シニア世代の新《防災対策》大地震や水害時の選択肢「在宅避難」とは?今こそ見直したい7つの備え【防災士&家事アドバイザー解説】
災害時、慣れない避難所よりも自宅で過ごす「在宅避難」がシニア世代の安全と健康を守る選択肢として注目されている。特別な非常食を買うのではなく、普段の生活の延長でできる「無駄のない備え」とは? 食料や持病の薬、家具の固定から衛生対策まで、今すぐ確認しておきたい7つのポイントを防災士&家事アドバイザーの矢野きくのさんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
節約・家事アドバイザー・矢野きくのさん
家事の効率化、家庭の省エネを中心にテレビ・講演・連載などで活動。NHK『ごごナマ』準レギュラー他テレビ出演多数。新聞での連載のほか自動車メーカー、家電メーカーなどの企業サイトでコラムの執筆経験も。近年は中高年層の家事アドバイスや家庭でできるSDGsについての講演、SNSでの情報発信でも活動している。著書『シンプルライフの節約リスト』、『「節電女子」の野菜レシピ!』など。https://yanokikuno.jp/
シニア世代こそ知っておきたい「在宅避難」
近年、大きな地震だけでなく、巨大台風や線状降水帯による豪雨など、自然災害への備えを見直す機会が増えています。防災対策と聞くと、「新しい防災グッズを買い揃えなければ」と考えがちですが、実は何から何まで新しく購入する必要はありません。大切なのは、「今、家にあるものを一度見直して、本当に必要なものを無駄なく備える」ことです。
特にシニア世代の防災において、近年強く推奨されているのが「在宅避難」という考え方です。災害規模が大きくなるほど避難所の収容能力には限界が生じ、受け入れが難しくなるケースが多発します。
また、避難所での生活はプライバシーの確保が困難で、大きなストレスや生活環境の変化から健康を損ねるリスクも懸念されます。住み慣れた自宅で過ごすほうが、精神的にも身体的にもはるかに負担が少なくラクに乗り切ることができるのです。
ご自宅で安全に避難生活を過ごすために、今ある備えや生活用品をチェックし、無理なく足りない部分を補うためのポイントをご案内します。
ポイント1:食料品は「1週間分」の蓄えがありますか?
非常食といえば乾パンなどをイメージされるかもしれませんが、無理に特別な防災食を揃える必要はありません。むしろ数年単位で保存できる従来の防災食は、その存在を忘れて「気づいたら何年も前に賞味期限が切れていた」ということが起こりやすいものです。
ご自身が普段から食べている好きな缶詰やレトルト食品、乾麺などを少し多めに買っておき1週間分を確保しておくとよいでしょう。
どうしても多様な食料を揃えるのが難しい場合でも、「お米」と「お米を炊く手段(カセットコンロと水)」さえあれば、温かいごはんを食べて空腹を満たすことができます。まずは最低限、ご自宅にお米と十分なガスボンベ、カセットコンロがあるかをご確認ください。自分が1週間無理なく食べていける食品が常に家にある状態を目指しましょう。
ポイント2:水は1週間分を確保できていますか?
飲料水や調理用、衛生維持などの生活用水を含め、1人1日当たり「3リットル」の水が必要とされています。1週間分となると、1人当たり約21リットル(2リットルペットボトルで10~11本程度)が目安です。
こちらも一気にペットボトルを購入して保管するだけでなく、普段からご自宅でウォーターサーバーを利用されている方であれば、備蓄用のボトルを常に1ケース多めに手元へ置いておくことで、そのまま災害時の水として計算に入れることができます。お風呂の水を常に張っておく習慣をつけるのも、生活用水(トイレの流し水など)の確保として非常に効果的です。
ポイント3:薬は1週間分を目安に
毎日薬を服用されているシニアのかたにとって、災害時の服薬中断は命に関わる重大な問題です。災害が発生したタイミングで薬が切れてしまうと、停電や交通網の混乱などによって病院や薬局で手に入れられなくなる恐れがあります。
日頃から、常に1週間分程度の余裕を持ってお薬が手元にある状態を意識しておきたいものです。主治医に相談し、「防災のために少し余裕を持っておきたい」と伝えて相談してみてください。
併せて、お薬手帳のコピーや写真をご自宅の防災袋やスマホに保存しておくと、薬の確認や受診、処方がスムーズに行えます。
ポイント4:手元に「現金」は用意していますか?
