【世界の介護】ユマニチュードの本場 古城を利用した仏の老人ホーム
ユマニチュードでスタッフの団結力も高まる
数年前からは、「ユマニチュード(※)」のメソッドも取り入れている。
「ユマニチュードは、ケアの技術力の向上が目的ではなく、スタッフみんなの団結力を高めるために導入しました。コミュニケーションの指針のようなものですから、ケアスタッフだけではなく、事務員も実践しています。スタッフ自身が『自分の親を入居させたい』と、心から願うようなサービスを実現するために、この他にも指導者の育成をはじめ、内部・外部研修も積極的に実施しています」
フランスも日本と同様に、介護職員の離職率は高いという。一方、入居者にとっては、慣れ親しんだスタッフに暮らしのサポートをしてもらうことが、一番の安心につながるはず。そのためにも、理想や哲学を介護現場で技術にかえていく職場での教育は、欠かせないのだと思う。
今回は、歴史が息づくルモイ城を“終の棲家”として紹介した。ここでは、正門は24時間開放されている。安全面で不安はあるが、「入居者に開放感を持ってもらいたいから」という理由は、自由を愛するフランスらしい。取材時には、子どもたちが中庭の公園に遊びに来ていて賑やかだった。
ヨーロッパの貴族文化を花開かせたフランス。晩年を「城で暮らす」という、壮大でユニークな夢を叶えた暮らしは、「自分が理想とする老後の暮らし方」について考えることはもとより、「どういう人生を送りたいのか?」「あなたが叶えたい夢は? 持ち続けたいロマンは? 愛は?」そんな問いに即答できるフランス人だからこそ、理想を追い求め、叶えることができた“暮らしの形”と言えるのかもしれない。
※ユマニチュードとは
フランス人のイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏によってつくり出された、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションにもとづいたケアの技法。日本でも認知症ケアに効果があると話題になっている。ユマニチュードは、「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学と、それにもとづく150を超える実践技術から成り立つ。内容は、正面から同じ高さで目を合わせる、触れる、話しかけるという、“人間らしさ”を尊重する基本的な事柄。
※為替レートは2017年5月12日現在
撮影/Gianni Plescia 取材・文/殿井悠子
取材協力/オリックス・リビング株式会社
殿井悠子(とのい・ちかこ)
ディレクター&ライター。奈良女子大学大学院人間文化研究科博士前期課程修了。社会福祉士の資格を持つ。有料老人ホームでケースワーカーを勤めた後、編集プロダクションへ。2007年よりイギリス、フランス、ハワイ、アメリカ西海岸、オーストラリア、ドイツ、オランダ、デンマーク、スウェーデンの高齢者施設を取材。季刊広報誌『美空』(オリックス・リビング)にて、海外施設の紹介記事を連載中。2016年、編集プロダクション『noi』 (http://noi.co.jp/)を設立。同年、編集・ライティングを担当した『龍岡会の考える 介護のあたりまえ』(建築画報社)が、年鑑『Graphic Design in Japan 2017』に入選。2017年6月、東京大学高齢社会研究機構の全体会で「ヨーロッパに見るユニークな介護施設を語る」をテーマに講演。
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