ダブルケアが社会問題に!老後に親子破綻するシニアが続出
認知症の親のために離職したものの…
まずは親との同居リスクから見ていこう。
「親の介護」によって、離職を余儀なくされるケースが急増している。みずほ総合研究所のレポート(2012年)によると、毎年10万人以上が介護のために仕事を辞めている。中心は40~50代の働き盛りだが、介護離職した後の再就職は難しい。
大手メーカーに勤務していた千葉県在住のA氏(54)は、父親(82)が脳梗塞で倒れたことを機に離職を決意した。
「父と同居する母は体が弱く、自分の世話で精一杯です。介護サービスにも限度があり、年老いた両親のために何ができるか考えていたところ、会社が早期退職を募ったので応募しました。私は知的財産に関する専門知識があったので再就職は容易と考え、失業保険と退職金で当座をしのごうとしたんです」
だが、その計画はすぐに“下方修正”を迫られた。A氏は父の介護と両立できる仕事を探したが、年齢がネックになり大半は書類選考の段階で落とされた。ようやく面接にこぎつけても「父を介護している」と明かすと断わられてしまったという。
こうしたケースは枚挙に暇がない。NPO法人「パオッコ」理事長で介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子氏は「なかでも最悪のケースがある」という。
「介護について多くの相談を受けますが、最も深刻なのは、親が認知症になっているケースです。徘徊などの目を離すと危ない症状が出ている場合は、親の近くで生活しなければならないため、介護離職を迫られるケースが多い」
しかも、老親の介護のために離職する世代は、自らの住宅ローンを残しているケースが少なくないため、“ローン地獄”に陥る危険が隣り合わせだ。
「お見合い? 面倒くさい」
次に子供との同居リスクである。「子供と一緒に住めば、金銭的に助けてくれるのでは?」と思うかもしれないが、現実にはその逆で、いつまでたっても独り立ちできない息子や娘の世話に悩む親が増えているのだ。
総務省の調査では、「親と同居の壮年未婚者(35~44歳)」は12年に300万人を突破し、そのうち失業者の割合は10.4%を占める。同世代の既婚者や親と同居していない層に比べて、失業率は倍以上だ。
都内に住むB氏(58)は、定年直前のリストラで退職し、月額およそ18万円の失業給付と同居する両親が受給するわずかな年金で暮らしている。生活はカツカツ。そこに新たな心配が加わりそうだという。
「運送業をしている30代の息子もリストラに遭ったんです。息子は、『家賃が払えなくなるから実家に戻りたい』と話しているが、ただでさえ家計が苦しいところに食い扶持が増えることを考えるとお先真っ暗です。老後は息子が助けてくれると思っていたのですが……」
こうした親と子、それぞれとの同居リスクが同時に襲いかかるのが、「三世代同居」の危険性なのだ。親と子の板挟みで共倒れ寸前の状態になっている人たちの悲鳴が聞こえてくる。
都内在住のC氏(72)は、高齢の母親を施設に入居させ、夫婦で年金暮らしをしていた。
「ところが昨年、36歳の息子が非正規社員として働いた清掃業をクビになり、精神的ショックでうつ病を発症した。独身で身の寄せ場がなく実家で預かることになったが、息子は再就職先を探すこともできず、家でゴロゴロするだけ。夫婦合わせて月12万円の年金で親子3人が暮らすのは厳しく、高齢の母が病気にでもなって医療費がかさんだ時のことを考えると、不安で仕方がありません」
神奈川県在住のD氏(58)は地方に住む老親を家に呼んだ。「子供が就職して独立するから、空いた部屋に親を住まわせて面倒を見るという計画だったが、いつまでも結婚しない娘のパラサイト化によって、意図せず三世代同居してしまったという。
「石川県の実家に単身で暮らしていた85歳の母親が腰を悪くしたので、東京の家に呼んだんです。最期くらいは看取ってあげたいという思いがありました。
ところが、『就職したら1人暮らしをする』と言って出て行った娘が、『家賃がもったいないから』と実家に帰ってきてしまった。『女性は20代で結婚』という古い考えを持つ母は、孫娘の将来を心配しています…」
かねてから男性の未婚率上昇は社会問題として指摘されてきたが、最近はこうした「行き遅れ娘」も増えている。30~34歳女性の未婚率はこの20年間で13.9%(1990年)から34.5%(10年)まで上昇した。親側にも「未婚の娘は親元に置いておきたい」という心情もあるだろうが、そうなれば家計負担増は避けられない。
三世代同居の鹿児島県在住のE氏(72)に話を聞くと、寝たきりの義母の介護は「子供として当然のこと」と受け止めているが、同居する娘の話になると、途端に顔が曇る。
「34歳になる娘は、妻が見合いを勧めても『面倒くさい』の一点張り。娘は家にお金も入れず、私たちは老後貯金を切り崩して生活している。ほぼ寝たきり状態の義母も同居しているので負担は大きい。早く独立してほしいです」
高齢の親を抱えながら、パラサイト化する子供たちの面倒を見なければならないという「ダブルケア」に直面する人は少なくない。