身近な野菜の天然毒素に注意!じゃがいも、トマト、ズッキーニ…実は危ない
7月9日、兵庫県宝塚市の小学校で児童16人が発症した集団食中毒。その犯人は誰あろう、学校菜園で育てたじゃがいもだった──実はじゃがいも、知る人ぞ知る食中毒を起こす“常習犯”。そこで本誌は、なじみの食材でも“実はアブナイ裏の顔がある”悪い面々を緊急手配。食べる前に読む! を心がけて。
野菜で毎年食中毒が起きる
“植物刑事”こと、サイエンス・ジャーナリストの森昭彦さんは、「日本で最も危険な植物は野菜なんです」と、手配書を握り締めた。
「特に先進国では“自然のものは体に優しい”とばかりに自分で採取し、料理し、食べるというブームが続いていますが、その危険性について関心を持つ人は少ない。結果、こういった身近な食材で毎年大勢が中毒を起こしています。ただ、植物が毒を持つのは自分自身の身を守るため。虫や動物に食べられるのを防ぐために嫌がらせ物質を出しているのです。彼らの生態を知ることが、命を守る第一歩になるのではないでしょうか」(森さん・以下同)
森さんによれば、成人よりも子供の方が天然毒素にあたる可能性が高いという。
「免疫力が下がっていたり、食べ慣れていない人も中毒になりやすい傾向にあります。自分が口にするものはもちろんのこと、家族に出すものにも充分留意してください。肝に銘じていただきたいのは、強烈な毒ほど、茹(ゆ)でたり焼いたりという加熱程度では、全くその毒性は衰えないこと。せっかくだからなんとかして食べよう、という考えは捨てましょう」
ただでさえ食中毒が増えるこれからの季節、手配書の“悪いやつら”から身を守るには?
「日本人の知恵“下ごしらえ”は、食材の毒素を中和し、食べやすくする素晴らしい技術。下ごしらえを守り、違和感を感じたらすぐに箸を置くことです」
毒にも薬にもなる彼らとのつきあい方、早速見直そう!
野菜の中毒例と天然毒素をチェック!
●いんげん豆
【犯罪歴】
生豆は腸の粘膜に炎症を引き起こし、食後2~4時間で急激な下痢、嘔吐、腹痛をもたらす。2006年にはテレビで紹介した『白いんげん豆ダイエット』で158人が食中毒を起こす事態も。
【対処法】
「4~5粒で人体を危険にさらします。一晩水に浸して戻し、80℃超える加熱10~20分を守れば悪さはしません。80℃までしか熱しないと毒性が生豆の5倍になるという報告もあるので注意を」(森さん・以下同)
【有毒成分】
フィトヘマグルチニン
●夕顔(ゆうがお)
【犯罪歴】
市場に出回るものは改良品種がほとんどだが、高濃度の毒性を持った個体が出回ることも。山形県では、夕顔を食べた3人が食後20~30分で中毒症状を訴えた(2008年)。
【対処法】
「悪事を働いている時は苦味がサイン。ちょっと苦いかも? と思ったら、すぐ箸を止めましょう」
【有毒成分】
ククルビタシン類
●ゴーヤー
【犯罪歴】
ウリ科ながら、夕顔やズッキーニと異なり、苦味が悪さをすることはない。ただし、過度に熟すと有毒成分モモルジンが増加し、吐き気、嘔吐、下痢をもたらす。
【対処法】
「グリーンカーテンとして人気の植物ですが、収穫が遅れたオレンジ色のものは食べるのを控えましょう。よそに配るのも、火種になることがあるのでご注意を」
【有毒成分】
モモルジン
●ズッキーニ
【犯罪歴】
熟しすぎると強烈な苦味を与える有毒物質が容赦ない下痢、腹痛をもたらす。2014年には岡山県の飲食店で14人が中毒症状を訴えた。
【対処法】
「成熟するにつれて苦味が増大するので、20cm前後までの未熟なものを食べること。そしてもし強い苦味を感じたら、喫食を控えることです」
【有毒成分】
ククルビタシン類
●じゃがいも
【犯罪歴】
芽に毒があることはよく知られているが、光が当たって皮が緑色になったものや、未成熟で小さいものにも毒性が強く含まれ、猛烈な腹痛、嘔吐、下痢、めまいを引き起こす。ヨーロッパではかつて栽培が禁止されるほど危険視された。2019年7月にも、兵庫県宝塚市の小学校での調理実習で16人が発症している。
【対処法】
「掘り起こした後でも、太陽光や電灯の明かりで有毒成分は生産され続けます。人気のメークイーンやシェリーは特に注意を。高温で蒸す・炒めるくらいでは毒性は分解されません。芽を取る、皮を剥(む)く、水にさらす、充分茹で、茹でた湯は捨てる“下ごしらえ”を徹底しましょう」
【有毒成分】
ソラニン
●ワイルドレタス
【犯罪歴】
多食するとめまいと吐き気に襲われ、激しく嘔吐。その後も、幻覚や幻聴、強度の不安症、運動機能障害、意識喪失をもたらす。イランでは8人が集中治療室へ運ばれた(2008年)。
【対処法】
「野生のレタスの乳液は適切に処方すれば製薬原料となり、ヨーロッパでは現在も珍重されていますが、素人が手を出すにはあまりに危険。量の多少を問わず摂食は避けましょう」。
