連載

病院や介護施設での事故、後悔しないための3つの心構え

 認知症の母の介護を、東京―岩手と遠距離で続け、その様子を介護ブログや書籍などで公開している”くどひろ”さんこと工藤広伸さん。息子の視点で”気づいた””学んだ”数々の介護心得を紹介するシリーズ、今回は、病院や介護施設に親を預けるとき、工藤さんはどんな心構えなのかを、具体的なエピソードを交え教えてもらった。「しれっと」をモットーとする工藤さんの介護サバイバル術とは?

 * * * 

 家族を病院や介護施設に預ける時、医療・介護のプロに任せるのだから安心だと考えるご家庭は多いと思います。わたしも祖母を病院に預けた時、これで大丈夫だと思いました。ところが「ある出来事」がきっかけで、病院に対する見方は一変しました。

 今日は、家族として病院や介護施設に預ける際の心構えについてお話しします。

介護老人保健施設が「パン」で訴えられた事件で思い出したある出来事

『2014 年1月に鹿児島県の介護老人保健施設で80代の男性利用者が、パンをのどに詰まらせ意識不明になる事故が起こりました。男性とその家族は「男性は飲み込む力が弱っていた。事故は予見できたはずだ」と施設側を訴え、鹿児島地裁は、今年の3月に、「パンをそのまま提供した施設側に責任がある。小さくちぎって提供する義務があった」と施設の過失を指摘し、4000万円あまりの賠償を命じる判決を言い渡しました』(3月28日 南日本放送の報道より)

 このニュースを見たとき、わたしも「病院を訴えたい」と考えた時期があったことを思い出しました。

 それは、祖母が病院のベッドから転落して大腿骨を骨折したときのことです。

 わたしは、「安全であるはずの病院で、なぜこんなことが起きるのだろう」と疑問に感じ、「病院側の監視体制に不備があったのではないか」と思いました。「もし、病院を訴えるとしたら…」と考え、インターネットで病院内でのベッドからの転落事故について調べてみたのです。

 すると、「病院に管理責任はあるものの、防ぎきれない事故である。1対1で常時監視ができるわけではないため、ベッドからの転落はゼロにはできない」という書き込みを見つけました。

 また、認知症だった祖母が、急激な環境の変化についていけなかったことも一因だと分かりました。祖母は、88年間寝るときは布団だったのですが、病院ではベッドでの生活に変わってしまったため、ベッドの高さを認識しないで、布団から出るように一歩踏み出して、そのまま転落して骨折しまったようです。

 このことがきっかけで、わたしは、自分が病院や介護施設に対して、過剰なまでの安心・安全を期待していたのだと気づいたのです。

必ずある介護施設や病院のリスクを背負う「覚悟」

 預ける家族が思っている以上に、病院や介護施設にも一定のリスクは存在します。ベッドからの転落以外にも、転倒、施設外への徘徊による事故、薬の取り違えなど、様々なリスクがあります。

 どんなに介護者側が、病院や施設を100%信頼できると思っていたとしても、人間はミスを犯すものです。絶対大丈夫という保証は、どこにもありません。

 もちろん、医療・介護職の皆さんも、1回の過ちが大変なことにつながると分かっていて、ミスがないように念入りにチェックをしていると思いますが、それでも事故は起きます。システムや人員の問題、経営者や管理者の運営方針が原因の場合もあるでしょう。

 それでは、在宅で医療や介護を受ければ安心かというと、それでもリスクはゼロにはなりません。すべての環境で、家族はリスクを背負う「覚悟」が必要だと思います。

 では、介護家族は、病院や介護施設に預けることへのリスクと、どう向き合っていけばいいのでしょうか?

日頃の「信頼関係」「感謝の気持ち」で折り合いをつける

 わたしは、家族と病院・介護施設の間で「日頃の信頼関係」を積み重ねることで、リスクと折り合いがつけやすくなると考えています。具体的には、医師、看護師、介護職の皆さんと積極的にコミュニケーションをとり、「感謝する」ことです。

 病院や介護施設にお金を払っているのだから、すべて任せていいだろうと、面会にも行かず、放置しているようでは、病院、施設内での様子はわかりません。できるだけ頻回に足を運ぶことで、医師、看護師、介護職の皆さんの話を聞く機会も増えるはずです。

 祖母の時も、看護師さんや介護士さんが食事や入浴・服薬介助する姿を見ていたおかげで、転落事故の際、怒りの感情が少しは和らぎました。骨折という事実はあったにせよ、それまで毎日、祖母のお世話をしてくれたということにも目を向ける気持ちになれたのです。

 万が一、不慮の事故が起きた場合、病院や介護施設の過失を責めたい気持ちも理解できるのですが、どんな場所でも一定のリスクは存在します。それならば、日頃から積み重ねた感謝の気持ちで、責める気持ちを少しでも相殺できたら、介護者自身も楽になれるのではないかと思います。

 事故によって、介護者がマイナス1000ポイントのダメージを受けたとしても、築いた信頼関係と日々感謝の気持ちを積み重ねることで、プラス500ポイントを持っていたとしたら、相殺してマイナス500ポイントで済む、祖母の件もこうやって気持ちが楽になりました。

不慮の事故が起きたときに備えて

 不慮の事故などが起きたときに、深い悲しみから自分自身を守るためにも、病院や介護施設に預ける際には──

【1】事故などのリスクが起こる可能性を覚悟する
【2】できるだけ足を運んで信頼関係を築く
【3】お世話になっていることに感謝する

 この3つの心構えが大切だと思います。

 今日もしれっと、しれっと。

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工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間20往復、ブログを生業に介護を続ける息子介護作家・ブロガー。認知症サポーターで、成年後見人経験者、認知症介助士。 ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/

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この記事へのみんなのコメント

  • ふじもと

    施設に預けるときの現実として、在宅で介護ができるかどうかがあると思います。できれば実際に介護を経験して、自分達ではできないという現実をかみしめた後に施設に預けるという行程が必要かもしれません。 施設での事故を考えたとき、それが自宅介護でも起こりうる事故であるかどうかを考えれば、介護者への理不尽な怒りも少し矛先が変わるかもしれません。自宅でも転落事故は起こる可能性があり、病院以上に危険なときもあります。 一方で、院内感染などは、自宅では起こりづらく、施設特有の問題とも言えます。 金銭的にも分岐点が有り、通常の介護保険ないでの自宅介護より施設の方が高額ですが、24時間に近い付き添いが必要になると、どうしても私費でヘルパーや家政婦を雇わざるを得なくなり、ここで施設と費用が逆転します。こうした問題もバランスとして知っておく必要があると思います。 こうした事は実際にやってみて、よくわかることです。最初から「自宅は無理」として施設に入れることが悪いとは思いませんが、介護のなんたるかを見ることもなく施設に預けてしまうと、過剰な期待が起こりがちではないかと思ったりします。

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