日本人には逆効果な場合も?「糖質制限」「グルテンフリー」が合わない 医師が解説する体質と健康の新常識
近年、健康志向の高まりを受けて、世界各国の最新健康法が日本にどんどん流入した。しかし、海外の人々に効果があっても、そのまま日本人に当てはまるわけではなく、なかには“逆効果”になるものもあるという。見逃されていた「日本人特有の体質」を最新医学が解き明かした。
教えてくれた人
奥田昌子さん/内科医・医学博士・著者に『日本人の「体質」 科学が示す、人種と病気の新常識』(講談社)
欧米人とは異なる日本人の体質
「日本人と欧米人は外見はもちろん、『平熱』からして1℃程度違うと言われます。そのほか筋肉の付き方や脂肪の質、食物の消化吸収力、アルコール分解能力、腸内環境までもが異なります」
そう話すのは、『日本人の「体質」 科学が示す、人種と病気の新常識』(講談社)の著者で内科医の奥田昌子さん(医学博士)だ。人種で異なる「体質」の観点から日本人に合う健康法を説いた前著(2016年)の最新版として今年3月に上梓され、累計8万部超のベストセラーとなっている。
日本では人種による体質の違いが取り沙汰される機会は少ないが、様々な国の移民からなる米国は事情が異なるという。
「病の罹りやすさや発症の仕方は体質で変わるため、米国ではそれぞれの人種に最善の医療を提供する考え方を導入しています。たとえば高血圧リスクが高いアフリカ系米国人は、それ以外の人種より血圧を低く抑えるよう専門学会が推奨しています」(奥田医師、以下同)
四方を海に囲まれた日本では、欧米はもちろん他のアジア諸国とも異なる体質が作られてきた。
「遺伝的素因や生活習慣を含む環境要因が大きく異なるため、欧米で確立された病気の予防や治療法が必ずしも日本人に最適とは限りません」
健康のためのグルテンフリーが逆効果になることも
では、日本人の「体質」に合った病気の予防法や治療法とはどんなものか。
代表的な生活習慣病である糖尿病に関し、日本人と欧米人ではこんな違いがあるという。
「膵臓から分泌されるインスリンの働きが悪化し慢性的に高血糖が続く糖尿病ですが、そもそも日本人はインスリンの分泌量が欧米人の半分から4分の1しかありません。そのため、糖尿病になりやすい体質と言えます」
そんな日本人の糖尿病リスクを高める恐れがある健康法が、米やパンなどの炭水化物を避ける「糖質制限」だ。
「もともとインスリンが少ない日本人が炭水化物を減らすと、エネルギー不足で膵臓に負荷がかかり、機能が低下します。ただでさえ少ないインスリンがさらに減り、高血糖や糖尿病のリスクが高まる可能性があるのです。
日本人が糖尿病を予防するには糖質制限で肥満を予防するより、炭水化物を十分に摂取したうえで脂質を減らし、あらゆる生活習慣病の予防・改善に効果的な食物繊維を多く摂る食生活が大切だと私は考えます」
小麦や大麦などの食品を避ける「グルテンフリー」も、多くの日本人には不向きだという。
「小麦などの穀物には血糖値上昇を抑える食物繊維が豊富に含まれていますが、日本人の食物繊維摂取量はこの60年間で3分の2まで減少しています。日本人がグルテンフリーを実践すれば、さらに食物繊維の摂取量が減ってしまい、糖尿病リスクが高まる恐れがあると考えられるのです」
高血圧対策の鍵となる「カリウムの摂取」と「飲酒の習慣」
高血圧対策では、日本人の“変化”に目を向けるべきだという。
「高血圧予防に関して、日本では減塩が強調されてきた面がありますが、実は日本人の塩分摂取量はピークの1956年のほぼ半分になりました。厚生労働省『国民健康・栄養調査』(2024年)によると、日本人(20才以上)の塩分摂取量は1日平均9.6g。世界の10万人以上を対象にした研究では1日7.6〜15.2gが基準範囲と結論されており、日本人は目標を達成したことになります」
しかし、それで日本人の高血圧対策が十分というわけではない。体内の余分な塩分(ナトリウム)を排出し血圧を下げる「カリウム」の摂取不足が日本人にはあるからだ。
「カリウムを多く摂取する人ほど血圧が低いとの研究報告は多く、ナトリウムとカリウムを1対1の比率で摂取する高血圧患者は、降圧剤治療を中止できる確率が高いことがわかっています。
しかし、日本人はナトリウム換算の塩分摂取量1日約3.8mgに対して、カリウムは約2.3mgしか摂取できていません。野菜や豆類、芋類、魚介類に多く含まれるカリウムの摂取を心がけることが必要だと考えます」
同じく日本人の高血圧対策の鍵となるのが「飲酒」の習慣だ。
「日本人の約4割は遺伝的にアルコール分解酵素の力が弱いとされます。そのタイプの日本人は体内に入ったアルコールが長く留まり血圧が上がりやすいため、飲み過ぎには注意が必要です」
日本酒なら1日1合、ビールなら中瓶1本程度が適量と言えるという。
さらに奥田医師が「日本人最大の弱み」と指摘するのが、「内臓脂肪が付きやすい体質」だ。
「悪玉コレステロール(LDL)を減らすとされる不飽和脂肪酸を多く含むオリーブオイルは“体に良い油”とされますが、油は脂肪そのもの。欧米人に比べて内臓脂肪が付きやすい日本人が摂り過ぎると、かえって生活習慣病のリスクを高める可能性があります」
内臓脂肪が増えることのリスクは多岐にわたる。
「近年の研究で、内臓脂肪で作られる物質がインスリンの働きを低下させることが突き止められました。それらの物質には、血糖値を上げるほか、血圧を上げ、血中脂質の数値を悪化させ、動脈硬化を促すなどの作用があるとされています」
欧米式が「正解」とは限らない!日本人の「健康新常識」【まとめ】
炭水化物の摂取が糖尿病予防のカギ
日本人のインスリン分泌量は欧米人の4分の1。炭水化物の摂取が減ると、すい臓の機能低下により、インスリンの分泌がさらに低下し糖尿病リスクが高まるので、過度な炭水化物制限は控える。
グルテンフリーが糖尿病の引き金に
日本人の食物繊維摂取量は60年前の3分の2に減少。小麦、大麦を原材料とするパンや麺類などを極端に避けると、血糖値上昇を抑える食物繊維がさらに不足し、糖尿病リスクが高まる。
減塩だけで血圧は下がらない
日本人の塩分摂取量は70年前のほぼ半分となり、国際基準の範囲内。降圧効果があるカリウム(野菜や豆類、イモ類、魚介類に豊富)を十分に摂取していれば、過度な減塩は必要なし。
「体に良い油」が生活習慣病を招く
不飽和脂肪酸が多く含まれるオリーブオイルなどは「体に良い油」とされるが、油は脂肪そのもの。摂り過ぎで内臓脂肪を増やし、生活習慣病リスクを高める可能性がある。
写真/PIXTA
※週刊ポスト2026年5月29日号
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