認知症の母に作った夕飯の冷やし中華「そんな食べ方する!?」不思議に思った息子が考えた食事介助の工夫と対策
岩手・盛岡に暮らす認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。月に2度、数週間実家に滞在して母と一緒に過ごしているが、料理ができなくなってしまった母にかわり、工藤さんが夕飯を作っているが、あるとき冷やし中華を出したところ、不思議な食べ方をする母の様子に驚いて――。
執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(83才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。最新著『工藤さんが教える 遠距離介護73のヒント』。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/ Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442
認知症の母に作った夕飯の「冷やし中華」
先日、岩手の実家へ帰省した際、夕食に冷やし中華を作りました。
スーパーに並んでいる冷やし中華のパッケージには、チャーシューやえび、トマトといった華やかな具材が並ぶ完成写真が載っていました。
料理が苦手なわたしでも作れる献立ですが、食べるのは高齢の母とわたしだけ。具材を買い揃えたところで、使い切る自信がありませんでした。そこで少量のハムときゅうり1本だけを買い足し、あとは冷蔵庫にあった卵で間に合わせました。
具材を千切りにして麺をゆで、最後に付属のスープをかければ、あっと言う間に冷やし中華の完成です。いつもの夕食の流れどおり、母に入れ歯を装着し、食べこぼしを防ぐためのエプロンをつけてから食べ始めました。
「おいしいわね」と言いながら、冷やし中華を口に運ぶ母。しかしその食べ方を見て、夕食に冷やし中華を選んでしまったことを激しく後悔したのです。
冷やし中華を提供して後悔…その理由は?
母は重度の認知症のため、食べ方そのものを忘れてしまっています。たとえばカレーライスなら、お皿に口をつけてルーを飲んでいて、ご飯と一緒に食べることを忘れている。また、お寿司の場合は醤油をつけて食べるということを忘れてしまっているようです。
また、料理の数が増えると、どれから手をつければいいのか、どう食べればいいのかがわからなくなってしまいます。この場合、品数や皿数を極力減らして提供することで、母は混乱せずに食事ができています。
わたし自身が料理を苦手としているのもありますが、結果としてわが家の食事はパスタや焼きそば、麻婆丼などワンプレート中心で、母がひとつの器に集中できるメニューばかりになっています。
冷やし中華もワンプレートですし、季節的にいいだろうと思って選んだのですが、母が予想外の食べ方を始めました。
母の予想外の食べ方
まず、麺の上に乗っていたキュウリ。それを箸で1本つかんでは口に運び、また1本つかんでは食べる。続いて隣にあったハムも、同じように1本ずつつまんで食べていきました。
わたしは母の横で黙ってその様子を見守っていましたが、このペースでハムやキュウリ、玉子を食べ進めていったら、いつ食べ終わるのか見当もつきません。母は麺の上に乗った具材をすべて食べ切ってから、麺をすすろうと考えているようでした。
「今すぐ注意したい、だけど食事中にガミガミ言いたくない…」。そんな葛藤もあり、しばらく母の好きなように食べてもらっていました。
ところが今度はテレビに気を取られ、母の箸が止まりました。わたしはすでに半分ほど食べ終えていましたが、母は具材にこだわり、麺には到達していません。母の皿を見ると、麺がスープを吸って伸び始めていたのです。
このままでは食事が終わらないと判断したわたしは、とうとう母に食べ方を説明しました。
「ほら、こうやって麺をすするの」
わたしの食べ方を見て、ようやく箸で麺をつかんだ母。しかし、しばらくするとテレビに夢中になり、またキュウリを1本ずつ食べ始めたのです。
食事のあとには、母に薬を飲ませたり、食器を洗ったり、デイサービスで着替えた服を洗濯したりと、家事が山ほど控えていました。
冷やし中華の食べ方に共通していた食べ物とは?
早く食べ終えて欲しいと思っていたところ、母の食べ方が、ある寿司ネタを口にするときとそっくりだと気づき、冷やし中華を選ばなければよかったと後悔したのです。
その寿司ネタとは、イクラです。岩手の実家に帰省すると、月に1度くらいスーパーのお寿司を買っています。料理をしなくていいのと、デイサービスのメニューにはない、イクラやウニをたまには食べてもらいたくて、そうしています。
母にイクラを食べてもらうと、海苔で巻かれた部分を箸でつかむのではなく、イクラの粒を1つずつつかみ始めました。表面がつるつるしていて、なかなかつかめません。それでもイクラにこだわり続け、他のネタを食べようとしません。結局わたしがイクラを引き受け、代わりに中トロをあげたのです。
また、母が噛み切れない海苔巻きや貝類も時間がかかるとわかってからは、わたしがそのネタを引き受け、代わりにマグロなど噛みやすい握りを母に多く食べてもらうようになりました。
冷やし中華の食べ方は、まさにイクラのときと同じでした。母がそんな食べ方をするとは、想像もしていませんでした。
食べ方の癖とどう向き合うか
母の食べ方は、認知症の症状でいうと同じ行動を繰り返す常同行動や、物事を計画して効率を考え、順序立てて行動できなくなる実行機能障害なのかもしれません。
認知症の発症から、14年近く経ちました。元々几帳面な母ですが、重度の認知症になるとその性格がより強調され、少し過剰なくらいに思えます。
イクラは箸ではなく、スプーンで食べてもらえば解決すると思います。冷やし中華は平皿ではなく、深さのあるどんぶりで出せば、千切りした具材が気にならないかもしれません。
現在は積極的な治療は行っていないので、日々のちょっとした工夫で乗り切れればと思っています。
今日もしれっと、しれっと。
