高齢者の行動の意味を理解できず、不適切な対応をしてしまうことがあります。その結果、介護者にとって予期せぬ行動に繋がったりすることで、養護者の介護疲れ・介護ストレスに至ります。

「息子や夫」が加害者になるケースが多い

 養護者による高齢者虐待では、加害者が息子であるケースが最も多く38.7%を占め、次いで夫が22.8%となっています。

 息子や夫が加害者となる背景には、一般的に男性は女性と比較して他者をケアする経験が少ないことがあると考えられます。

「第7回全国家庭動向調査」(2022年)※によると、他者に対するケアの典型例である育児における夫婦の分担割合は、妻が78%を占めていることからも、男性のケアの経験が少ないことが窺われます。

※国立社会保障・人口問題研究所「第7回全国家庭動向調査」(2022年)
https://www.ipss.go.jp/ps-katei/j/NSFJ7/Kohyo/keteidoukou7_gaiyou_20240308.pdf

認知症介護の難しさが浮き彫りに

 高齢者虐待の発生要因から見えてくるのは、十分な知識や介護力のない養護者が認知症高齢者の介護に対応できていない状況が、虐待の発生に繋がっていると考えられます。

 認知症の高齢者は、自身が認知症であるという認識(病識)に欠けることが多く、介護保険サービスなどの必要な支援に繋がりにくいという問題があります。

 さらに、そのような高齢者を介護する家族も、認知症に関する知識や介護の経験・技術が不足していることが少なくありません。

 その結果、十分な準備がないまま高齢者の介護に対応せざるを得なくなり、介護者の心身の負担が大きくなることで、虐待のリスクが高まることが懸念されます。

虐待を防止するために考えられること

 私は法律の専門家である弁護士として、高齢者虐待対応専門職チームに派遣されたことがあります。

 高齢者虐待対応専門職チームとは、弁護士会と社会福祉士会が市町村との契約に基づいて、両会に所属する弁護士及び福祉の専門職である社会福祉士が市町村に派遣されて、高齢者虐待のケースについて、助言を行うという仕組みです。

■問い合わせ窓口/日本弁護士連合会「高齢者・障害者に関する法律相談窓口」
https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/guardian.html

 弁護士が助言のために派遣されるケースの多くが養護者による虐待です。弁護士として助言をする際に悩ましく思うことは、高齢者虐待は単に高齢者と加害者を分離させればいいというわけではないことです。

 認知症高齢者を保護するために成年後見制度を利用するという手段もあり、虐待事案では弁護士などの専門職が成年後見人などに選任されることが多いです。

 しかし、専門職の後見人はご本人を常に見守ることはできないため、同居する家族から虐待を受けている高齢者を十分に保護することができないケースもあります。

 したがって、「虐待に至る前」にいかに防止するかが大事になってきます。

 そのためには、ケアの経験や認知症の知識が十分はない家族が無理をして高齢者を介護するのではなく、早め早めに役所や周囲の人に助けを求めることが大事になります。

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