【遺族年金】手続きのコツ 長年別居していた夫婦の場合は?
盛岡に住む認知症の母を東京から遠距離で介護を続け、その記録をブログで公開している工藤広伸さん。息子の視点で”気づいた”“学んだ”数々の「介護心得」を、当サイトでも数々紹介してもらっている。
今年に入り、長年音信不通だった父が病に倒れ、その闘病生活を支える経験も。9月に、父が他界されて、その後の手続きなどにも東奔西走する日々を過ごしながら、そこで得たノウハウも広く発信している。
今回のテーマは、「遺族年金」。もらえるかどうかで、今後の人生に大きな影響を与える年金。今から知っておくと役立つこと間違いなし!
2017年9月に亡くなった父の葬儀のとき、親族からこんなことを言われました。
「ひろちゃん(わたしのこと)、あんた、お母さんの遺族年金の手続きはしたの? わたしは旦那が亡くなったときに手続きをして、遺族年金をもらっているわよ」
27年という長い別居状態にあった父と母。婿であった父は家を出て、母と同じ市内にマンションを購入し、住民票を別にしました。実質離婚状態だったのでわたしは、「遺族年金なんかもらえるわけがない」と思い、手続きするつもりはありませんでした。
しかし、親族のこの一言がきっかけで、とりあえず遺族年金の申請をしてみることにしたのです。
遺族年金が支給されるための条件とは?
遺族年金とは、国民年金もしくは厚生年金の被保険者が亡くなった際に、その人によって生計を維持していた遺族が受け取ることのできる年金です(日本年金機構HPhttp://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/izokunenkin/jukyu-yoken/20150401-03.html参照)。
家族構成や過去の年金の加入状況によって、支給額は大きく変わります。
「生計同一である(夫婦や親子が同じ屋根の下で生活している状態のこと)」が、受給するための条件のひとつとなります。
父と母は別居状態でしたので、「生計同一ではない」ということになります。従って、遺族年金の支給対象とはならないのですが、「生計同一関係に関する申立書」があれば、遺族年金が支給される可能性があることが、役所や年金事務所に行って分かったのです。
生計同一関係に関する申立書とは?
生計同一に関する申立書には下記の5項目があり、これらの理由が明確である場合はたとえ別居状態にあったとしても、遺族年金が支給されることもあります
1.別世帯になっていた理由
2.別居していたことの理由
3.経済的援助についての申立
4.定期的な音信・訪問についての申立
5.第三者による証明欄
父はなぜ家を出ていったのかについては、わたしも分かりませんでした。しかし、経済的援助についてはいくつかの証拠がありました。
ひとつは母が住む家の固定資産税の一部を、父が27年払い続けていたことです。
父は家出をした後に、土地の名義を母に変更しなければならなかったのですが、面倒で手続きをしませんでした。
また、ほぼ最低金額の国民年金しかもらっていなかった母のため、わたしは父と交渉して、毎月一定額の生活費をもらうようにしました。これらを申立書に記入して、提出しました。
定期的な音信・訪問はほとんどなかったのですが、父の部屋の遺品整理をしていたら、母が父に宛てた手紙が出てきたので、これを証拠にすることにしました。
一番の難関は、この生計同一に関する申立書を第三者に証明してもらう必要があるといいうことです。
三親等以内の親族は第三者として認められないため、家庭の内情は知っているけど、血縁関係の薄い人を選ばなくてはなりません。
役所の職員に聞いたところ、家族のことをよく知る民生委員やケアマネージャーなどが第三者になるケースが多いという話を聞きました。それで、父を担当していたケアマネージャーにこの状況を説明して、申立書に署名をしてもらい、年金事務所に提出しました。
遺族の今後の人生を大きく変える受給の可否
遺族年金の手続きをして分かったのは、この年金を受給できるかどうかで、今後の母の人生が大きく変わるということでした。もし遺族年金が受給されなかった場合、受け取ることができるのは父の未支給年金のみで、数十万円を1回受け取って終了です。
しかし遺族年金が受給されれば、母が亡くなるまで遺族年金を受け取ることができます。母が何歳まで生きるかにもよりますが、受け取る金額の差は最低でも数百万円にはなります。最低水準の国民年金で生活していた母にとって、この差はとても大きなものです。
申請してから2か月後、遺族年金の結果が来ました。半ば諦めていた遺族年金は認められることになり、母が使える月々のお金は今の倍以上になったのです。
医療や介護には積極的にお金を使ってきましたが、住まいに関しては年金が少ないので節約してきました。しかし、遺族年金の支給が決まったので、長年母が気にしていた居間の擦れた畳を交換しました。
新しい畳のい草の香りに、母は大喜びしています。
遺族年金の手続きをスムーズに進める2つのコツ
遺族年金の手続きのコツをご紹介します。
【1】委任状が必要かどうかを確認してから行動したほうがいいと思います。
今回の遺族年金の手続きは、すべてわたしが代理で行いました。そのためには母の委任状が必要になるのですが、遺族年金を受給するための必要書類(戸籍謄本、住民票、所得証明書など)を役所で取得する際にも、委任状が必要になることがあります。
これらを事前に市区町村のホームページ等で調べてから役所に行かないと、委任状がないので発行できないと言われ、わたしのように何度も足を運ぶことになります。
【2】予約可能な年金事務所であれば、必ず予約することをお勧めします。
地域にもよりますが、年金事務所は混みあっています。予約可能であれば、用件を伝えて行ったほうが必要書類を準備しておいてくれますし、手続き自体も早く終わり、待たされることもありません。
社会保険労務士が、遺族年金の手続きについて詳しいので力になってくれると思います。
夫の死後、妻が受け取る遺族年金の想定額を年金事務所で事前に調べることもできますし、夫自身が生前に確認することも可能という話を聞きました。
人生を大きく左右する遺族年金について、一度聞いておいて損はないかもしれません。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)
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