ダブルケアが社会問題に!老後に親子破綻するシニアが続出
生活保護を打ち切られて“最下流”に
親子同居には、最低限の生活が立ち行かなくなったときに受けられるはずの国の補助が受けられなくなるという「落とし穴」もある。
前掲書『老後親子破産』には、体の悪い父のために、息子が同居を始めたことによって生活保護が打ち切られてしまったケースが紹介されている。
北海道に住む50代男性は失職して収入がなくなった後、年金と生活保護で暮らす80代の父親を頼り、同居を開始した。
だが、親子同居を始めると「生活保護を廃止する」という自治体からの通知書が届いた。息子の日雇いアルバイトの仕事が多かった月に稼いだ収入が「世帯収入」として計上され、「生活保護支給の必要なし」と判断されたのだ。しかし安定しない日雇いバイト生活では、生活保護カット分の穴埋めはできない。親子の預金残高は312円になり、夕食はそれぞれ食パン1枚という生活まで“転落”した。
この親子が住む札幌市厚別区の担当課長が「一般論」とした上で説明する。
「一般的に世帯の収入が生活保護水準として国が定める最低生活費を上回ると、自立した暮らしが可能とみなされて生活保護の支給ができなくなります」
生活保護の廃止は単なる受給の停止にとどまらず、それまで免除されていた毎月2万円の市営住宅家賃や医療費を支払う義務も生じることになったという。
孫は可愛いけれど…
それでも、「子供と暮らしていれば、いつか孫と過ごすという夢が叶うかもしれない」と期待する人も多いだろう。
だが、悲しいことにその孫さえも、リスクになる可能性がある。親と子に加え、孫の面倒まで見るとなれば、体力的にも経済的にもその負担は計り知れないからだ。
特に、親となった息子・娘世代が失業して、「子連れ出戻り」となったケースは厳しい。
都内在住のF氏(66)が困った顔で打ち明ける。
「昨年末に34歳の娘と4歳の孫が出戻ってきました。娘は働いているので私が保育園の送り迎えを買って出たのですが、昨今の保育園不足で自宅から遠い場所まで往復2時間かけて送り迎えしています。
確かに孫は可愛いですが、体力的にも家計にもかなり苦しい。退職後は悠々自適の生活を過ごすつもりでしたが、思わぬ現実に戸惑っています」
家族の生活費が迫すれば、孫に十分な教育費をかけることもできなくなる。その結果、大学に行かせてやれず、就職にも苦労する―といった貧困の連鎖を生む可能性がある。孫の世代まで「下流スパイラル」から抜け出せなくなる「四世代下流転落」である。
四世代同居をしている神奈川県在住の63歳のG氏が苦悩を語る。
「86歳の母と、事業の失敗が原因で離婚して戻ってきた息子と孫と一緒に暮らしている。私はまだ仕事をしていますが、息子は借金返済に必死なので、高校生の孫もバイト代の一部を家に入れてくれている。
とても大学受験どころじゃないが、孫は『バイトで授業料を貯金してから受験する』と気丈に話している。本当に寂しい気持ちです」
政府は「バラ色の三世代同居」だけを喧伝して夢物語のような「幸せのかたち」を押しつけるのではなく、こうした厳しい現実に目を向けなければならない。
※週刊ポスト2016年4月29日号