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わたしが「病院ではなく在宅で父を看取る」と決めた理由

 認知症の母を岩手ー東京の遠距離で介護をしている工藤広伸さんは、祖母と母のダブル介護の経験に加え、このたび、父の介護も始まった。家族の立場で”気づいた””学んだ”さまざまな介護心得や現在進行形で介護をする者だからこそ発信できる情報やエピソードを紹介してもらう当サイトのシリーズでは、前回に引き続き、倒れた父の介護についてのお話。

 母とは別の家で暮らし、長らく音信不通だった父が倒れたとき、息子はどうしたのか。病気、介護、そして命…、工藤さんの決意、その理由とは?

 * * * 

 父(現在75歳)は悪性リンパ腫(血液のがん)で、余命1か月から3か月と診断されました。最期をどこで迎えるかについて父や家族と話し合い、「自宅」という選択をしました。

 なぜ病院ではなく自宅で最期を迎えることにしたのか、その理由についてお話しします。

悪性リンパ腫の診断(治療と予後)結果

 父の診断結果は、次のようなものでした。

【1】積極的治療の場合
 抗がん剤で治療を行い、悪性リンパ腫と戦うという方法です。寛解(がんが一時的、永続的に消えること)の可能性もありますが、腎臓機能が低下している父は体力がなく、治る可能性は30%で、残り70%は亡くなるという診断でした。積極的に治療をすると、寿命は1か月になるという診断でした。

【2】緩和療法
 お薬を使って痛みを取り除く緩和療法が、一番長く生きられる方法だと医師から言われました。それでも、3か月くらいで亡くなるという診断でした。「ただの腹痛」としか思っていなかった父なので、ショックは大きかったようです。

 しかし、わたしは、医師の話をそのまま受け止めることはしませんでした。

医師からの余命宣告をどう考えるか?

 子宮頸がんで亡くなった祖母は、余命半年のところ1年生きました。肺がんで亡くなった叔母も、余命1年のところ5年も生きました。

「余命宣告はあくまで目安であり、医師が示す最悪のケース」だとわたしは思っています。残された時間を有効に活用できるといういい面もある一方で、精神的なダメージを大きく受け、残りの人生を有意義に使えないということもあるようです。

 わたしは、父の余命宣告を目安としか考えていません。

祖母を看取った時、病院の対応に驚愕

 わたしの祖母は、病院で亡くなりました。臨終後10分と経たないうちに、祖母の居た病室の小タンスがナースステーションの前に運ばれ、看護師さんに「荷物の整理をお願いします」と言われました。次の患者のためとはいえ、あまりに商業的な対応に驚いた経験があります。

 一方、自宅で看取ったご家族からは、十分な時間を取って最期を迎えることができたと聞きました。

 こういった経験から、余命宣告以上に生きられること、病院では満足いく最期を迎えられないかもしれないことを父に伝えました。父は納得しましたが、それでも不安があったようでした。妹や父の姉にも伝えたのですが、やはり父と同じ不安を抱えていました。

「自宅で最期を迎えること」に家族が抱く不安とは

 家で最期を過ごすときの不安は、下記でした。

●体に異変があっても、在宅だと医師や看護師がすぐ来てくれないのではないか
●家族は、24時間つきっきりで介護しなければいけないのか
●死の直前は、家族はパニックになって対応ができないかもしれない
●もし家族が外出中に亡くなったら、孤独死になってかわいそう

 これらの不安を解消してくれたのは、在宅医療を専門とされている、ものがたり診療所もりおかの松嶋大先生でした。また「なんとめでたいご臨終」(小笠原文雄著・小学館刊)という本を読んで、不安はほぼ解消されました。本に記されている、1000人以上を在宅で看取った小笠原文雄先生のお話は、松嶋先生のお話と重なるところがたくさんありました。

 では、この2人の医師はこれらの不安を、どう解消してくれたのでしょうか?

在宅で看取るという選択 

 体に異変があった場合、24時間緊急電話対応で、医師や看護師が家に駆けつけてくれます。

 ケアプランをうまく組めば、ヘルパーさんや介護福祉士さんが手伝ってくれるため、24時間つきっきりである必要もありません。

「旅立ちの日が近づいたサイン」を知っておけば、家族は落ち着いて最期の時まで対応ができます。

 上記の通り父や家族に伝え、不安を解消した後で、改めて父に最期はどこで迎えたいのか聞いてみました。

 すると、

「やっぱり、家に帰りたい」

 と言ったのです。

 残り少ない人生です、父の願いを叶えてあげることが、本人のためでもありわたしのためでもある…そう思って退院の手続きをし、在宅で看取る態勢を整え始めました。

自分の家で過ごすことは、生きる力になる! 