ちなみに、一般的なレタスたちは有毒な野生種を長い時間かけて改良したもので、毒性はほぼない。
【有毒成分】
ラクチュカリウム
●トマト
【犯罪歴】
完熟果実には微量にしか含まれない有毒成分だが、茎葉には2400倍もの有毒成分を含有。摂取すると不快感を覚えたり、胃腸の不調、めまいなどを起こす。
【対処法】
「200年もの間、ヨーロッパでは危険植物と断罪されていましたが、果実の通常利用は安全です。料理の風味づけやハーブティーに茎葉を利用することもあるようですが、控えた方が賢明です」
【有毒成分】
トマチン
●ぎんなん
【犯罪歴】
多量摂取後1~24時間で、痙攣(けいれん)や頭痛、嘔吐をはじめ、顔面蒼白、呼吸困難、意識混濁、便秘、発熱など重篤な症状をもたらす。死亡例も2件ある。
【対処法】
「子供は7~150個、大人は40~300個が中毒量の目安となっていますが、健康状態によっては少量でも引き起こすので、少量をおいしく食べるにとどめてください」
【有毒成分】
ギンコトキシン
美しい姿には毒がある! うっかり誤食してしまわないよう、以下の植物にもご注意を。
●南天(なんてん)
【犯罪歴】
適切な処理をした適量を、最適な症状に用いれば高い薬効を得られるが、雰囲気で実を摂取すると知覚神経や運動神経が麻痺する。
【対処法】
「葉には防腐・殺菌作用があるといわれ、赤飯や魚料理、おせちなどにも使われますが、うっかり口に入れると大変危険です。子供などの誤食に注意を」
【有毒成分】
ドメスチシン、イソコリジン、ナンジニン
●水仙(すいせん)
【犯罪歴】
成分がわずかでも、吐き気や嘔吐、頭痛、下痢をもたらす。にらと間違えて葉を誤食し、8人が嘔吐を繰り返した例(2009年、兵庫県)や、調理実習で玉ねぎと間違えて球根を食べ児童5人が中毒を起こした例も(2008年)。
【対処法】
「にらや玉ねぎには強い芳香があるので、においを確かめることは大事。昨今は野生化しているので、野草摘みの際は要注意です」
【有毒成分】
リコリン、ガランタミン、タゼチン、シュウ酸カルシウム
●紫陽花(あじさい)
【犯罪歴】
葉を摂食すると吐き気、めまい、顔面紅潮などを引き起こす。2008年には茨城県で料理に添えられた葉を食べた客8人が食後30分で中毒症状を訴えた。
【対処法】
「有毒植物であることに疑いはないのですが、毒性の原因物質がいまだに特定できていないのが現状。葉には抗菌効果があるのであしらいに使われますが、喫食は控えて」
【有毒成分】
フェブリフジン、イソフェブリフジン、青酸配糖体
●ほおずき
【犯罪歴】
葉と果実を食すと、嘔吐、腹痛、頭痛などを引き起こす。根茎には子宮を収縮するヒスタミンが多く含まれ、妊婦が摂取すると流産の危険も。
【対処法】
「近年は南アメリカ原産の食用ほおずきが出回っていますが、それ以外は喫食を控えて。未熟な果実も有毒なので、口にするのは絶対に避けましょう」
【有毒成分】
ソラニン、アトロピン、ヒスタミン
●甘茶(あまちゃ)
【犯罪歴】
生薬として知られていた存在だが、近年、集団中毒事故が多発。2009年には岐阜県の保育園児28人が嘔吐、2010年にも神奈川県の小学1年生45人が嘔吐した。
【対処法】
「甘茶をいれる場合は、少なくとも10倍以上に薄めにした方が安全です」
【有毒成分】
フェブリフジン、青酸配糖体
●アロエ
【犯罪歴】
アロエ粒剤の服用で紅斑が全身に広がった例(1996年)など、外用や内服で皮膚炎を引き起こすことがある。皮を喫食して下痢をもたらすことも。
【対処法】
「古くから傷ややけどに効果があるとされ警戒心が薄れていますが、アロエ成分でアレルギーを起こす人も少なくないので、摂食や内服には充分な注意を」
【有毒成分】
バルバロイン
●藤(ふじ)
【犯罪歴】
多量に摂取すると頭痛、胃腸障害、吐血、めまい、意識の混濁、疲労感などをもたらす。1993年には外国人女性が10粒の豆を食べ、中毒症状を起こした。
【対処法】
「花はおひたしや三杯酢、若葉も天ぷらなどで好んで食べられますが、昔から多食はよくないとされます。食べ慣れない人は特に注意して少量を摂るにとどめましょう」
【有毒成分】
ウィスタリン、レクチン、シチシン
毒の見極めは専門家でも本当に難しいところ。口に合わないと思ったら食べない、に尽きます!
教えてくれたのは…
“植物刑事”ことサイエンス・ジャーナリスト 森 昭彦さん
現場百遍をモットーに植・動物の生態を追って21年。著書に『身近にある毒植物たち“知らなかった”ではすまされない雑草、野菜、草花の恐るべき仕組み』(SBクリエイティブ)ほか。
イラスト/大串ゆうじ
※女性セブン2019年8月15日号
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