最近は電子マネーやクレジットカードといったキャッシュレス決済が普及していますが、災害による大規模停電が発生すると、レジや決済端末、ATMが一切使えなくなってしまいます。
シニアのかたは若い世代に比べて現金を使い慣れているかたも多いかと思いますが、防災用として小銭や千円札を中心とした現金を少し手元に残しておくことが重要です。停電中の近所の商店などでは「お釣りが出せないため、小銭や千円札のみ対応」となるケースが頻密にあります。
ポイント5:懐中電灯(ランタン型)はきちんと点灯しますか?
停電時の明かりとして乾電池式の懐中電灯を用意されているご家庭は多いですが、「数年間一度も触っていない」ということはありませんか。長期間放置された懐中電灯は、電池の自然放電で点かなくなっていたり、電池漏れを起こして機械内部が壊れていたりすることが多々あります。必ず定期的にスイッチを入れ、正常に点灯するかチェックしましょう。
また、停電対策として「ろうそく」を用意されるかたもいらっしゃいますが、大きな地震の後は強い余震が続くため、ろうそくの使用は火災の原因となり大変危険です。ろうそくは使わないことを前提として照明を準備してください。
懐中電灯の中でも、手で持つタイプよりテーブルや床に置いて全方向を照らせる「ランタン型」がおすすめです。両手が自由になるため、ご自宅での移動や作業が格段に安全・快適になります。
ポイント6:家具の固定は済んでいますか?
「やらなきゃいけないと思いつつ、まだ手をつけていない」というお宅も多いのではないでしょうか。タンス、本棚、食器棚といった大型家具の固定は、在宅避難を行う上で最優先すべき対策です。家具の転倒を防ぐことは、怪我を防ぐだけでなく、避難経路の確保にも直結します。
高い場所への器具の取り付けなど、ご自身で行うのが難しい場合は、無理をせずにお子様やご親戚に頼んだり、自治体の家具固定補助サービスやシルバー人材センターなどの支援サービスを活用したりするのが賢明です。
あわせて、食器棚などは「本体の固定」だけでなく、揺れで扉が開いて中の皿が飛び出さないよう、扉留めフック(耐震ロック)を取り付けておくことも重要です。家具と扉の固定をしておくかどうかで、大きな地震が起きた後の被害の大きさや、その後の片付けの手間が格段に変わってきます。
ポイント7:体を衛生的に保つ準備はできていますか?
水不足や断水が長く続くと、何日もお風呂に入ることができず、衛生面の悪化からストレスや体調不良を引き起こしやすくなります。特に体力が落ちてきているシニアのかたにとって、身体の清潔を保つことは免疫力を維持するためにも極めて重要です。
水を使わずに頭皮を清潔にできる「水のいらないシャンプー(ドライシャンプー)」や、肌に優しい「無アルコールタイプのボディシート」、手洗いができないときに活躍する「アルコール入りの消毒用ウェットティッシュ」を準備しておきましょう。
また、お口の中の細菌繁殖を防ぐために、「歯みがきシート」や、水ですすぐ必要がない「液体歯みがき・うがい薬」を備えておくと、水が使えない環境でも無理なく衛生管理が行えます。
必要となるものは、人によって異なります。ご自身の毎日の暮らしを思い返して、自分にとっては何が必要で、何が不要かをしっかりと考えて防災用品を見直してみましょう。
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防災対策は、新しくて高価な防災セットを買い揃えることではありません。今ご自宅にある食料や日用品の在庫を確かめ、普段の生活の延長線上で「少し多めに持つ」「定期的に点検する」ことこそが、最も無駄がなく実践的な備えとなります。
まずは今日、キッチンの棚や薬箱、懐中電灯の点滅チェックから始めてみてはいかがでしょうか。小さな見直しの積み重ねが、いざという時のあなたとご家族の身を守る大きな安心へとつながります。