 家に帰ってきた父を見ていて思うのは、やはり家は最高だ!ということです。

 入院時は8人部屋の病室だったので、周りがどうしても気になります。病院の天井より、見慣れた家の天井の方が落ち着くし、好きなものを自由に食べられます。病院ではテレビを見なかった父が、「レンタルDVDを借りてこい!」と言うので、30年ぶりに映画『ランボー』を親子で一緒に見ました。家の外からは、盛岡さんさ踊りの太鼓の音が聞こえてきます。家の匂い、周りの音、すべてが病院とは違い、生き生きとした生活感があります。気兼ねなく、家族と好きなだけ会話ができるのもうれしいです。

「サンキューでした!」

 仲の悪かった父に、感謝されるとは思ってもいませんでした。本当に家に帰って来られて、うれしかったようです。旅立ちの日がいつやってくるか分かりませんが、それでも「在宅で看取る」という選択に間違いはないと思っています。

 わたしが在宅で看取ると決めた理由、それは父の最期の願いを叶えるためです。

 今日もしれっと、しれっと。

【工藤広伸氏講演会のお知らせ】
演目:誰かに話したくなる「認知症介護の心得」
日時:8月3日(木)18:30~20:15
場所:福島県石川町共同福祉施設(福島県石川郡石川町関根1-1)
 (最寄駅:JR水郡線 磐城石川駅 徒歩20分)
費用:無料(申込不要です。直接会場にお越しください)

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工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、ものがたり診療所もりおか地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/

 

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この記事へのみんなのコメント

  • 現実の在宅看取りは疑問が一杯です。

    認知症介護士などの資格を持っていらっしゃる著者は、現在は在宅看取りをめざすとはいえ、遠距離で、通い介護ですよね。私も姉妹で母を在宅看取りしました。訪問看護婦、ヘルパーがとてもよくやってくれたこともあり、半年弱の介護期間で、最後の1ヶ月以外は週に1回から3回程度の通い介護でした。基本的な介助、生活支援はヘルパーがしてくれますから、もっぱら母の話し相手と、ヘルパーに頼めない細かいことの手伝いだけで、おそらく在宅とはいえ、肉体的負担は非常に軽かったと思います。だからこそなくなるまで見とれたわけです。 問題は、24時間体制を組むため、交代で泊まり込みを始めた最後の1ヶ月です。ここで、全ての問題が噴出したと言えるでしょう。 実感したのは、在宅介護はナースコールのない病院に入院させるようなものだと言う事。実際には、最後の1ヶ月以前でも、母は独居でしたから、1人でナースコールもなく、頑張ってきたのだと思います。在宅では、家族だけでなく、患者本人にもたくさんの負担がかかります。それでも、在宅で過ごしたいという強い意思が本人にある内は良いのですが、寝たきりなり、末期癌の痛みが薬では抑制できなくなった時に、果たして在宅である意味があるかどうか、疑問は一杯ありました。 家族と本人に、人間らしい最期をというお題目はいいのですが、実際には、担当する在宅医療の医師と看護婦の理念に振り回される部分も有り、必ずしも本人や家族の希望が聞いてもらえないのも事実。これはホスピスや病院でも似たようなもので、では在宅の苦労は何のためであったかと、今でも悩みます。 実際在宅で看取りまでする家族は少数派で、ほとんどはある程度在宅で、最期は病院か施設と言う事が多いそうです。それは実際にやってみると納得がいきます。医療の責任も、精神的負担も、親が死んでいく事実も、全て家族だけで受け止める負担は、肉体的にも精神的にも大きく、特に夜間は自分達だけでやる必要があり、その労作の問題も、結局母と向き合う時間を奪っていきます。病院に全て任せて、じっとそばにいた方が十分な時間が取れたかもしれないと思うほどです。 24時間体制の訪問医療と看護は、私も契約していましたが、実際には、呼んでも来るまでに20分から1時間かかりますし、そもそも緩和ケアをする以上、全ての処置は家族かやれる範囲になっていますから、呼ぶ必要がないのが現実です。つまり直る症状なら呼びますが、これは死ぬかもしれないという状況では、死なせるのが目的ですから、呼ぶ意味がどこにあるのか。実際介護の全行程で呼んだのは4回。内1回は母が1人で、ポータブルに降りたらベッドに戻れなくなったときで、連絡うまくつかず、2時間近く待たされた後、ようやく介助が来ました。後の2回は、後から「こういうことであたふたするなら、ホスピスの方がいいですよ」と言われました。つまり本来は呼ぶべき条件ではなかったと言うこと。そして最後の1回は、死んだから呼んだのです。 医師に至っては、死んだときに呼んだだけ。それも夜間でしたし、年末だったので、主治医は来ません。 担当した事業所は医療ケアチームに責任感がないとか、仕事ができないとか、そういう理由ではないのです。そういう意味では望みうる最高のスタッフだったと思います。少なくともルーティーンの日中のケアは非常にきめ細やかで、だからなんとかやれたと言う事はあります。ただ夜間はそうは行かない。結局これが日本の在宅の限界であると思います。 この状況を飲み込めない家族なら、在宅は期待外れでしょう。とても負担の重い介護で、得るものもほとんど見いだせないでしょう。 正直死んだ後の対応は、確かに在宅なら時間が取れます。下手をすれば、死んでいく親を、たった1人で、なすすべもなく見送り、(そのとき苦しんで暴れたりしたら、本当に大変)そして看護婦にも医師にも頼れず、焦燥と呆然とした状態で1時間以上放っておかれるという意味での時間なら、十分にとれますよ。この時間をどう受け止められるかが在宅を選ぶかどうかの分かれ道ですね。病院で受けた不満と、真逆の意味での不満でしょう。どっちがいいかと言うだけのことです。在宅はバラ色ではないですよ。

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